助走~舎弟とイケメン
「俺空手部に入部したいんですけど」
僕がいつものように道場に向かっているとき、廊下で声をかけられた。
しかし、その声の主はえらく背が低い。
「君は……?」
「俺、X中学の2年のセイヤっていいます」
中学生がこんなところにいるのも謎だが、しかも空手部に入りたいとはどういうことだろう。
「覚えてないですか。俺、先輩に助けられたことがありまして……」
そうだ。僕は思い出した。
○
その日僕はいつもの通り道場帰りで夜遅かった。
そして駅に着くと、どうやら中学生がチンピラに絡まれている。
カツアゲのようだ。
3人のチンピラの一人には見覚えがあった。
かつて僕をシメた番長の取り巻きの一人である。
僕はあれ以来S高の番長マサキをつぶすことだけを目標に空手をやっている。マツダの前ではいい子ぶっているが、もはや道義など関係ない。いつか奴をとっちめてやるとそればかり考えている。
だから奴の取り巻きを見てにわかに当時の悲憤がこみ上げた。
しかし同じ轍を踏むわけにはいかない。無謀と勇気は違う。
僕は放置された自転車に乗りこむとそのチンピラどもに突っ込んでいき、散らばった奴らに対して一人ずつみぞおちに怒りの正拳をくらわせて卒倒させた。
喧嘩は兵法。
今でもトオルは僕の先生である。
○
正直僕は面倒くさがりで、後輩など持ちたくはなかったが、
「後輩を持つことは自覚を高める」
とマツダは言い、セイヤはそれから道場に通うようになった。
学校では僕に舎弟ができたとか妙な話題になり、人づきあいの苦手な僕に話しかけてくるクラスメイトが増え始めた。