クリアライフ5―――絆―――
『未来泥棒』
―――ストーリー
クントリト地方のある一角にて時間が停止した。風も吹かなければ川も流れない。過去に戻ることもなければ今を進む事もない。時間が、未来が奪われたのだ。未来が奪われた事に対して主人公の少年ラミは謎の解明と共に未来を取り戻すべく奮闘をする。その姿をみてイアもまたラミと共に謎の解明をするのであった。
様々な困難に立ち向かいゆくなかにも未来が奪われていく地域がふえていった。そしてラミはある事実に気がついたのだった。それはラミ達がたちよった地域のほとんどがラミ達が立ち去った後に未来が奪われているのだった。そして、もう一つ知ってしまったのだ。イアが未来を次々と奪っていることに。イアはラミをだまし続けて未来を奪っていたのだった。さらに、彼女はラミの前から唐突に姿を消したのだった……ラミは意味のわからぬまま絶望のふちにたたされるが彼はある心情をイアに対して抱いてることに気づいてしまった。怒りやどうしてと思う気持ち。そして、甘酸ぱっくてとても苦いどうしようもない恋心を……
「ん。くっ。」
朝の日差しで僕、冨本秀一は目を覚ます。
「おはよ、ミン……。バカか僕は」
自重気味に笑う。癖というかなんというか。そのミント=クリア=ライトとこれから戦うというのに。チラリと時間を確認してみる。時間は朝六時。いつもより早い時間に目を覚ましている。
「ふ〜、準備でもする……うん?」
携帯がバイブレーションにより音をたてる。
こんな、朝早くから広告のメールでもなさそうだが……夜美?
携帯のディスプレイにはこれから一緒に戦う仲間である星野夜美の名前が出ていた。どうやらメールではなく電話のようだがこんな朝早くにどうしたんだろうか?
「もしもし、夜美?」
「あっ、秀一君?えっと……ゴメンね。起こしちゃった?」
「いや、起きてたよ」
「よ、よかった」
安心したような声をあげる。そこまで気をつかわなくてもいいのに。
「それで、どうかした?」
「その……目冴えちゃって落ち着かないから、秀一君と話できたらなって」
「くすっ、そっか」
小さく笑い声をあげる。
「も、もう。笑わないでよ」
夜美が拗ねたように怒った。
「ゴメンゴメン。違うんだ。夜美もおなじなんだなって」
僕も本音を言えば緊張しているし、これからのことを考えると足もすくむ。でも、夜美も一緒なのだとわかり安心した。何故かホッとできた。
「おなじって?」
「なんでもない、気にしないで」
僕ははぐらかすようにいった。
「うん。ところでさ、秀一君。その……たった四人でしかも内二人は魔法が使えない状況で敵地に出向くわけだけど怖くないの?」
「怖くない……って言い切れたらカッコいいんだろうけど正直怖いよ。それに幹部はわかってる内でも夜の魔女と色欲望の宣告者がいるわけだし」
ここで一旦言葉をきる。
「でも……僕は我が儘だから。我が儘だからミントを連れて帰りたいんだ。例えそれがミントにとって悪いことでも……僕の知ったことじゃない。ミントを絶対連れて帰ってみせる」
僕は断言する。傲慢だろうがなんだろうが言われてもいい。僕はミントを連れて帰る。それだけだ。
「それって……ミントさんのことが……その」
小さく息をすう音が僕の耳にも届く。
「ミントさんのことが……好きだから?」
「……どう、かな?」
多分、意を決して聞いたであろう夜美の質問にこう答えた。あえて、答えは出さない。
「…………そっか」
きっと僕の答えは夜美にとっては不十分なものだっただろうがそれ以上は何も言ってこなかった。夜美らしいなと思う。
「……分かった。秀一君。わたしはなにが起きてもどうなったとしても秀一君の味方だよ?だからわたしは秀一君に着いていくから」
いつかした夜美との約束。僕に依存させてほしい。でも、もしかしたらそれは逆で僕が夜美にたより依存しているのかも知れない。夜美の僕に対しての気持ちを知っておきながら答えをはぐらかしてなお夜美にはここにいてほしいと思っているのだから。だけどもこれ以上でもこれ以下にもしたくない。この心地よさを守っていたい、そんな優柔不断で意気地無しの僕はきっと最低な男だろう。でも……底辺でもいいから夜美と石田と福田と僕と…………ミントと一緒に日常を過ごしたい。
「ありがと……夜美」
「えっ?あっ……まだだよ、秀一君」
おもわずこぼれた言葉にたいして一瞬驚いた、というよりは唐突すぎて意味がわからないという言葉を最初もらすがこんどはこちらが疑問の言葉をもらす。
「えっ?どういう意味?」
「まだ、だよ。お礼はミントさんとの絆をとりまどしてから。その時皆で楽しもうよ!!」
「……そうだな!!」
僕は夜美の言葉に元気を貰う。勇気をくれたきがする。真実に向かうための大切な勇気を。
僕たちはそのあと待ち合わせ時間近くなるまで他愛もない雑談をして過ごした。
「よし、行くか……」
「うん!!」
「あぁ」
「おお!!」
僕の声に三人が頷く。というか……
「石田、福田その恰好なんだよ」
「気にするな」
「気にするなって……」
「ま、まあ。いいじゃないかな。考えがあるんだよね、石田君」
「そうだよ」
「……夜美がそういうならいいけど」
僕はクラスメイトの石田湊人と福田海斗の遠足というよりは大きな山に登るかのようなリュックをそれぞれ背負っているのを見て聞くが夜美に言われ引き下がる。なんなんだ、あれ。といっても魔法の使えない二人は荷物が多くなるのは仕方ないが……まっ、いっか。
「じゃぁ行くか。夜美、僕に詳しい場所教えてくれ」
「わかった。伝えるは思い。形を作り相手へ気持ちを伝えるものとなれ。伝言鳩魔法」
夜美の思考を受け取り場所を把握する。……よし。そこなら……
「行くぞ、みんな。動くは体。光と同じ速さで移動せよ。我のしめしたところえ行け。人体転移魔法!!」
魔法を発動させると同時に山の中に移動する。
「っと、ここからの案内は夜美頼むぞ」
「うん、といっても思い出せるのは本部の周りと入り口まで。内部はわかんないからね」
夜美は少し首をかしげていった。。仕方ないなそれは。因みにあえて本部のある山頂付近から三キロほど離れた登山ルートの近くの茂みに転移した。あまりどうどうと行くわけにはいかないし、もしかしたら山頂付近や登山ルートに一般の登山客がいるかもしれないからだ。見つかって大事になったらまずい。
……っと、思っていたけども。
―――パシュ。
「っ!!」
僕は後方から聞こえた音に慌て三人をまとめて抱きあわせるようにのしかかり尻餅をつかせる。
「っつ。大丈夫か?」
後方数メートルに落ちている吹き矢のようなものをいちべつしながら尋ねる。
「あぁ、サンキュ」
「ったく、あぶねーな」
石田と福田がその吹き矢のほうを見て顔をしかめたが夜美は怪訝な表情を見せながら呟いた。
「……これ、物質変換矢だよ」
「物質変換矢?」
僕は夜美にそのまま言葉を返してしまう。
「うん、物質変換矢」
夜美はその矢―――物質変換矢から離れつつ続けた。
「何かの物質を他の物に変換する矢。わかりやすく言うとあたった対象物を魔法発動者が思い描く物質に酸素なら酸素に土なら土に水なら水に―――今回は対象物を水に変換させたんだと思う。みて」
僕らは言われるがまま矢の着地点を見る。
「なっ……」
そこには普通なら土があるはずなのに水が溜まっていた。
「こんなのあたったら……」
「体の一部が水になってさらに連鎖的に体じゅうが水になって……遺体すら残らずに死んだと思う」
ゾワッと夜美の言葉に鳥肌がたつ。恐ろしい……
「―――そして、この魔法は主に貴方がよく使ってたよね……怠惰な天使」
「っ!!」
夜美の見た木々の間から何か動揺したような気配を感じた。夜美はいつからそこに人がいると気づいていたのか……まあ、いい。僕らも夜美の見る視線の先を見据え構える。
「出てきて……ベル」
「……久しぶりねぇ。夜の音」
「…………そうですね。ベル」
夜美と怠惰な天使と呼ばれた僕たちよりも1,2歳年上の女性と対立する。顔立ちはどこか葵姉さんを成長させてような感じがする。皮肉なもんだ。
「ふぁ〜。あれで倒せれたらよかったんだけどねぇ〜」
あくびをしていう。
「まっ、面倒だし。あんたたちやっちゃって」
―――バザッという音ともに多数の人が出てくる。
「ちっ」 舌打ちをして僕らはその人たちに身構える。
「放つは光。光は力となり打ち砕け。光よ我に力を貸したまえ。光弾魔法」
「暗きを秘めし闇の力。無はりゼロなり還元する。闇に浸食されし愚弄なる増殖。闇の玉」
「緑色の大地よ。力は玉となり攻撃をしろ。大地を揺るがす力を示せ。緑森林の塊」
「……?風の三枚刃」
僕は不思議に思いながら風の三枚刃を放ち魔法を相殺……
「ぐわっ!!」
「ぎゃぁ!!」
押しきった!?
