上昇~まさかのイケメン
「あらあら、こわい顔して」
そう言いながら由香里は僕の隣に座った。
僕はしらけたような目で彼女を見つめてみたが、意にも介していない様子でお酒を作り始める。
「あのさ」
「セックスはもうしないわよ」
僕はあっけにとられてしまい、それ以上言葉をつげなくなった。
僕がいつも後手にまわるはめになるのは、彼女のこういう突拍子もない話し方であることに最近気づいてきた。しかしだからと言って機先を制する方法など思いつかないし、第一僕は彼女のその言葉にいささか失望させられて反撃の気持ちすらうせてしまっていた。
とはいえがっかりした風を気取られるわけにもいかなかったため、僕は努めて平静を装って諭すように言った。
「そうじゃない。剣道部の、ユウイチってやつの話だよ。君の差し金なんだな?」
「あら、面白くなかった?」
「いや、できれば普通に紹介してくれると助かるな。あんまりハプニングは好きじゃないんだ」
そう言ってようやく僕はたまった失望をためいきにした。
「でも別に悪い話じゃないでしょ?感謝しなさいよ」
そう。実は感謝すべきところではある。ユウイチの友達が抜けたがっている組織と言うのがまさにマツダを誘拐したあの連中なのだ。なにはともあれ僕は目的がおおむね共有できる同志を得たことになる。
「それについては感謝してるよ」
僕はアーモンドを口に入れ、なにか釈然としない思いとともに噛み砕いた。
今日はやたらと由香里のお酒のペースが早い。楽しそうにスケベ親父について愚痴る彼女を見ながら僕は少しの間時を忘れた。
「ユウイチは友達なのか?」
「ん?気になるの?」
いや別に。
そう簡単に彼女のペースには乗るわけにはいかない。僕は適当に話を流してそろそろ席を立つことにした。
「ちょっと待って」
会計を済ませて帰りかけると、由香里は僕を引きとめた。
「ハンカチが必要になっちゃった。じゃあいつものコンビニで」
それだけ言うとさっさと店の奥に引っ込んだ。
僕はさすがに赤くなっていたかもしれない。




