花を愛した人
「なにをやられてるんですか」
私は墓の前で土をいじっている婦人を不思議に思い声を掛けた。
「花が好きな人でしたのでいつでも見られるように傍に植えているんです」
「花なんか買ってくればいいでしょう」
私は下げていた花を婦人に見せるように持ち直す。
「うふふ、あの人は買ってきた花が嫌いだったんです。いつだったか理由を聞いた時なんて答えたと思います?」
「さあ?花は花でしょう」
私は首を傾げながら言った。
「『本当に花が好きなやつは摘んだりしない』って、難儀な人でしょう」
「それでわざわざ植えてるんですか」
「ええ、めったにこれないので枯れにくい花を選ぶのに手間取ったんですよ。でもあの人は花が咲くのを見たほうが喜ぶだろうって私は思うんです」
私は手に持った花を無言で見つめた。
「この草花たちを見ていると人間には決して奪えないものがあると思うんです。こんな小さな命にだってあるんですもの、きっと人間にもありますよ、あなたにも私にも」