流石に弱点性質である草の性質とぶつかった風の三枚刃の威力は半減くらいになってはいたが光や闇の性質とぶつかったのはほぼ威力も変わらず貫通していた。
というか、なんで呪文まで詠唱して……
「秀一君」
「えっ?あっ、うん、なに」
あっけにとられていると夜美がちょいちょいと服の袖を引っ張ってきた。
「多分……というか、絶対この人達は高速詠唱使えないんだよ。秀一君当たり前のように使ってるけど普通は努力したとしても習得できるかどうかもわからないんだよ。わたしはたまたま扱う事は出来たけどさ……」
「あっ、そっか」
忘れてた。そういや、そうだっけか?それに威力も弱かったから魔力も大したことないのかな?いや、どちらかといえばまだうまく魔法を扱えていないというほうが適切だろうか?
「なるほどな……分かった。俺たちが雑魚を相手にしとくからお前らは怠惰な天使のところに行って来い!!」
「んだ!!てめぇら!!」
石田の雑魚という言葉に一人が怒り出し僕らに襲い掛かってくる、が。
「やぁ!!」
「よっと」
「ぐはぁ!!」
福田がいつの間にか取り出した竹刀で腹を殴り石田ががら空きになった首筋にスタンガンで攻撃し襲い掛かってきた敵は泡を吹いて地に倒れた。そういや、福田って剣道をお爺さんに習ってたんだよな。それも確か……
「ふぅ、急に煽るなよ馬鹿か。よっと」
「悪い悪い」
少しも悪びれた様子も見せず石田が誤る。福田はそれを横目で見つつ竹刀をもう一本取り出す。
「えっ、二刀流!?」
「あぁ、そうだぜ」
少し笑いながら竹刀を振る。でも、あいつなら大丈夫だろうし石田も運動神経はいいほうだ。大丈夫だろう。
「分かった。夜美、行くぞ!!」
「う、うん!!分かった」
少し戸惑ってはいたが夜美も承諾してくれて怠惰な天使の元に走り出した。
「う、うん!!分かった」
秀一の言葉に夜美は戸惑いを見せつつ走り出した。
「さて、と。かかってこい!!」
「相手してやるよ!!」
それを見送りながら石田と福田は背中合わせに立ちながら敵を挑発する。
「なめんじゃねぇ!!緑色の大地よ。力は玉となり攻撃をしろ。大地を揺るがす力――――――」
「遅い!!」
「ぐっ!!」
ドスッという鈍い音を立てて竹刀がのめりこみ倒れる。それを見てか他の者が間合いを取る。福田の目の前にいる敵は十五、六人。ただ、全員が全員間合いが離れたのは間違いだ。確かに呪文の詠唱に時間がかかるので離れたがるのだろうがそれなら半々に分かれて接近し魔法での攻撃をあきらめるものと詠唱する者に分けたほうが良かったどろう。なぜなら、彼らがとった間合いは福田にとっては無いに等しいのだ。むしろ間近に迫られたら手の出しようが福田はなくなってしまうというのに。
「いくぞっ!!」
風の切る音を福田本人が聞きながら竹刀で的確に敵の元に攻撃していく。もちろん敵も詠唱をしながらさらに間合いを取るが二、三人は当たり地に伏す。
「緑森林の塊!!」
一人が詠唱をし終え魔法を発動させる。それに続いて他の者も魔法を発動させた。
「っち」
舌打ちをして左手の方の竹刀で攻撃を魔法を受け流していく。事前に光弾魔法、闇の玉、緑森林の塊の特性を夜美から福田達は聞いていた。なので福田は落ち着いて唯一の実在魔法である緑森林の塊を右手で持つ竹刀で打ち返しつつ左手の竹刀で軌道を修正させ闇の玉に当てて破裂させ光弾魔法にあてて魔法を壊していく。
福田の剣術の特性は二刀流だからこその細かな動きとその二刀から繰り出される強力な連撃。それが福田の剣技だ。
魔法を一掃して間合いを取るために福田は離れる。
―――バジッ。
「ぐはっ」
男は石田の持つスタンガンをうけ倒れる。
「大丈夫そうだな」
「そっちこそ」
背中合わせで再び立って互いの状況を確認しあう。
「これぐらいなら、まだ“アレ”を出さなくてもよさそうだな」
「そうだな」
意味ありげな笑みを浮かべながら再び敵に視線を戻しあう。
「喰らえ!!」
竹刀を持ち直し攻撃を再開する。
「――――――風をまとう剣」
倒されていく中で一人が魔法の発動に成功する。
「うらっ!!」
ぶんっ、とその敵が剣をふるう。
「っと」
明らかに間合いの外であるが福田はそれを竹刀を使わずによける。それは風をまとう剣の特性上風を操り操った風にも斬撃の能力を得るからだ。
「ったく、あぶね〜な。っら!!」
風の斬撃を後ろに見ながら敵の持つ風をまとう剣を手首をたたくことで叩き落としそのまま腹に一撃を与える。
「グフッ」
一撃を受けうめき声をあげながらバタリと音を立ててその場に倒れこむ。
「残りは三人か」
福田は小さく呟く。もちろん、この三人というのは福田の担当している敵であり石田が戦っている敵を合わせるとまだ七人ほどいる。しかし、最初数十人いたのだからそう考えるとかなり人数を倒しているであろう。いくら魔法という能力を持っていても戦いという場合はその能力をうまく扱えるか否かで勝負が決まる。福田は剣技を戦いに使える能力の一つとして使っているのだ。ちなみになぜここまで剣術を持っているのに福田が剣道部ではないかというと学生の部の剣道大会では二刀流が事実上禁止されているからである。もちろん、一刀での剣さばきでもかなりの強さを誇るのだが自分は二刀流だけで行きたいという意志と中学時代からの友人である石田との時間(冨本とは高校で知り合った)を過ごしたいという考えから剣道部には入らなかったのだ。
「っは!!行くぞっ」
息をはき地面に蹴りをいれ一気に駆け出す。福田の竹刀は両方ともまるで生きてるかのように動く。
―――空駆ける天馬の構え。彼の構え方はこうよばれている。日本武道にペガサスはいささかなものかと思うが彼の動きにはそれがよく似合っていた。飛ぶかのように繊細で丁寧な剣さばきと一太刀一太刀の早さからそう揶揄されるのだ。
「っと。終了」
小さく呟く。彼の前には先程まで立っていた男達が倒れていた。もし彼の持つ竹刀が本物の刀なら血の海と化していただろう。
「福田〜。こっちも終わったぞ。大丈夫か?」
しばらくして石田が駆け寄ってくる。多少の擦り傷等が見受けられるが無事なようだ。それを確認して福田も手を上げて答える。
「大丈夫だ。ふっ、またつまらぬものを切ってしまった」
「うるせっ」
福田の冗談に笑いながら突っ込む。
「にしても……あっちは大丈夫かな?」
笑顔を引っ込め福田達は戦っている最中であろう冨本達の元に走り出した。
「あら?やっぱりあの子達じゃ無理だったのかしら?」
僕たちの足音を聞いてか一人優雅に木陰で座っていた怠惰な天使が立ち上がる。
「変わらないね、ベルは」
「そう~?まぁ、怠惰な天使ですから。それに引き替え夜の音は変わったわね」
にこやかに返す。夜美と怠惰な天使の反応からするに知り合いのようだが。
「そしてあなたが神から授かりし光の保因者かぁ〜。どちらかといえば夜の音と合わせてアダムとイヴの方があってるかもね〜」
冷やかすかのように笑ってくる。何が目的だ?
