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■ 郡山1・西 ■

 これからの新天地となる比較的築年数の浅い綺麗なアパートの一室で、西島麻衣子は悶々としていた。スマートフォンに触れては誰からも連絡がきていないことを知り、ハーッと深い溜め息を吐いては枕に顔を押し当てる。朝目を覚ましてから、かれこれ何十回と同じことを繰り返していた。いや、ひょっとしたらもう何百回はしているかもしれない。ダメだ。本当に何も手につかない。胸が苦しくて、食欲も湧かない。

 昨日、夜遅くの東京駅で麻衣子は和也に告白をした。すぐに返事を得ることはできず、麻衣子は和也に昨日の明日、つまり今日のうちに返事をしてくれたら良いと伝え、東京駅を後にした。その返事を、麻衣子は今か今かと待ち続けている。返事がなければ、それはすなわち麻衣子の失恋を意味しているのだが、もしも今日の日付が変わる瞬間までこんな時間を過ごすことになるのだとしたら、それはもはや拷問でしかない。こんなにも苦しいのであれば、返事がなければ諦めるとは言ったものの、ごめんなさいという返事でも構わないから早く連絡をして欲しかった。また、ソーッとスマートフォンをひっくり返し、ホームボタンを押す。やはり新着メッセージの通知はなく、何度目かの溜め息を吐いた。

 時計を見ると、既に十二時を回っていた。さすがに何か食べないといけないと思い、近所を出かけてみることにした。財布とスマートフォンを小さなショルダーバッグの中に放り込み、玄関の鍵を掛けて外に出る。部屋の中は真新しかったのに、屋根の隙間から差し込む雨のためか既に少し錆び付き始めてしまっている鉄製の螺旋階段を降りていきながら、麻衣子はバッグからスマートフォンを取り出した。郡山駅から歩いて十分程の比較的拓けた場所のアパートを借りたので、喫茶店くらいならすぐ近くにもあるはずだ。スマートフォンの地図アプリで調べてみると、線路の向こう側に大きなショッピングモールがあるらしい。とりあえずそこへ行ってご飯でも食べることにしよう。住宅街の合間を抜けてビジネスホテルの横を通り過ぎると大通りに出た。スマートフォンの画面を睨みながら、左方向に曲がっていくと、程なくして線路が見えてくる。歩道は在来線の線路を乗り越えるように陸橋になっていて、時計回りに螺旋状となっているスロープをグルリと周り、新幹線の線路との間を潜り抜けて進むと、麻衣子のアパートがある側と比べると少し控えめにポツポツと大きな建物が並んでいた。左手方向が郡山駅なので、こちら側が駅の裏口に当たるのだろう。右手方向にショッピングモールはあるようだが、見渡してみてもそれらしい建物は見えない。大きなマンションがいくつか建っていて、それに隠されているのだろうか。再びスマートフォンに視線を落とす。地図を見るに、道を間違えてはいないようだ。ついでに和也からの連絡にも期待するが、残念ながらまだ返事はきていないらしい。フーッと小さく息をつき、陸橋を降りていく。地図が示す通りに細い道で右に曲がり、住宅街のような静かな道を進んでいく。こんなところに本当にショッピングモールがあるのだろうかと不安に思っていると、道の突き当りにようやくそれらしい建物が見えてきた。ちょうど建物の裏手らしく入り口がないため分かりにくいが、グルリと回るとようやくショッピングモールであることを示す看板が姿を見せる。それに合わせて、麻衣子のお腹の虫がグーッと鳴き声を上げた。体を動かしたお陰なのか、先程まで全く感じられなかった空腹感が、麻衣子がまだちゃんと生きているのだということを教えてくれた。良かった。もしかしたら私はこのまま死んでしまうのではないかと思っていた。とにかくなんでも良い、何か心が温まるような、そんな美味しいものが食べたい。そうして、すぐにマイナス方向を向いてしまう思考を別の方向に持っていかなければ、麻衣子の弱々しい心は一瞬で崩れ落ちてしまうだろう。一秒間だけでも彼のことを忘れられるように。そして仮にどんな返事が来たとしても、前向きでいられるように。指一本触れただけで壊れてしまいそうな、そんな臆病でポッカリと穴が開いてしまいそうな気持ちが少しでも紛れてくれるように。

 ショッピングモールの入り口の自動扉を潜りながら、麻衣子はこんな心境でも声を上げてくれた自分の腹の虫に感謝した。

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