助走~今日からイケメン
目が覚めると病院だった。
そう。またしても僕は生死の境をさまよっていたのだ。
事の次第はこうだ。
その日僕はS高の校門にいた。
目的はもちろん、亜里沙を蹂躙したあのS高の暴れ馬をつぶすためだ。S高に通うトオルが調べ上げてくれたおかげで、すでに奴の周辺情報については把握していた。
名はマサキ。
すでにS高の影ではNo.1の座につき、逆らうものは生徒はおろか、教師ですらほとんどいないというから相当な力を持っているらしい。
しかし僕に怖れはなかった。
亜里沙を傷付けられた悲憤に突き動かされた僕は、まっすぐに奴のいるであろう体育館裏に向かった。今の僕の怒りにかなうものなどない。そんな盲目的な考えだけで突撃したのだった。
そしてこれだ。
僕はあばらのあらかたを粉砕され、全身を強く打って病院へ搬送された。それも奴の取り巻きの、たった一人によってこのざまである。
目撃者はなく、奴らはお咎めを免れた。
警察の調べに僕は真実を口にすることを頑なに拒んだ。これは僕の戦いなのだ。
「お前は馬鹿だな」
トオルは言った。
僕の勇敢さを少しなりとも褒めてくれると思っていたから、これには傷ついた。
「勇気と無謀は違う。亜里沙が大事ならまずお前自身を大事にしろ」
「……はい」
「まあ元気出せ。ぼこられてなかなか男ぶりが上がったじゃねえか」
鏡を見ると目はパンダのようになり、顔はあちこち腫れている。どこが男らしいのだろうか。
「そういうもんだ男は」
彼が帰った後、僕はかろうじて動く左腕に何かつかんでいるのに気づいた。
「これは……じいちゃん……」
またしても手紙だった。
昏睡している中で、僕はまたじいちゃんの夢を見ていたのか。
痛みに耐えつつ、左手だけでくしゃくしゃの紙切れを広げる。
--たけしはレベルが上がった。Cクラスのイケメンになった。
よくわからないが、僕はレベルが上がった……。