「堕天使の事が分かる知識の実があるならどんな罰受けようがすぐにでも食ってやるよ」
どこに追放されようが知ったことじゃないな。
「ふふっ、言うね〜。でも、意気込みは凄いけど幹部達やましてや党首様に勝てるかな〜」
「うるさい。勝てるかどうかじゃない。絶対勝つんだ」
「ふ〜ん。まあ、別にいいんだけど。というか〜よくそんな少数でのりこん―――」
「ベル!!いい加減にして。わたし達は貴方とお喋りに来たんじゃない」
怠惰な天使の言葉をさえぎる夜美。
「ん〜、せっかちだな〜。堕天使にいたときの夜の音はもっと落ち着いてたというか感情なんてないロボットだったのに」
「―――っ。そんな事はどうでもいい。それに言ったでしょ?わたし達はベルとお喋りに来たんじゃない!!」
「あっそ、じゃあどうする?あたしを殺す?それとも人質にする?」
「なにいって―――」
「だって〜、夜の音に神から授かりし光相手なんて、勝てるわけないもん」
はっ?どういう事だよ。
「ベル、まさか」
なにかに気づいたように声をあげる夜美。
「そっ、不意討ちが失敗した所であたしの負け。このままこそこそ帰ろうかと思ったけど夜の音に見つかったから出てきただけ」
最初からあきらめて……
「で、どうするの?殺す?そりゃそうよね。夜の音はともかく神から授かりし光は平穏に暮らしてたら急に変な集団に襲われて命の危険にさらされているんだもんね。憎いでしょ?あたし達が」
怖いほど清々しい笑みを浮かべる怠惰な天使。
「どうするのかな〜?」
「決まってるだろ」
「そ、一思いにや―――」
「僕らは殺しなんてしない!!」
絶対に覆さない決意を口にする。
「なっ!!」
「秀一君」
初めて驚きに顔を変える怠惰な天使。
「どうしてよ!?あんた、バカ?ここで殺さなかったら堕天使にあんた達の情報を漏らすことになるのよ!!拘束するにしても魔力消費を考えれば拘束し続けるのは厳しい。まさか、人質にしようとなんて考えてないでしょうね。そんなの意味があるわけないってわかってるでしょ」
やっぱり……なんでだろうか。憎い、平穏を返してほしい。でも、それ以上に。
―――恨めない。
「……夜美。怠惰な天使とは、ベルとは仲がよかったのか?」
「一応、ね。何度か任務に一緒になったことあったし」
「なら、ベルの過去は?」
僕の問いに夜美より早くベルが反応する。
「あんた!!なにいって―――!!その虫」
「虫達の探り。ベル、いや藤咲香里の記憶を探らせてもらったよ」
「っ!!その名前」
歯を食いしばる音が聞こえる。やはり正解だったな。虫達の探りは藤咲の元に走り出した時に発動させていた。
「藤咲香里……?ベルの本名?」
僕に問いかけてくる夜美。
「あぁ。そうだよ。彼女の本名は父親に殴られ母親にご飯も食べさせてもらえず死にかけた過去を持つ藤咲香里だ」
「……あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その場に座り込む藤咲。記憶がフラッシュバックしているのか。五歳の頃の記憶なんて普通なら断片的にしか思い出せないかもだけど死にひんするような記憶なら忘れたくても忘れられないだろう。
「藤咲。お前―――」
「いやぁぁぁ!!その名字で呼ばないで」
「……香里。堕天使に救われた命でも、堕天使の為に使わなくてはいけないというわけじゃないんだぞ」
「えっ、どういうこと?」
話についていけてない夜美が尋ねてくる。
「香里は物心がついたときから虐待を受けていた。体重も平均的な同年代の子どもよりぐんと少なかった。ひどい虐待だったみたいで幼少の頃から何本もの骨を折っていた」
聞きたくないといった風に耳をふさぐ香里。
「しかも、最悪なことに香里の父親は医者だった。自分でやった怪我を自分で治療していた。死なない程度に回復させるという治療を。こういった方法から誰にも気付かれる事もなく虐待は悪化していった。そして、香里が五歳の夏の時、香里は皿を割ってしまった。といっても、殴られてよろけたさきに皿がありそれを落としただけなんだけどな。その皿の破片が父親の足をかすめ血がうっすらとでた。それに逆上した父親はさらに香里を殴った後香里をベランダに追いやったんだ。昼間の三十八度を越える夏のベランダに何時間も。完全に衰弱しきって死にかけた時に堕天使の関係者がたまたま香里を見つけ香里を救出。その後警察に連絡して両親は逮捕されて身寄りの無かった香里をその関係者が預かることにしたんだ。そして香里は魔法の才能に恵まれていた事もあり現在の地位についたんだ」
「……そんな」
少し顔を暗くする夜美。夜美も過去に堕天使の幹部に救われたのだからもしかして自分の過去とてらしあわしてるのかもしれない。
「う、う、うぅ。安っぽい同情なんていらない!!さっさと殺しなさいよ!!」
香里は泣き叫ぶ。瞳からは止めどなく涙があふれ彼女の服や地面を濡らしている。
「いったはずだ。僕たちは殺しはしないって。香里、君だって本当は思ってるんだろ?堕天使なんてさっさと抜け出したいって」
「うるさい!!あたしはここで死ぬの!!」
「香里!!助かった命を無駄にするな!!」
僕は大声をあげる。藤咲という名字を嫌うのは自分を虐待した奴らと同じ名字だからだろう。当たり前といえば当たり前だが。でも、それがなんだ。今は元気に暮らしてるじゃないか。殺すなんてできない。
「香里。好きなことをして生きる生活は楽しい。でも堕天使にいたってそんな楽しみは訪れない。そんなの形が変わっただけでずっと君を苦しめているじゃないか。僕らの仲間になれとは言わない。でも、自由になってほしい」
僕は香里の元に近づき顔を覗きこむ。
「生きろ!!生きて香里の人生を楽しめ!!」
「あたしのストーリー……う、わぁぁぁぁん!!」
完全に泣き崩れる香里。やっぱり、心の奥底では気づいてたんだろう。ここにいてはダメだということに。
「秀一君……」
夜美が小さく僕の名前を呼ぶ。
「夜美、このままそっとしといていいか?」
「うん、わたしは別にいいよ」
「よかった」
僕は笑みを浮かべる。
「おーい!!冨本!!星野〜!!」
「……ふっ。こっちだ」
元気そうに走ってくる石田達に思わず笑ってしまう。
「……とと。そっちも終わったって、えぇ!?なんで、泣いてんの」
香里に気づき驚きの声をあげる石田。福田も声に出してはいないが驚いている。
「ちょっとな。大丈夫だ。行こう」
僕はこれ以上石田達に見せるのも香里がかわいそうな気がしてたのでここから立ち去ろうとする。夜美も続いたことで石田達も後ろをついてきてくれた。
「……まって」
「えっ……」
その時小さく香里が制止を求めてきた。すると、涙声のまま続ける。
「あなた、冨本秀一君だっけ?」
「そうだよ」
「秀一君、あなたの強さは本物だよ。だからあたしの知ってる情報をあげるわ。伝言鳩魔法」
バサッと白い鳩が僕の元にやってきて情報を受けとる。
「…………っ。ふふっ、確かに受け取った。じゃあな」
僕は小さく微笑みを浮かべて再び歩きだした。
香里からの情報を元に、そして最後につづられた気持ちを胸にいれリフレインさせる。
『ありがとう、秀一君』
『いたとのもにあき、いしとあら33ねと』
茂みの近くにあった小さなタッチパネルを操作し暗号を入力する。すると、目の前に人ひとり分通れるぐらいの扉が現れる。香里の情報のおかげで問題なく暗号を言える。この暗号は夜美の記憶にもまだ戻ってきてなかったので助かった。
「よし、行こう」
僕は小さく呟き中に足を踏み入れる。ここからは敵の領地だ。油断はできない。
「っ……」
後ろからついてきていた夜美が中に入った瞬間怯えるように体をふるわせる。
「夜美?」
「……………」
「よ〜み〜?」
「……………」
「よ〜み〜!?」
「きゃっ、えっ?秀一君?どうしたの、急に大声だして?」
「きゅ、急にって……」
後ろにいる石田達も不思議そうな顔で見ている。
「夜美がなんか上の空だったからさ。どうかした?」
「べ、別に……なんでもない」
「なんでもないって……怖いのか?」
「えっ、あっ、えぇっと。その……」
困ったように顔を背ける夜美。
「怖いなら怖いって言ってよ。夜美は元堕天使だ。怖さは僕ら以上に分かってるんだろ?」
「うん……」
「大丈夫だって。夜美は一人じゃない。僕や石田に福田もいる。なあ?」
「おお」
「当たり前だ」
僕の問いに石田、福田の順で答える。頼りになる奴らだよ、本当に。
「夜美、怖いかもしれない。僕でさえ怖いんだ。でも、その怖さを乗り越えて日常を取り戻そうよ!!」
「……うん!!」
新たに決意を固めたのか夜美の瞳にはもう恐怖や迷いの色はなかった。
「それと、石田、福田」
僕は夜美から視線を外し二人に向ける。
「こっから先はマジでヤバイ。死ぬかもしれない。だから、命の危険を感じたら逃げ出せ。魔法の使えない二人じゃ高速詠唱を使う相手と戦うのは拳銃を相手に武器も無しで突っ込むようなものなんだ。拳銃を相手にするなら拳銃と同等かそれ以上の武器がないと勝つなんて不可能なんだか」
「そう、だな。同等以上の武器だな」
「そうだな〜」
「ん?」
なぜか夜美の方をちらりとみる二人。その夜美は苦笑いともなんともつかない笑いを浮かべる。何か知っているのか?まぁ、夜美の事なら何か色々と考えがあるだろうし石田はともかく福田も何かしら考えがあるだろうから大丈夫だろうけど……
「じゃ、じゃあ、行こうか」
