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■ 八王子1・北 ■

 三日間にわたる学会が終わり、久々に日の光を浴びたような気がした。八王子のとあるホテルを出て、北本太一は大きく伸びをする。いやあ、だご疲れたばい。窮屈な会場から飛び出すことで解放感を味わえるだろうと期待していた太一だったが、周囲はビルで囲まれていて空はとても狭かった。東京の二十三区内ではないのに、下手すると地元より都会なんじゃないかという街並みを見て辟易とする。いやでも、さすがに熊本の方が都会かな。なんだかんだ九州では福岡に次いで第二の都市なのだ。それが東京の特別行政区外の自治体に負けているようではさすがに悲しくなってしまう。

 八王子の駅舎に向かいながら、太一は右手に付けた腕時計を見やった。時刻は十三時を回ったくらいである。飛行機が発つまでは、まだかなりの時間があるようだ。東京まで連れてきてくださった先生たちは、学会での発表を終えると患者さんが待っているからと太一を残し昨日のうちに帰ってしまった。太一は、先日ようやく六年生になったばかりの医学部の学生だった。医学部では四年生か五年生くらいから大学病院での実習が始まるのだが、頭から手足に至るまで色々な臓器ごとに診療科が細かく分けられているので、それぞれの診療科ごとをローテーションするような形で実習を受けることになっている。太一は三月末にちょうど消化器内科を回っていて、その分野に割と興味を持ったこともあり、指導してくださっている先生方から熱烈な勧誘を受けた。その結果、春休み中に東京で消化器内科学会があるから、観光がてら付いて来ないかと誘われ、ノコノコとやって来たのである。要するに、大事な新入局員を確保するための経費として、医局が旅費を全て負担してくれたということだ。

 券売機で浜松町までの切符を買った後、自動改札機を通り抜けて中央線のホームに出る。途中下車して何処か寄り道することも考えたが、正直そこまで行きたい場所がある訳でもなくお金が掛かるだけなので、東京駅での乗り換えの時に、改札内で適当にうろついて帰ろう。せっかく東京に来たのだから、可愛い女の子でも捕まえて帰りたいところではあるのだが、東京の女性は歩く人みんなが冷たい目をしていて、どうも声を掛けづらい。それに、こうやって見ていると熊本の女性はやっぱり美人が多いのだと気付かされる。その昔、熊本城を築城した武将が美しい女性を集めたのだそうだが、もしそれが本当だとしたら、彼には心から感謝したい。つまりは駅でお土産でも探して歩き、それを熊本の女の子に配った方がよっぽど良いのではないだろうかということだ。よし、決めた。そうしよう。

 ホームにはちょうど東京行きの快速電車が滑り込んだところで、太一はそれに乗り込んだ。


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