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■ 東京1・南 ■

 和也が異変に気付いたのは、新宿から東京行きの中央線快速に乗った直後のことであった。何気なく取り出したスマートフォンの待機画面の背景が、見覚えのない写真に変わっていた。これは、海の写真だろうか? 綺麗な青々とした水面に橋が掛けられていて、対岸には街並みらしきものが見える。対岸が見えるということは、川? それにしては幅が広すぎるような気もする。瀬戸内海にも橋はかかっているがそれらしくは無いし、お台場のレインボーブリッジとも違うようだ。とにかく、自分で撮った覚えすらない写真が待ち受けに変わっていたことに困惑していると、ふとひとつの可能性に気が付いた。和也のぶつかった、ストレートの長い黒髪の女の子が、その直前に両手に握りしめていたスマートフォン。それは、確かに水色のボディだった。和也が所有しているのと同じ、何者かに囓られたらしいリンゴのイラストが後ろにプリントされたパステルカラーのスマートフォンである。ひょっとしてあの時、間違って彼女のスマートフォンを持ち帰ってしまったのでは無いだろうか。まさか。もしそうだとしたら、どうしよう。名前も知らない、おそらく二度とすれ違うことすら無いであろう彼女を探し当てることなど不可能であるように思える。これは困った。非常に困った。きっと今頃、彼女も同様に戸惑っていることであろう。何処の誰かも分からない男の携帯電話を持ち帰ってしまい焦っているに違いない。どうしたものか。ひとまず紛失したのだから、携帯ショップへ行って契約を停止してもらわないといけないな。もしも彼女と連絡を取ることができれば、何も問題は無いのだが……ん? 連絡を取る?

「そうか……簡単じゃん」

 隣に立つジャージ姿の女子高生が、不審者を見るような目で和也の方を振り返ったので、慌てて口を抑える。またやってしまった。恥ずかしくなって、和也は逃げるように隣の車両へ移動した。そしてもう一度冷静に思考を巡らせる。今度は、独り言には十分に注意をして。そうなのだ、先程ぶつかった彼女は今、和也のスマートフォンを持っているのである。つまり、自分自身のスマートフォンに電話を掛ければ、彼女と連絡が取れるのである。いくらなんでも自分の電話番号くらいは覚えていたので、これで無事に取り戻せるなと安心した。よし、東京駅に着いたら早速電話してみよう。


「本日も、JR東日本をご利用いただきまして、まことにありがとうございました。東京、東京です」

 緩やかに速度を落とす車両が完全に停車するのを待ってから、扉の方に移動する。ガタンとドアが開き前の人が動き出すのに続いて、和也もホームへ降りた。人気の無い所を探すも流石は東京の名を関した駅だけあって何処も人でごった返しており、なかなか落ち着いて電話を掛けられそうな場所は見当たらない。仕方なく通路の脇に避けてスマートフォンを取り出す。ホームボタンを押して、ロック画面に切り替えた段階で和也はハッとした。四桁の暗証番号が分からなければロックは解除できないではないか。和也自身は七月二十日生まれであったので、パスワードを0720に設定していたのだが、彼女もたまたま同じ誕生日である確率はうるう年の二月二十九日も含めて三百六十六分の一である。そもそも、彼女が和也同様に単純な考えの持ち主とは限らないし、何らかの日付をパスワードにしているとも限らないので、実際には一万分の一の確率になる。適当に試してみようにも当てがないので、セキュリティのため動作ができなくなってしまうのがオチだろう。仕方がない、公衆電話でも探すか、と思ったところでそういえばもう一台、職場から支給されたフィーチャーフォンを持っていることを思い出した。フィーチャーフォンとは、いわゆる「ガラケー」と呼ばれる昔からある一般的な携帯電話のことである。もちろんそうでないものも多数あるのだが、パカパカできる奴、などと説明した方が分かりやすいかもしれない。取引先とのやり取りをするために、職場から支給されたものだった。通話料はもちろん会社持ちなので、私用で使うことにしばしば抵抗はあるのだが、今は緊急事態であるのだから仕方がない。和也は持っていた鞄からそのパカパカ電話を取り出すと、すぐさま自分のスマートフォンの番号を押した。アンテナは3本立っており、電波は十分である。

『……です。お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、掛かりません。こちらは、ソフトバン……』

「……あれ?」

 スピーカーの向こう側から聞こえてきた音声に首を傾げながら、和也は通話終了のボタンを押した。あの女の子とぶつかる直前、和也は確かにスマートフォンで道を調べていたので、電源を入れていたはずだ。ということは、彼女が意図的に電源を切ったのか、電波の掛からない所に居るのか、どちらかということである。はて、今時は地下鉄の走行中であっても電波が入るはずなので、この大都会東京にそんな場所があるのかどうか分からない。まさか、壊れていやしないよな。そんな一抹の不安がよぎる。

「仕方ない……できれば東京にいるうちに取り戻したかったんだけど……」

 仕事の関係で夕方までには会社に戻らないと行けないので、今直ぐ取り返すことは諦めて東京駅を後にすることにした。最悪の場合、夜にまた出てこないといけないかもしれないな。憂鬱になって、ハァと深い溜め息を吐く。グゥとお腹が鳴り、そういえばまだ昼ごはんを食べていないことを思い出した。篠山駅まで戻る特急電車の中で駅弁でも食べることにしよう。携帯電話をしまいふと顔を上げると、すぐ近くに売店があったので和也はその店内へと入って行った。

現在所有しているスマートフォン

南野和也→東 東山朋夏→南


※記号の意味は、「※ 前書き ※」を参照ください。

※入れ替わりが発覚するまではネタバレ要素になってしまうため、

 上記は全話に記載している訳ではありません。

※入れ替わりが発覚する度に、あるいは必要に応じて記載していきます。

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