僕は少し釈然としない気持ちを抱きながら前へと進んだ。
「神から生まれた悪魔様、冨本秀一、夜の音、石田湊人、福田海斗が本部内に侵入いたしました」
「知っている」
夜の魔女は秀一たちが本部に入ったことを確認し報告する。
「しかし、神から生まれた悪魔様。なにも暗号の記憶まで思い出させる必要はあったのですか?というより、なぜ記憶を思い出させたのですか?」
いつになく真剣な顔な夜の魔女。幼い顔立ちの二人だが口調も何もかもが大人以上のものでさらには異様な雰囲気が部屋内に満ちている。
「記憶に関しては私は何もしていない。知っているだろう?夜の音にかけた喪失記憶魔法の弱点は発動者の魔力を近くに感じるたびに記憶がよみがえってくるのを。それに私の最後に放った光の矢にそこそこの量の魔力を込めた。それゆえに記憶がよみがえってもおかしくはあるまい」
「そうですね……失礼いたしました。では、天使の名を持つもの達に邪魔をするように命令を伝達してきます」
「その必要はない」
「はい?」
夜の魔女が立ち上がろうとする前に呼び止められる。
「行っても無駄だ。逆にこちらに不利になるかもしれない」
「どういう、ことですか?」
言葉の意味を図りかねて尋ねる。
「人造人間であるお前にはわかるまい」
「……私を造ったのはあなた方ですよね」
キリッとした鋭い視線を向ける夜の音。
「そう睨むな。何もお前たちを人と認めていないわけではない。私がいいたいのは魔法が扱える条件が私たちのような通常の方法で生まれた人間と人造人間では違うだろうといっているのだ。まあ、その難解さをなくすためにお前たちは生まれたのだからな」
「そうですか。でも私たち人造人間の方が絶望は大きいように感じますが?」
「それに私は言われても知らん。皮肉にもそうなってしまったのだ」
「……失礼いたしました。少し取り乱してしまいました」
「かまわぬ」
落ち着いたように瞳から鋭さを消し思い出したかのように疑問の顔を浮かべる。
「しかし、邪魔をしなくてよいというのはどういうことですか?」
「そのままの意味だ」
「そのままの意味って……確かに彼らの前では私達幹部レベルでなければまともにやりあうなど不可能ではあるかもしれませんが時間稼ぎ程度にはなるはずですし魔力を奪う事も可能です。すでに怠惰な天使と戦闘を経験していると思われますし」
彼女の口振りからするに怠惰な天使が事実上、裏切りをしたことは気づいてないようだ。無理もない。堕天使の動きも最終段階に入っているので忙しいはずだ。全てを監視できるはずないだろう。
「……ふっ。まあ、いい。お前も知識としては知っているはずだ。通常の方法で産まれた人が魔法を扱えるようになる条件を」
「はい、知ってます。その為に負感情察知があるのでしょ?」
「そうだ。この魔法がなければ堕天使はここまで強大な組織にはならなかっただろうな。とにかく魔法を扱えるようになるに必要なこと、それは?」
「……我々、人造人間等の一部の特殊な人間を除き、魔法を扱えるようになるには、魔学歴3085年の最悪の魔法以降の場合絶望を味わい力を欲し願うこと。その絶望の大きさ、欲する力の量でその者の放出魔力の量が決まる」
「正解だ。だから我々は調教のしやすい幼少の人間の内に絶望を感じた者を引き抜く。まあ、ほとんどは望む力も絶望も少ないためたいした戦力にはならないのだがな」
特に感情を込めることもなく淡々と延べる。ここにいるのは秀一達の知るミント=クリア=ライトではなかった。
「しかし、それがなにか?今さら彼らが再度絶望し役に立たなくなるとは考えづらいですが」
「ふっ、それを可能するのが冨本秀一というやつだ。恐らく、天使の名を持つ者達程度なら簡単に絶望から救い出すだろうな。よほどの忠誠心がない限り裏切り行為をするだろう。」
「……過大評価しすぎでは?あり得ない、とまでは言いませんがいくらなんでも……」
「それならどうして夜の音は裏切った?」
「ぐっ……そう、ですが」
夜の音の事をいわれ夜の魔女は怯む。彼女を絶望から救ったのは間違いなく冨本秀一なのだから。
「そ、それに、これは神から産まれた悪魔様の計画通りですよ?彼に夜の魔女を救わせるというのは」
「当たり前だ。最初の接触時に彼の性格を確かめた。それゆえだ、彼なら絶望から救う力がある」
「し、しかし―――」
「それとも、お前達はたかが四人にびびるのか?」
ゆっくり、しかし威圧をこめた声を放つ。
「……いえ、わかりました。彼らは私と色欲望の宣告者、そして神から産まれた悪魔様、貴方も含めて倒しましょう」
「わかった。準備をしてこい」
「はっ」
彼女は答えるが早くこの場を離脱し戦いに向かうのであった。
……怖いぐらいに問題なく進む。途中で色々な敵に出会うと思い用心しているのだが敵はおろか罠の一つもない。香里に教えてもらった地図どおりどんどん上を目指しているのだが全くもって順調だ。時折気配の察知もして注意を払っているのだが全く気配を感じない。
「人がいねぇな。というかかなり上まであがってきたぞ」
「そうだな」
息を弾ませる石田に返す。というより皆疲労がたまってきている。いつ襲われるかわからないので常に気を引き締めなければならないし身体的にも疲労がたまってきた。エレベーターなんて便利なものは無いし合ったところでそんなものに乗ってしまったらエレベーターを落とされるかもしれないから乗れない。因みに夜美によると通常は五階ぐらいにそれぞれの部屋があるらしくそこで寝泊まりしていたらしい。
「はぁはぁ、あっ、アレ」
「えっ?」
夜美の指差す方向を見ると窓がありそこから西日がさしていた。そして、さらによく見ると遠くの方で飛んでいる飛行機を見下ろしていた。
「ま、マジか」
石田はあんぐりと口をあける。
「ここまで来て空気の薄さを感じないというのも変な話だな」
確かに、福田の言うとおりだ。空気はかなり薄いはずなのに。まあ、魔法だからの一言で納得いってしまうのだが。
「とにかく、頑張ろう。後もう少しのはずだから」
僕はここの地図を頭の中で確認しながら言う。この先は後三階で一番上の回になる。
階段を上りきる。ふぅ、後二階。
目の前には重たそうな扉が会った。一階から直通で上までいける階段などなく一階上るたびに別の場所にある階段にいかねばならず今回もこの扉の先を進まなければならない。
「はぁ、一応試しておくか」
魔力温存のために呪文を呟く。
「気配の察知」
意識を集中させ魔力を探す…………
「っな―――」
驚いて声を上げそうになり手で口を塞ぐ。そんな僕の様子に夜美達も一瞬驚いた顔をしすぐに顔を引き締める。それを見て小声で話しかけた。
「この先で魔力を感じる。とても大きい魔力だ。そして、この魔力の主は色欲望の宣告者だ」
僕の言葉に夜美達は目を大きくさせた。ここで幹部様の登場か……面白い。やってやる。僕は目で合図をとり一気に重たい扉をあけ中に入り込んだ。
「色欲望の宣告者!!」
威嚇とこちらが驚かされないようにする意味も兼ねて大声を出す。
「聞こえてるわよ。そんなに大声ださなくても」
だが、意外にも色欲望の宣告者部屋の中央で堂々と構えていた。
「うふふっ、ようこそ」
笑顔でそれでいて殺気を放ちながらの挨拶。油断なんて、絶対にできない。
「怖い顔してるわね。そうだいいこと教えてあげるわ」
ニヤリと浮かべる笑みが恐怖に感じる。いいことって……
「あたし、色欲望の宣告者はこの階に|次の階には夜の魔女が、そして最上階には神から産まれた悪魔様が待ち受けていらっしゃるわ」
ミント!!そうか……僕たちはミントに近づいてきてるんだ。
「そ・し・て。あたし達の計画は最終段階に入ってるわ。この計画の完遂と共にあたし達の楽園が完成する。そうなれば貴方達がどう足掻こうとも神から産まれた悪魔様の元にはたどり着けない。断言してあげるわ」
グッと歯ぎしりをする。恐らく色欲望の宣告者の言葉に嘘は無いだろう。
「時間も示してあげる。今日が終わる日、二十四時までに、つまり今から約七時間半。これが貴方達に与えられたタイムミリットであたし達の勝利までの時間。長いようで短いわよ」
クッ……七時間半。コイツを倒すだけでも一時間やそこらで終わるとは思えない。長期戦は必須だろう。さらには夜の魔女まで相手をしなければならないなんて……七時間半。短すぎる。どうすれば。
と、悩んでいたら石田と福田がすっと前に出てきた。
「つまりは冨本が七時間半かけてミントさんを相手に出来ればいいんだよな」
「その為にはお前は俺達が相手をすればいい!!」
石田の持つスタンガンが電気の走る音をならし福田は両手に持つ竹刀を構える。
「お前ら、無理だ!!」
僕は思わず叫ぶ。こんなの無理に決まってる。
「無理じゃねぇ。勝ってみせる」
しかし石田は聞く耳を持たない。
「で、でも―――」
「冨本!!」
なおも反論しようとするも福田が僕の声を遮る。
「よく、考えろ。たとえ俺達がここで負けたとしても最終的にお前が勝てば俺達の勝ちなんだ。でも、ここで全員で戦って勝っても時間がくれば負け。どちらの勝ち筋が濃厚だ?」
福田まで……でも!!
「福田君」
僕が反論を考えていると夜美が福田に声をかけた。説得してくれるのか。
「福田君は間違ってるわ。たとえミントさんに勝てたしても貴方達が死んだりしたらその時点で負けなの。だから……石田君、福田君。絶対に勝って。勝って生き残って!!」
「「おぉ!!」」
なっ!!僕は声を失う。あの夜美までもがそんな事を?
