助走~場末のイケメン
それ以来、僕はひたすら自己鍛錬に打ち込みながらおじいちゃんの忠告のことを考えていた。
そもそもあれは本当の話なのか。
本当だとすれば、イケメンが生気を吸い取るとか、Cクラスがどうとか、あれはいたずらではないというのか。
思えば最近の僕はとても充実していた。
それまでには考えられないような、満ち足りた学校生活に変わっていた。それもあのS高の番長に殴りこみをかけて入院した時。満身創痍の僕の手にあった紙切れにCクラスのイケメンを宣告された時からではなかったか。
おじいちゃんの夢をあれだけ鮮明に見たことで、僕は徐々に信じ始めていた。
僕はこの世でイケメンとなり、人を救わねばならないのかもしれないと……。
そんな僕の苦悩を察してか、マツダは僕を夜連れ出した。高校生が来るようなところじゃない、繁華街の裏の裏、ささやかなスナックだった。
「あらいらっしゃい、せんせ」
なかなか人生のベテランの香りを漂わせた円熟したママの案内で店の奥の静かな席に座った。
「面白いだろ」
面白いかどうかよくわからないけどちょっと緊張はする。
僕らはしばらくなんでもない話を交わしたが、先生も徐々に酒が進んでくる。
「まあ飲めよ」
「いや、できませんて」
そんなやりとりをしながらマツダもつい声が大きくなる。
「おめーはよお!自由だぜ。自由!」
酔っ払いのたわごとなのか、何か伝えたいのかわからない。
「若いってのはいい!お前は好きなことしてるのか?」
「まあ割としてますかね」
「それよ!」
そう言うとマツダは立ちあがって叫んだ。
「ママ!この童貞に大人の味を教えてくれ!」
「ばーか」
ママには軽くあしらわれていた。
帰ったあと考えてみたが、まったくもってマツダが何をしたかったかわからなかった。唯一ためになったとしたら、人はあんなもんでいいのかもしれない、というくらいなものだ。
翌日、マツダの授業はなかった。




