挫折~太陽に向かってイケメン
「上級のイケメンはみだりに触れてはとても危険だよ。」
ようやく意識がしっかりしてきた僕に医者は静かに語りかけた。
「とくに君のような……なんというかイケメン度数の著しく欠乏している者は気をつけないと寿命を減らすことになりかねない。同じ空気を吸うだけで彼らは生気を奪い取るからね。」
まだ痛む頭をさすりつつ僕は医者の言葉に多少傷ついた。それに、イケメンが生気を吸い取るというのはなんて非科学的な話をするんだ……。
医者が行ってしまうと、僕は鏡を見、窓の外に見える青空を見てため息をついた。
「僕だってなりたくてぶさめんなんじゃない……。」
ふと僕は胸ポケットにいつのまにか入っていた紙きれに気がついた。
とりだしてみると驚いた。そこにはかつて達筆でならしたおじいちゃんによく似た字で、こう書かれていた。
――たけし。お前はもう一度チャンスを得た。この命大切にするがいい。
朦朧とした意識のなかでみた夢は、どうやらただの夢ではなかったのかもしれない。僕は高鳴る胸を落ち着けつつ読み進めた。
――ただし条件がある。運命の女神さまはひどく気分屋だ。そして面食いだ……。いいかたけし。お前はイケメンを目指し、いつの日か真のイケメンとなって人のためにならねばならない。そうしなければたけし、お前の大事な人たちがお前の運命の負債を負うことになってしまうだろう……。
なんてことだろう。むしろ状況は最悪なのではないだろうか。
おじいちゃんも余計なことをしたものだ。僕などほっておいてくれればよかったのに。
などと考えつつも僕はこの呪いの紙きれを信じちゃいなかった。誰かのいたずらに決まってる。退院したのちも僕は相変わらずな生活を送っていた。もうお洒落なセレクトショップにも、原宿にもいかない。
相変わらずなな生活をしていた。
そんなある日、事件が起きた。
あるクラスの女の子がイケメンの被害に合って重傷を負ったというのだ。
なんでも、持ち前のイケメンパワーでその女の子に言い寄ったイケメンは、イケメンエネルギーを抑えきれずに女の子を傷つけてしまったというのだ。
僕は激怒した。
女の子は僕の幼馴染で、一時はその博愛の心根に惹かれた初恋の相手なのだ。
かならずやかの暴虐のイケメンを誅すると決めた。
しかし僕にはイケメンを誅するだけの力も勇気もない。女の子を見舞う勇気すら出ないまま裏山で泣いていた。