挫折~出会うはイケメン
トオルとはもともと反りの合う間柄ではなかった。
小学生当時から僕は人づきあいが苦手な臆病タイプだったし、一方で彼は当時から長身でいかつい体格を揺らし、古いタイプの餓鬼大将も一歩譲るくらいの面相で一匹狼を気取っていた。
そんなわけだから、彼が一人で幼い妹をあやしつつスーパーで安いお惣菜とにらめっこしているところにはち合わせたときには、刺し殺すような睥睨を受けてほとんど卒倒した。
彼の家にも事情がありそうだったし、きっと友人には見られたくない現場だったのだろう。それほど彼は自分と他人に一線をひいていた。
大騒ぎしたせいで僕の母親は飛んでくるし、あろうことかトオルに話しかけて偉いだのなんだの褒めそやすし、僕は気が気ではなかった。
そんなことがあったあと、僕の母親は家事のことや妹の世話のことなど、トオルの困りそうなことを会うたびにアドバイスするようになった。トオルもよほど難儀な事情があるのか、時には僕なんかの家にきて、そのまま泊っていくことすらあった。
会話も弾まないまま二人でテレビゲームをしていると、僕はだんだん彼が思うほど怖いやつではないのかもしれないと思い始めたのだった。
○
「少しは頑張ってんだろーな」
ハンバーガーをむさぼりながらトオルは言った。
買い食いの習慣は僕にはないが、トオルといるときはいつも駅前のファストフード店にくる。
「まあ……一応」
「一応じゃねえだろうが。お前どんなペースで成長しようとしてんだよ。こんなんじゃ復讐するより先に卒業しちまうだろうが」
復讐。
そう、僕は亜理紗を蹂躙したあの男に復讐するのだと、彼に言ったのだ。
家に引きこもっていた時、僕に唯一湧きあがってきたエネルギーはそれだけだったのだから……。
「まさかもう決心が揺らいだのかよ?」
トオルは手に持ったカップをタンッとテーブルに叩きつけるように置いた。
「いいか、いい機会じゃねえか。お前は奴に復讐する。俺も奴は気に食わなかったしな。そしてそのためにお前は成長するんだ。そして傷心の亜理紗を慰めてモノにしろ」
「それは亜理紗になんか失礼じゃないか。傷ついてるのにモノにするとかどうとか……」
「うるせえ、そんなことはわかってんだ。ぐちぐち理屈こねんじゃねえ、要はみんな幸せにすりゃ問題ねえだろうが。ちいせえ事にこだわってるとなんもできねえだろ。毒にも薬にもならんよりは毒になれっつってんだ」
相変わらず歯に衣着せぬ物言いをする。
それから彼は言いすぎたと思ったのか、一心に食べる姿はどこかばつが悪そうだった。
とはいえ悲しいことに僕が毒にも薬にもならないような存在なのは確かだ。
僕は変わらなくてはならない。
紳士の教典を踏みにじり、僕の空を引き裂いたS高の暴れ馬め。許すまじ。