「秀一君、仲間を信じて。わたしたちの絆は絶対に負けない。いこっ」
絆……
「―――石田、福田。絶対勝てよ!!」
僕は最後に二人に激励を言って夜美とともに走り出す。
「あぁ、ここは俺達に任せろ!!」
「お前達はさっさとミントさんを見つけ出してこい」
「いいわ。貴方達の相手はあたしがしてあげる。すぐ、終わらしてあげるわ」
僕たちはそんなやり取りを耳にしつつ部屋を抜け次の階段まで走りきった。一応色欲望の宣告者の不意打ちを警戒してのことだ。
「はぁはぁ」
急に走り出した事もあり肩で荒い呼吸をする。隣の夜美も呼吸が荒い。
「はぁはぁ、この先に夜の魔女がいるんだよな」
呟きながら階段を見上げる。頭の中の地図では先ほど色欲望の宣告者がいた部屋と同じぐらいの大きさの部屋がある。
「……ねぇ、秀一君。時間は無駄には出来ないのは分かっているんだけど話を聞いてくれる」
小さく、でも決意のこもった声で僕に話しかけてきた。
「なに?」
「秀一君……わたしは貴方の事が好き」
「っ!?えっ……」
唐突の告白に頭が回らなくなる。僕の事を好いているのは知っていたが急に言われたことにビックリする。
「いつからこんな感情が芽生えたのかは、正直な話わたしにも分かんない。いつの間にかどうしようもないぐらいに秀一君の事が大好きになってた」
かぁ〜と顔の体温が上昇する。夜美も顔どころか耳まで赤い。それでも言葉を続ける。
「秀一君からの返事は今は聞かない。全てが終わって、日常が始まった時秀一君の導きだした“答え”を教えて。だから、秀一君も自分の気持ちを伝えたい人にきちんと伝えて“答え”を出してきて」
「……夜美」
「ふふっ、行こう。秀一君。わたしたちの絆を確かめる戦いに」
「あぁ!!」
僕は頷き階段を上がり扉を開いた。
「よくきたね、夜の魔女が相手してあげるよ」
この様子だと僕と夜美の二人だけで夜の魔女の元に行くのは考えの中に入ってたのだろう。
「秀一君。さっき石田君達が言ってたように時間がない。だから、秀一君は先に行って」
夜の魔女から目を離さず言う。なんとなく予想はしてたけども……やっぱりか。
「……夜美。絶対勝てよ。勝って僕の返事を聞いてくれ」
「分かってる」
ニコッと一瞬こちらに振り向き笑ってくれる。
「大丈夫。こいつはわたしがやる。わたしじゃないとダメなの」
僕に告白してくれた時と同じように決意のこもった目で言う。でも今回は決意の中には友好でも好意でもない、れっきとした敵意に満ちていた。
「あっそ。流石に堕天使で天使の名を持っていた人と元神から授かりし光の所有者相手じゃ面倒だから一人づつ、倒してあげる」
夜の魔女は不適に笑いそして夜美を見据えた。僕は二人に注意を払いながら走り出す。ミントの元に行くために。夜美の事なら大丈夫だろう。安心して任せられる。
僕は走りながら今までの事を思い出す。
―――高校に入って始めての寮での一人暮らしで不安を抱いていた僕に話しかけて友達になってくれた石田と福田。
―――葵姉さんについてウジウジとしていた僕に前を向かせて互いに必要としてくれる夜美。
―――そして。弱虫だった僕に元気をくれて笑顔にしてくれたミント。
いつも僕は一人では無かった。笑顔をくれる仲間がいた。それはいつの間にか絶対に途切れさせてはならない繋がりを産んだ。忘れてはいけない絆。目には見えないし時には喧嘩することもある。でも絆は存在するんだ。だから!!
僕は夢中で走り階段をかけあがり少し長くて薄暗い廊下を走り抜けて多少装飾された扉バンッと開ける。
「ミント!!向かえに来たぞ!!」
僕は彼女を見据えて優しく、バカな家出をした怒りを込めた口調で叫んだ。
タッタッタッという二重の足音が聞こえなくなり部屋には静寂が満ちていた。息をするのもはばかられるかのような沈黙が石田、福田、色欲望の宣告者に訪れる。
しかし数秒後、その沈黙を破ったのは色欲望の宣告者だった。
「攻撃してこないの?もしかして、おじけついちゃたのかな〜」
挑発するような声のかけ方に石田達はピクリと反応する。
「お前こそ、先に攻撃でき無いのか?」
石田は挑発をし返して背中に背負ったままのリュックをあさりナイフを左手に持ちリュックを投げ捨てる。福田もそれにならいリュックを少し漁ってから投げ捨てた。
福田は竹刀を構える。ただし左手に持つのは先ほど使っていた竹刀とは変わり短めの物で構えかたも空かける天馬から一角の激昂馬の構えに変えていた。空かける天馬を柔軟な構えとするなら一角の激昂馬は高威力の攻撃の構え。右手にもつ長い竹刀の大きなふりと左手の竹刀の短く鋭い突き。
これは剣道の大会ではなく本当の意味での戦いなので突き技がどこに当たろうが関係ない。むしろ急所を狙いダメージをあたえやすいのどに突きを当てれたり脳天や下腹部、顔面等に竹刀を叩き込めれば勝ちなのだ。
「いくぞっ」
福田は相手の動きを見るよりも動いた方がいいと判断し駆け出していった。石田もそれに続きナイフとスタンガンを手に色欲望の宣告者の元に走り出した。
「壱」
福田は掛け声と共に右の竹刀を降り下ろすが色欲望の宣告者には少し体を動かしただけでかわしてしまう。
「弐」
だがそれを予期していたように福田は喉元めがけて左の竹刀で鋭い突きを放つがそれも体を大きく反らす事でかわされる。
「参!!」
その姿を見て福田はニヤリと笑みを浮かべ右の竹刀を大きく振り上げ色欲望の宣告者の腹から頭にかけて真っ直ぐに降り下ろした。
だが、色欲望の宣告者は冷静に床を蹴って後方にジャンプして竹刀に空をきらした。
しかし、福田はそのまま笑みを浮かべながら真っ直ぐに色欲望の宣告者を、いやその奥にいる石田を見た。
「喰らえッ!!」
スタンガンを首筋に近づける。
「ふんっ」
だが、色欲望の宣告者は小さく笑うと素早くと石田の右手をつかみスタンガンの危機を回避してそのまま石田の後ろに回り込み背中に蹴りを放った。
「グワッ」
石田はそのままよろけてしまいこけそうになるのをなんとか堪える。
「な〜んだ。そんな程度だったんだ。心配して損した。魔法無しでもこの程度なら」
ニヤニヤと嫌みな笑みを浮かべながら言う。そして。
「なら、さっさと殺っちゃおう。九頭の海蛇」
彼女の声と共に頭が九つある蛇が現れた。シャーと威嚇の音をあらげる。
「なんだよこれ」
今までに見たことのないあり得ない生物であることに加え圧倒的な大きさである九頭の海蛇に思わず石田が声をもらした。
「ふふん」
一瞬、色欲望の宣告者が笑い、「九頭の海蛇、毒霧」鋭い口調で命令した。
その瞬間紫色の物質が九頭の海蛇からはっせられたちまちに石田達のいる場所は確認出来なくなった。
「もういいわ」
それを見て勝利を確証したように笑みを浮かべて毒霧を止めさせる。
「九頭の海蛇行きましょ」
彼女は声をかけその場を立ち去ろうとした。そしてこの部屋から出るとき一瞬だけ振り返った。
「えっ!?」
普段は見せない驚きの顔を彼女は出してしまった。何故なら……
「ケホッ、たくっ。あぶねぇな」
「確かに、危うく死にかけた」
なんと毒霧が完全に無くなっており一切ダメージを負わずに石田と福田が喋っていたのだ。
「何を……したの?」
「あん?そうだな……こういう事だ」
そう言って石田はナイフから持ち変えたあるものを見せつけるように差し出す。そして。
「闇の玉!!」
そう叫ぶと石田の手に持つあるもの―――水晶で出来たドクロから魔法である闇の玉が放たれた。
「なっ!?っつ。九頭の海蛇叩き落とせ!!」
色欲望の宣告者は慌てて命令し九頭の海蛇は自らの長い尻尾で闇の玉を叩き落とした。だが、思いの外ダメージは大きかったのか痛がるような鳴き声をあげる。事実、尻尾には赤い跡が残っていた。
「なんなのよ、コレ」
いまだに驚きから離れられない色欲望の宣告者が呟く。それに答えるように福田もソレを手に喋り出す。
「水晶ドクロ、それとこっちは恐竜土偶。現時代において魔法を相手に戦える武器。それが古代魔法武器だ!!」
福田の大声が室内に響いた。
時は戻り前日の夕方頃。それぞれが明日への準備をしようとしているなか石田と福田は学校の前に来ていた。
