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■ 羽田1・北 ■

 羽田空港に太一が到着したのは、飛行機が出発する四十五分ほど前だった。ちょうど良い時間に着いたと思いながら、まずは飛行機の搭乗手続きを済ませる。大きな荷物は全て預け、手荷物検査所へと進み、ショルダーバッグに入れていたスマートフォンや財布などは用意されていたトレイに入れて行列に並んだ。いつもこれだけ厳重に検査しているのに、飛行機ジャックを起こす犯人はどうやって武器を機内に持ち込むのだろう、なんてことを考えていると、程なくして太一の順番となり金属探知機らしい鳥居のような柵を潜った。頭上のランプが緑色に点灯したのを見て、危ないものを所持していないと認められた太一は、預けたトレイの中身を再びショルダーバッグに詰め込んで、離陸する飛行機の搭乗口を目指した。通り過ぎざまに六十一番ゲート近くに売店を見つけ、機内で飲むための緑茶のペットボトルを一本購入する。これで東京から飛び立つ準備は万端だ。周囲を見渡し時計を見つけると、現在時刻は十七時半を回った所であった。ただでさえ羽田空港は広く、搭乗口もまだ少し離れているので、ちょっと急いだ方が良さそうだ。どうやら太一が乗る飛行機はバスで少し移動してから直接飛行機に乗り込むことになっていて、少し急ぎ足で七〇二番と書かれたバス出発ラウンジへ向かうと、ちょうどバスが出発しようとしていた所でそれに乗り込んだ。バスはすぐに動き出して、少し離れた所に停まっていた巨大な飛行機に近付き停車する。乗降口の扉が開くとゾロゾロと人が降り始め、それに付いて行くように太一もバスを降り、設置されたタラップから機内に乗り込んだ。搭乗券を確認し自分の座席を見つけ、腰を下ろす。なんとか間に合ったなと安堵して息を吐く。飛行機はあまり乗り慣れていないこともあって、いつも間に合わなかったらどうしようかと思いひやひやするのだ。六年前に太一の故郷・熊本にも開通した新幹線であれば、仮に指定席を予約した新幹線に乗り遅れたとしても、自由席であればその後の新幹線にも追加料金なしで乗車することができるのだが、飛行機ではそういう訳にもいかない。乗り遅れれば一巻の終わりなのである。

「皆様こんにちは。本日も、日本航空六四七便をご利用くださいまして、ありがとうございます」

 女性の声でアナウンスが始まり、まもなく離陸することを知った。思い出したようにシートベルトを締め、ショルダーバッグからスマートフォンを取り出し電源が入っていないことを確認する。尤も、電池切れのはずなので電源は入らないはずだが……なんて思いながら電源ボタンを押すと、中央にかじられたリンゴのマークが表示され、スマートフォンは起動されてしまった。あれ、しばらく時間が経った間に電池が少しだけ回復してくれたのだろうか。そうであったなら面倒なことをしてしまった、もう一度電源を落とさないと。

「携帯電話など電波を発する電子機器の使用や、化粧室内の喫煙は法律で固く禁じられて おります。すべての電子機器の電源が切れているかどうかお確かめ下さい」

 ちょうど添乗員の女性がマニュアル通りにそう注意するので、太一は慌てて電源を切ろうと電源ボタンを長押しする。しかし、まだ起動しきっていないためうまく反応してくれない。数秒の後、ようやくスマートフォンに数字キーの画面が表示され起動完了したことが分かったのだが、同時に何か得体の知れない違和感を感じた。何だろう。何かが変だ。

 パスコードを入力せず、右下のキャンセルをタップする。画面から数字の羅列が消え、現在時刻とともにロック画面が表示された。見覚えのない海に橋が掛けられた風景の写真。

 どういうことだ。いつのまに待ち受けの画面はこんな画面に変更されてしまったというのか。そもそも、撮影した覚えのない風景であるし、初期設定の中にもこんな写真があったかどうかは分からない。思い立って、試しにパスコードを入力してみる。〇、三、五、五と入力するも、ブルルと振動し数字が間違っていることを伝えられた。おかしい。自分のスマートフォンのはずなのに、まるで知らない誰かのスマートフォンを持っているかのような感覚だ。

 ──ん? 誰かのスマートフォン?

「あ!」

 太一は、思わず立ち上がろうとするが、シートベルトに遮られ、立ち上がれずストンと背もたれにもたれ掛かるように倒れてしまった。

「あの、お客様、大丈夫ですか? まもなく離陸しますので、立ち上がらずそのままでお願い致します」

 キャビンアテンダントの女性が苦笑いで声を掛ける。いや、違う。今はそれどころではない。それどころではないのだ。

「それから、スマートフォンの電源をお切り頂いてよろしいでしょうか?」

「いや、でも、あの、これ……」

 しどろもどろしていると、不可解そうに首を傾げ、女性はどうなさいましたかと尋ねた。なんとか状況を説明しようと試みたが、残念ながらまだ太一の頭の中で状況を整理できていなかった。

「いえ……なんでもないです、すみません」

「申し訳ございませんが、電源をお切り頂いてもよろしいですか?」

 言われるがまま、電源ボタンを長押ししてスマートフォンの電源を落とす。落ち着け。まずは、落ち着こう。そう、先程感じた違和感。このスマートフォンが自分のものではないという感覚。それは正しい。これは太一のスマートフォンではないのだ。思い当たる節がある。東京駅のカフェで一息ついていた、あの時だ。向かい側の席に座っていた少年が、太一の隣りにいた女性のスマートフォンと入れ替えてしまったのだ。間違いない。そうでなければ現在の状況の説明がつかない。

 待ってくれ、まだ離陸しないでくれ。お願いだ、頼む。俺にはまだ、東京で探さなくてはならないものがあるのだ。

 心の中でそう訴えるも当然飛行機は待ってくれやしない。あれやこれやと解決策を練るも良い案は何も浮かばないまま、飛行機はゆっくりと動き始めた。もう、どうにもならない。諦めるしかない。熊本に着いたら、携帯ショップに行って携帯を止めて貰おう。滑走路を走り始めた飛行機の中で、太一はそう覚悟を決めた。

現在所有しているスマートフォン

南野和也→西 東山朋夏→南 西島麻衣子→北 北本太一→東


※記号の意味は、「※ 前書き ※」を参照ください。

※入れ替わりが発覚するまではネタバレ要素になってしまうため、

  全話に記載している訳ではありません。

※入れ替わりが発覚する度に、あるいは必要に応じて記載していきます。

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