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■ 京都4・南 ■

「これ……私のじゃ、無いです」

 自分のスマートフォンが帰ってきた事に安堵したのも束の間、朋夏のその言葉を聞いた時、和也はすぐにはその言葉の意味を理解できなかった。私のではない? いったい、どういうことだ? 彼女の手に渡っていたスマートフォンは間違いなく和也の物で、その逆、和也の手元にあったあのスマートフォンは、間違いなく彼女の物であるはずだ。そう、思い込んでいた。それが、違った? 何故?

「えっと……東山さんのスマホでは、無いですか?」

 状況を飲み込みながら、和也は尋ねた。彼女の勘違いという可能性もある。あるいはあの時、第三者のスマートフォンがあの場所にたまたま落ちていたのか? そうだとしたら、彼女のスマートフォンは未だにあの新宿五丁目東交差点に落ちているということになるだろう。いや、流石に今はもう誰かが拾ってくれているだろうけれど、そうだとして──どうするんだ?

「どういうこと、ですか? 私のスマホ、何処に行ったんですか?」

 苛立ったようにそう彼女が言ったので、和也は狼狽した。本当に、何処に行ったんだ? スマートフォンに足が付いていて夜寝ている間に勝手に入れ替わったなんてはずもなければ、大阪駅近くの何処かの交差点で今朝同じように誰かとぶつかりスマートフォンが入れ替わったなんてことも起こっていやしない。そもそもそんな非現実的なこと、起こるか? いや、そんな非現実的なできごとが実際に起こったんだったな。ということは、スマートフォンに足が付いていた、なんてことだって、もしかしてあったのかもしれない。

「ごめんなさい、南野さんに文句を言っても仕方がないですよね……」

 深く溜め息を吐きながら朋夏が言うのを聞いて、和也はハッと我に返る。何言ってんだ、そんなはずないだろう。

「いえ、大丈夫です、すみません。でも、何故でしょう……」

 心を落ち着けながら、和也は考えた。

「確かに新宿で入れ替わってから、ずっとこのスマートフォンを持って……」

 不意に、脳裏に麻衣子の姿が浮かんだ。

「あ……」

 ずっとは、持ってないじゃないか。麻衣子とスマートフォンがさらに入れ替わっていた時間があったことを思い出す。

「あ……?」

 訝しげに、朋夏が和也の顔を覗き込んだ。困った。どう説明しよう。そうだ、そうじゃないか。よくよく考えたら、和也がスマートフォンの入れ替わりに気付いた時、待受画面は何処かの綺麗な海にかかる大きな橋の写真だったじゃないか。先程彼女に渡したスマートフォンの待受画面は、黒い熊のゆるキャラだ。全然違う。

「えっと……信じられないかもしれませんが……」

 和也は昨日、幼馴染の女の子と再会し、その子もたまたま同じ機種のスマートフォンを持っていたこと、その子との間でもしばらくスマートフォンが入れ替わってしまったことについて簡単に説明した。そんな和也の話を、朋夏はずっと眉間に皺を寄せながら聞いていた。とても怖い。

「嘘みたいな話ですけど、そもそも私と南野さんのスマートフォンが入れ替わったこと自体、嘘みたいな話ですし、現に私の手元にあるこのスマートフォンは私のものじゃないので、信じることにします。で、つまりは今、そのスマートフォンはその女の子が持っているということですか?」

「おそらくですが……」

 と、その時、朋夏のスマートフォンがタイミングよく音を鳴らした。そういえば、さっき市外局番「096」から着信があったな。あれが、このスマートフォンの真の持ち主からの電話だったのかもしれない。

「そういえばさっき、096って市外局番の番号から電話があったんです。持ち主の人からかもしれませんね」

 ん、待てよ、「096」? 少なくとも、麻衣子のいる福島県の市外局番ではないはずだ。それに、黒い熊のゆるキャラ? なんだか、無性に嫌な予感がする。

「公衆電話から、ですね」

 スマートフォンの画面を睨みながら、朋夏が言う。顔を上げた朋夏と目が合って、和也は頷いた。それを見て、朋夏は通話に応じた。会話が聞こえるように、スピーカーボタンを押してくれたらしい。スマートフォンの向こう側から、あ、と反応する声が聞こえた。

「もしもし……?」

 朋夏が応じると、相手は安堵したように、言葉を発した。そしてそれが麻衣子のものではないことを、和也はすぐに知ることになる。名前を確認するまでもない、男の声だったからだ。

「もしもし、急な電話ですみません、もしかして、スマートフォン、入れ替わってませんかね?」

 和也と朋夏は、再び顔を見合わせた。

「入れ替わってます! えっと、これ、何処で入れ替わりましたっけ?」

「え? 嫌だな、東京駅の中にあるカフェですよね? ほら、向かいの席の子供がいたずらした時に」

「どういうことだってばよ……」

 思わず声に出してそう言ってしまい、和也は慌てて手で口を塞いだ。朋夏は特に気に留める様子もなく、会話に応じた。

「そう、ですね……えっと、できればスマートフォンを交換したいと思っているんですけど、今、もしかして東京におられますかね? 私実は今、東京にはいないんですが……」

「いえ、実は、僕も東京にはいないんです」

 和也はドキリとした。「096」、黒い熊のゆるキャラ。あぁ、やっぱり嫌な予感がする。

「今、熊本にいるんですよね」

 日本って、なんて広い国なんだろう。和也は頭を抱えながら、そう思った。


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