二人ともややソワソワした様子で校門近くにいると直ぐに彼女がやって来た。
「ご、ごめんね。まった?」
「いや、来てくれてサンキューな。星野」
石田は少し息を切らしている夜美にかえす。実は彼らが決意を決め解散してから夜美を呼び出していたのだ。
「それで?どうしたの?」
「んっと、実は俺もよく分かってなくて。なんか福田が思いついた事があるって言って星野を呼び出したんだよ」
石田は困ったように福田をみる。
「まあ、とにかく来てくれよ。もしかしたら時間のロスになるだけかも知れないけど上手くいきゃ俺と石田の大幅な戦力アップになるんだ」
そう言って福田は校内に入っていった。石田と夜美は互いに不思議そうに顔を見合わせて彼についていった。靴を履き替えて階段で三階までいくと。
「お、おい。どこいくきだよ」
福田は自分達の教室がある方とは違い渡り廊下の方に向かった。
「まあ、いいから。ついつこい」
福田は二人に声をかけてすぐに前を向く。福田自信も場所を思い出すようにゆっくりとした足取りで歩く。夜美にいたってははじめて足を踏み入れるに近い場所なのだ。
この私立南里高校で校舎はA、B、Cの三つの棟に分かれておりそれぞれ渡り廊下で繋がっている。A棟は主に音楽室や視聴覚室等の特別教室がありB棟は通常の教室や職員室や保健室等の教師待機場所がある。
そして今福田達が向かっているのはC棟だった。C棟はほぼ全教室が部室になっている。南里高校では部活動に力を入れており全部活、同好会にそれぞれ一部屋ずつ部室が用意されている。といっても実績の多い部活ほど階段に近かったり一階等のすぐ外に出られる場所にあったりクーラーの設備などもあり実績のない部活は入り組んだところにあり設備も必要最低限のものしか用意されてなかったりする。
「ついた……ここだ」
福田がとある教室の前で立ち止まる。そこには『ミステリー同好会』と書いてあった。
「ここって……そういや部室ここだったな」
石田は小さく呟く。彼らは一応このミステリー同好会のメンバーとして在籍している。といっても特に石田は在籍しているだけで全く活動をしていないのだ。福田はたまに寄ったりしてはいるらしいがそれでも熱心に活動しているとは言い難い。
「にしても、なんでこんな場所に連れてきたんだよ?というかよくこんな場所覚えていたな」
石田は怪訝な顔で尋ねた。
「あれ?知らなかったけ?先輩が引退したから今の同好会の会長は俺だぜ」
「はっ!?マジ?」
「うん。そして副会長はお前」
「は!!??ちょっ、聞いてねえんだけど!!」
突然のカミングアウトに驚く石田。自分がいつの間にか副会長の座についてたので驚いた。
「まぁ、形式上だ。というかいまミステリー同好会のメンバーは二年は俺たちだけ一年は三人だったかな?とにかくそれだけしかいねぇし一年連中も基本来ねえから実質活動してねぇようなもんなんだけどな」
福田はそういって笑った。というよりかはこんな同好会に部室を与え部費も支給されているのが問題のような気もするが今はそれについては言及しないでおこう。
「んで、お前らをここに連れてきた理由はこれだ」
ガラッと扉を開ける。少し埃っぽい教室に窓から夕陽が差し込んでいた。
「なんだこれ?」
「えっと……な、なに?」
困惑する石田と夜見に福田は近くにあった水晶ドクロを持った。
「out-of-place artifacts……つまりオーパーツだ。まぁ中にはレプリカも交じってんだけどいくつか本物もある。この水晶ドクロも本物のオーパーツだ」
得意げに福田は話した。さすがは会長とでもいうべきなのかもしれない。
「んで、そのオーパツがなんなんだよ」
それが?とでもいいたそうな顔で石田は言った。
「out-of-place artifacts 日本語訳は?はい石田」
「は、はっ?なんだよいきなり」
「だから早く。日本語訳は?」
「え、えっと――――――」
「場違いな工芸品」
オーパーツを目にしてから今まで黙り込んでいた夜美が口を開けた。
「正解」
「それと……たしかオーパーツって日本語では『時代錯誤遺物』や『場違いな加工品』って意訳されるんだよね」
「そうだ。星野、俺が何を考えているか分かったか?」
「薄々とね」
意味ありげな笑いに夜美は思わず苦笑いをこぼした。
「ちょ、なんだよ。俺だけついていけてないんだけど」
置き去りにされているのに気づきあわてて話に加わる石田。
「ミントさんとの話を思い出せ。一度、魔法が普通に使われていたとき現代ぐらいまで人類は進んでいたと言っていたはずだ」
「あぁ。そういやそんな話あったな」
「そう考えるとこのオーパーツ。『時代錯誤遺物』の説明がつくんだよ。現代ならこれぐらいたやすく作れる。つまりは、昔魔法がなくなる前に作られたものなんじゃないかと思ったんだ」
「それで?」
「よく考えてみろ。普通に考えたらこんな水晶ドクロなんか割れたり傷がついていてもおかしくないのに全くもって綺麗なんだ。ということは、このオーパーツに魔法が関係している可能性があるってことだ」
福田は言い終えると夜美の方に向き直り水晶ドクロを突き出す。
「どうだ?星野は魔法が関係していると思うか?」
「う、う~ん。正直微妙かな。でも試してみる価値はあると思うんだ。だから、色々と試してみるよ。とりあえずそのドクロを机に置いて」
夜美の指示を受け机にドクロを置く。
「ふ~。まず耐久がどれだけある調べてみる。危ないから下がっててね。まずは斬撃から――――――夜をまとう剣」
夜美は手に剣を召喚させる。そしてその夜をまとう剣をドクロに近づけたその瞬間。
「キャッ!!」
剣はドクロにあたるやその当たった部分から吸い込まれたかのように消えていった。そしてそのドクロの色がやや濃くなる。
「なにこれ?魔法を吸収された?」
驚きを隠せぬまま夜美はドクロを持つそしてなにかを思いついたようにそのドクロを前に突き出す。
「伝言鳩魔法」
彼女が言うとドクロの先に光が出てきて二羽の白いハトが現れた。
「やっぱり」
「やっぱりってどういう、っておわ……あれ?」
石田が問いかけようとしたとき伝言鳩魔法が石田と福田の元に入るこむ。
彼女が見つけた事実はこうだった。つまりはオーパーツは魔法をため込み自分の魔法として扱うことができるというものだった。
「これは、すごいいいものを見つけれたな」
福田は笑みを浮かべ夜美の持つ水晶ドクロをみつめた。
「どうする?コレ振り回して戦うか?」
石田は夜美からドクロ受け取りドクロをマジマジと見つめながら聞いた。
「いや、正直コレは切り札となれる存在だ。出来るだけ隠しておきたい。俺は最初は竹刀で戦うつもりだが……」
「竹刀?福田君って剣道やってたの?」
「あっ、あぁ。まあな。それなりにはやれると思ってるよ」
「ふ〜ん」
夜美は関心したように声をあげた。
「と、すると俺だな……護身用グッズなんて持ってねぇぞ?」
石田は困ったと言った風に肩をすくめる。
「ナイフ……とかならなんとかなりそうだがな」
福田も考えるように手を顎にやった。
「ね、ねぇ?」
「ん?」
夜美がなにかを思いついたかのように声をあげた。
「護身用グッズってスタンガンでもいい?」
「スタンガンでもって……そりゃスタンガンなんてあったら心強いよ」
「だったら……―――はい」
「はいって……えぇ!?」
「な、なんでんなもん持ってんだよ」
夜美は持っていた鞄をいじり中からスタンガンを取り出し石田達を驚かせた。
「えっと……わたし一応裏切り者で逃亡者の身だしそれなりに武装しなきゃだし」
「あ、あぁ、なるほど」
夜美の説明に納得する石田。
「じゃあ、貸して貰うな」
「うん」
夜美はスタンガンを石田に渡した。
そして、石田は夜美からスタンガンの使い方のレクチャーを受けるために一度福田も連れて廃ビルへと向かうのだった。
「とにかくこの古代魔法武器でお前の魔法はすべて防げるし、逆にお前の魔法は魔力という栄養になるよ」
「なめた口を……」
福田の言葉に歯軋りを色欲望の宣告者はする。九頭の海蛇は巨体であるため尻尾を使った攻撃等は当たれば頭部を破壊し首の骨を折ることぐらい可能ではあるがそれは多量の魔力を練り込んで有るがゆえである。尻尾を振り上げたとしても古代魔法武器にかすりでもすれば九頭の海蛇は一瞬で消えてしまう。魔力を供給するようなものだ。
色欲望の宣告者の最後の勝ち筋としては古代魔法武器を奪い取ったり破壊したりすることだ。かといって魔法は使えないし彼女単身でいくのは無茶も甚だしい。なので勝ち筋は二人の持つ古代魔法武器の魔力をゼロにした上で魔法を使わずに単身で向かいうつ事だ。
その勝ち筋、つまり石田達にとっての負け筋は彼らも勿論理解している。負け筋が少しでもあるかぎり戦いな油断などできなかった。
「とにかく、負けねえ。夜をまとう剣」
福田は右手でその夜をまとう剣と古代魔法武器にへと持ち変える。もともと持っていた竹刀は床に落とす。カランという乾いた音がなった。左手には変わらず短い竹刀を持ち一角の激昂馬の構えは止めなかった。古代魔法武器にも実在魔法、無形魔法はそれぞれ一種類づつしか出せないというルールは適用されているため両手共に夜をまとう剣にすることは出来なかった。
「福田。俺は援護に徹する」
「了解。行くぞ!!」
福田は声をあげ一気に距離を積めた。
「ちっ。九頭の海蛇、毒霧であたし達を隠して!!」
「シャー」
九頭の海蛇の毒霧が福田の視界を煙らせる。勿論、福田は毒霧を吸わないよう古代魔法武器で毒霧をすいとる。
「九頭の海蛇、毒霧をはきつづけろ!!」
「させるか、光弾魔法!!」
色欲望の宣告者の声に反応して石田が色欲望の宣告者めがけ魔法を放つ。
「ちっ。九頭の海蛇、守れ」
光弾魔法を防ぐために毒霧を中止させまたしても尻尾で防ぐ。
「壱」
「くっ」
だが、その隙に毒霧を突破した福田の夜をまとう剣が降りおろされそれをギリギリでかわす。
「弐、参、四」
それでも竹刀の突き等の技が次々と襲い掛かる。
「ちっ。闇夜の世界」
色欲望の宣告者はそう呟くと辺り一体が真っ暗になる。
「見えねえ……吸えるか?」
福田は戸惑いながらも古代魔法武器を掲げる。すると、少しづつ魔法が明かりが戻っていく。
「どこだ……」
福田は辺りを見渡して姿を探す。
「クソッ、石田見つけ―――」
「動くな」
福田が振り返った時だった。いつの間にか後ろへと回り込んでいた色欲望の宣告者と九頭の海蛇。色欲望の宣告者は石田の口をふさぎ、九頭の海蛇は尻尾の辺りを上手く巻き付けて石田の古代魔法武器を持つ右手に巻き付き身動きをとれなくさせた。
「ふ、ぐっ……くっ、あぐ……」
石田はなんとか自由に動かせる左手で口をふさいでる手をどうかしようとするが色欲望の宣告者は絶対にさせなかった。口さえふさいでおけば魔法を放たれる心配が無いからだ。
「三つ数えてあげる。その間に貴方のその古代魔法武器を投げ捨てて魔法削除をしなさい」
「……魔法―――」
少し悩んだ顔を見せ渋々といった表情になり下を向いた。だが、その瞬間一気に顔をあげた。
「削除!!」
「えっ!?」
その刹那九頭の海蛇は消えていく。そして、石田は自由になった右手も合わせて口をふさぐ手をどけた。
「プハッ、っと」
石田はなんとか抜け出し肺に空気を送り込もうとした。
「風の拘束具!!」
石田はその入った空気を糧に目一杯叫ぶ。
「あっ」
色欲望の宣告者が反応しようとした時には時すでに遅く拘束された。
「決める。壱」
たったったっ、と走り抜け福田は身動きの取れない色欲望の宣告者を頭から夜をまとう剣できりぬいた。
「あ、ガハッ……」
「……魔法削除」
「魔法削除」
石田と福田は静かに魔法を消した。色欲望の宣告者は拘束されるものが無くなりバタンとその場に倒れこんだ。彼女の周りに血の水溜まりが出来た。
「オイ……殺して無いよな?」
おそるおそる石田は福田に尋ねた。
「大丈夫だ。急所は外してるし傷も浅いはずだ。ただ夜をまとう剣の能力で痛みが増してそれによるもので倒れたんだと思う」
「そっか……じゃぁ、あいつらの元に行くか」
石田は一瞬色欲望の宣告者を見て福田に言った。福田も黙って頷き部屋を出ようとした。
「――――――闇夜の世界」
「なっ!!」
突如、後ろから息切れ切れの声が聞こえ振り返るも遅く部屋が暗くなる。
「くっ!!石田、古代魔法武器!!」
「分かってる!!」
二人とも古代魔法武器を構え暗闇から光を取り戻そうとする。
じょじょに、じょじょに明かりが戻る。そして、うっすらと前が見え始めそこに色欲望の宣告者が見えたと同時にこちらに一気に走り出してきた。
「――――――星の終わり(スター・エウスプロジア)」
その瞬間大爆発が起きる。叫び声をあげるまえに大爆発の大きな音がたった後部屋に静けさが戻った。
秀一君がいなくなってから嫌なくらいの静けさがわたしと夜の魔女を包む。まるで、それは時が止まってるかのように感じる。互いに動かずに相手の動向を探る。でも、その中でも確実にわたしと夜の魔女の違いが現れる。緊張を隠しきれず嫌な汗が背中に伝うわたしと対照的に夜の魔女は余裕ある笑みを浮かべている。なにも動いていないのにこのままでは精神的にわたしが負けてしまう。それなら……わたしから仕掛けるしかないのかな?
「リ、夜の魔女?」
「なに?」
「貴方達の目的はなんなの?」
意を決して尋ねてみる。言葉でどうにかなる相手じゃないということぐらい理解している。でも、むやみに突っ込んでも負けるだけだ。考えるんだ、わたし。
「……それをきいてどうするの?」
「どうする?」
「どんな理由だろうが私達を止めるのは変わらないんでしょ?」
「当たり前でしょ……」
「それなら理由話したって無駄じゃん」
ぐっ……確かにそういうことなんだけど……
「それよりさぁ、ちょっと面白いもの見せてあげよっか?」
「面白いもの?」
きっとわたしにとっては面白くないはずだ。でも、ここで断ったってソレを見せてくるはずだ……何が出ても平常心で……
「なに、その面白いものって?」
「ふふん、ちょっと待ってね。禁術・死者の生誕」
死者の生誕……もしかして、お姉ちゃんを―――なっ!?
「お、お母さん、お父さん!?」
な、なんで……お母さんはともかく、お父さんも死んで……っ。ダメ平常心を。
「あっら〜?姿を見ただけで泣いちゃうとは思わなかったな〜」
「えっ?」
夜の魔女に言われ瞳が熱くなり頬に濡れた感触があるのに気づいた。
「貴女の情報はいっぱいあるんだから、これぐらい簡単に見つけれたよ。さてと、それじゃあ、意識を解放させてあげよっか?あっ、事前に魔法とか貴女の事とかの情報を渡してあるからね?」
「い、イヤ……」
「なぁに〜?」
「や、やめて」
「ふふっ、止めないよ?」
涙がこぼれ落ちるのが分かる。過去が怖い。秀一君が葵さんの事で取り乱すのも仕方ない気がする。
「それじゃあ、行くよ?野星夜世深さん」
「っ!?」
「解放!!」
「あっ」
わたしが止めるまもなく意識を解放させられた。
「んっ……夜世深?夜世深、よね?」
「夜世深……なのか?」
「お父さん、お母さん……」
わたしは―――本名、野星夜世深は二人を目の当たりにし怯んでいた。
先程夜の魔女が言ってたように情報が渡されてるようで二人とも驚いたりしてないようだ。
「夜世深なのね!?おっきくなったね……」
「お、お母さん」
涙声が隠せない。なんで、こんな……
「ふふっ、面白い反応が見れるわ〜。夜世深ちゃん、お母さんはともかく目の前にいるこの男は貴女とお母さんを捨てた男だよ〜?」
夜の魔女の言葉に体が拒否反応をしめし言葉も出ずにただ頭を抱えた。
「夜世深……」
「い、イヤ!!イヤイヤイヤイヤイヤ!!!!」
お父さんが喋りかけてきたがなにも聞きたくない。ただただ拒否する。
「夜の魔女、もう、止めて。魔法を消してよぉぉぉ!!!!」
「や、夜世深!!」
「来ないで!!」
わたしの元にやって来そうなお父さんに言う。
怖い、ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!
「消してよぉぉ。はぁはぁ、闇の玉!!」
わたしは無我夢中で夜の魔女に魔法を放つ。
「ふ〜ん、よっと」
「えっ?体が……きゃあ!!」
「あっ、お母さん……が」
突如魔法の軌道上に恐らく夜の魔女があやつったのであろうお母さんが出てきて魔法にぶつかった。
「あっ、あぁ。わたしが、わたしが、イヤァァァァァァァァァ!!!!」
わたしは頭を振り乱す。
「夜世深、落ち着け!!」
「なんで!?なんで、なんでなんでなんでなんで!?」
「夜世深……」
「あぁぁ、もうヤダ!!ヤダよぉ……」
「……夜世深」
その時優しい声がわたしに耳に届いた。
「お母さん……」
わたしの魔法のせいで服が破れ皮膚に傷がついている。
「夜世深、お話聞いて?」
「……うん」
わたしは涙をふきながら答える。といっても涙はふいたそばから流れ出した。
「私を無視しないでくれる〜?変な事言われ―――」
「魔力操作・命、封鎖」
お母さんが夜の魔女の声を遮り静かに告げた。
「なっ、魔力が操れない!?私はあんた達に魔法なんて与えてないわよ!?って、あっ……」
夜の魔女は驚きのあまり声をあげ魔力が操れなくなったからか足から崩れ落ち座り込んだ。わたしも驚きが隠せなかった。わたし自身魔法は堕天使に入ってから知ったのだ。それに、はじめて聞く魔法だな。
とにかく、お母さんが魔法を使えるなんて……そうか、だから情報を前もって渡されてたとしても全くパニックにならなかったのは魔法を最初から知っていたから、なのかな。
「夜世深、魔法を使えるようになるにはどうしたらいいか知ってる?」
「えっ?低確率で魔力の持った子供が産まれるんじゃ……」
「やっぱり、そう教わってたんだ。ねぇ、魔法って色々な物から力を借りてその対価として魔力を渡すってのは知ってるよね」
「うん……でも、それがなんなの?」
「人ってね、厄介なものを持ってるの」
「厄介なもの?」
急に話がかわりそのまま聞き返す。
「厄介なもの……それは心。もっというなら人を憎んだり、嫉妬したり怒りを覚えたり……そんな負の感情を人は持ってるの。その負の感情が高まったら人は力を求めるもの。夜世深、貴方も力を求めたんでしょ?」
「力……」
わたしは言われて思い出す。お母さんの死を知ったとき、絶望しながらも、こんな世界から抜け出す力を求めた。世界を変える力を。
「ふふっ、そうみたいね。でも、人はそんな急激に力をつけることは出来ないの。だから、法則や物、生き物に風習やならわし等から力を借りるの。その借りた力の対価として支払われるのが魔力と呼ばれるもの」
力の対価に魔力を……それについては知ってたけど新たな事実もあるし……堕天使時の情報はゼロにした方がいいのかも知れない。
「それでね、魔力っていうのは人としての知識や力等の情報の事なの。動物には私達の知識等を対価にすることでより強く進化していき、物質や法則はエネルギーを受けとることによりより強固なものになる、つまり持ちつ持たれつの関係なの。魔呪というのもあるけど魔呪は人の呪いや願いを元にしてるわけだからその元となる都市伝説等の噂が無くならないようにするために人に無意識の内にその話をさせたり興味を注がしたりする力を与えるというちょっと変わったものもあるんだけどね」
それが、魔力なんだ。つまり、そのエネルギーを渡すから魔法を放つと疲れたりするんだ……あれ?ていうことは……わたしはもしかして、ということに気づく。話にのめりこんでいくうちに涙は止まり、冷静さが戻ってきていた。でも、まだお父さんの顔を直視できなかった。
「じゃあ、魔力って……誰にでもあるの?」
先程の話が本当なら人は誰しもがエネルギーや知識をもってるはずだから魔力を持っているはずだ。
「そうよ……でもね、力を大きく求めたとき私達の持つ魔力の一部が放出魔力というものに変わるの」
「放出魔力?」
初めて聞く単語に聞き返す。
「そうよ、放出魔力。対外に放出することができる魔力なのよ」
「対外に……」
「それをするためには力を求めること。その求めた量で対外魔力の量が決まる。つまり、それが私達の言ってる魔力よ。もちろん、最初に求めた量以上の魔力を再度強く望めば対外魔力の量は大きくなるわよ」
「そう……なんだ」
強く望めば……そういえば、秀一君も葵さんの事があるので放出魔力が使えるようになっていてもおかしくはないな。でも、秀一君の話によるとミントさんとの出会いは魔力をもったものにしか見えない光を見たという事だからおかしいな……ということは、恐らくミントさんは秀一君をおびき寄せるために秀一君にだけ見えるような光を出したのだろう。幻覚を見せるなど容易いことだろうし。
というか、聞き忘れてたけどなんで……
「ところで、なんでお母さんは魔法を使えるの?それも知識もすごいし……」
「ぐっ、私を無視して、しゃべるな!!」
いままで黙っていた夜の魔女が声を張りあげどこから取り出したかわたしめがけてナイフを投げてきた。
「きゃっ!!」
「夜世深!!―――ぐっ」 やられる、そう思った瞬間にお父さんがわたしの前に現れわたしを守った。
「お父さん……?」
突然のことで驚くわたし。どうして……?
「うっ、く……夜世深。大丈夫か?」
「お、お父さん……?」
「ははっ……大丈夫そうだな……」
痛いはずなのに笑いを浮かべるお父さん。
「ちっ、外して……うぐっ」
「貴方の魔力もっと制御させてもらったわ―――あなた、大丈夫?」
「あ、あぁ。まあ、もう死んでんだけどな」
そういうお父さんに「それもそうね」とお母さんは笑って返した。
本当に仲がよさそうに笑う。わたしの知らない真実が二人の絆を繋いでるみたいだ。
「……夜世深。お前には辛い現実を押し付けてきたのは分かっている。仕事とかこつけてお前に構ってやれず寂しい思いをさせ、あげくにはお前に豊かな生活どころか普通の日常も過ごさせる事が出来なかった。本当にすまない」
お父さんはすっと頭を下げた。
「言い訳になるかもしれない。それでも、聞いてくれないか。どうして、母さんや私が魔法を知っているのか。お前に辛い現実を押し付けることになってしまった本当の理由を」
「……うん」
わたしはお父さんの真剣な瞳に頷いた。
「ありがとう、夜世深」
お父さんはニッコリと優しい笑みを浮かべ「まずは、私の本当の職業についてから話そうか」と前置きをして語りだした。
新魔歴4811年8月10日
私の元に通達が届いた。ミッション内容は明日の日にちが変わる時刻の前後に堕天使から脱出を試みようとする女性のサポートらしい。魔力は常人よりも大きく上まっているらしい。彼女の中にある絶望は知らないが全面的にサポートをするつもりである。ミリル親衛隊の一員として必ず成功させる。ただ、明日は会社の会議が朝から夕方まではいっている。社長として出席しなくてはならないので疲れそうだ。
新魔歴4811年8月11日
日付もかわりそろそろ朝日がのぼってきそうではあるが一応本日(ただしくは昨日から今日)の出来事を記す。
仕事が終わりすぐに堕天使の基地の近くにまで車で向かった。しばらくまっていると奥の方から黒がみの女性が走ってきた。なにかに終われているかのように後ろを振り向きながら必死に走っている。どうやら、彼女が脱出を試みている女性のようだ。魔法を使えば確実にばれてしまうので彼女に魔法を使わせないようにしなければならない。
タイミングを見計らい私は車から降りて素早く彼女を薬品を嗅がせ気絶させて車に押し込んだ。多少罪悪感はあるが急に彼女の前に現れても信用はかちえないだろうから仕方がなかった。
現在も彼女はベッドの上でグッスリと眠っている。朝日が昇ってきた。少しでも眠ろう。今日は会社にいく必要もないので少しぐらい寝坊してもいいだろう。
新魔歴4811年8月12日
保護していた彼女の声で目が覚める。結局一時間ほどしか眠れなかった。
軽いパニックにおちいっている彼女に事情と自分の名前や何者かを説明。彼女の魔法により嘘はいっていないと信じてもらえた。
だが、明らかに警戒はしている。本来ならすぐにミリル親衛隊の本部に彼女を送るのだが本部からの通達でしばらく彼女を預かることになったのでずっと警戒されっぱなしでは互いに良くない。早く信用を得たいものだ。
新魔歴4811年8月18日
彼女と暮らしはじめ一週間がたった。最初の内こそ警戒していた彼女だが私に悪意が無いのを感じていったのか私を信用してくれるようになった。大きな一歩だ。
まだ、彼女の中の闇は知らないが早く笑顔を取り戻してほしい。本部のほうは知らないが私個人としては一人でも多くの人を救いたいという願いから親衛隊をやっているので闇を取り払ってやりたい。
また、仕事の方も順調だ。親衛隊をやっている給料として私の会社のバックアップを頼んだのは正解だった。
魔学歴4811年9月10日
彼女と暮らして約一ヶ月がたちやっと彼女が始めて笑いをみしてくれた。彼女の笑顔に私は引き込まれていくのを感じた。彼女もまた私がいてくれてよかったと言ってくれた。もう、十分大人なのに年がいもなく少しときめいてしまった。
魔学歴4811年10月28日
彼女の誕生日であることを知りささやかながらケーキを買い誕生日パーティーを開いた。参加者は私と彼女だけの小さなパーティーだ。ケーキを頬張る彼女は可愛らしかった。どうやら、甘いものが大好きらしい。今後も時折買ってやろう。
ケーキを食べ終わった後彼女の過去について話してくれた。簡単にまとめると彼女は幼い頃に両親や兄を目の前で強盗に入った男に殺され自分も瀕死の怪我を受けたらしい。その後、その男は逮捕されたが証拠は彼女の証言しかなく幼い彼女の証言だけでは罪にとえないということで無罪になったらしい。そういった過去があるようだ。
その話をしている彼女の目から涙がこぼれ落ちるのを見て私はいてもたってもいられず彼女を抱き締めていた。彼女はその後も私の胸の中で泣き続けしばらくして泣きつかれたのか寝息をたてていた。
私は彼女を守ってやろうと決意を固めた。
新魔歴4811年12月24日
彼女とクリスマスパーティーを開く。有名なホテルで食事をした後バーに行きカクテルを飲んだ。
カクテルを飲んでいる最中、私は思いきって彼女に交際を申し込んだ。驚いてはいたがすぐに笑顔にかわり交際を受けてくれた。今日が記念日だ。
新魔歴4813年12月24日
交際して二年がたち私は彼女に結婚を申し込んだ。渡した指輪は彼女が以前見ていたものだ。私個人としてはもっと高価なものを渡してやっても構わないがセンスがない私が下手なものを買うよりはましだろうと判断した。
彼女は嬉しそうに笑って結婚を承諾してくれた。また、彼女なら大丈夫だろうと判断し、堕天使からの襲撃から身を守るために親衛隊が作った魔法もいくつか教えた。
新魔歴4814年2月10日
彼女が妊娠した。私の仕事が忙しく夜の営みがなかなか出来なかったのでもしかしたら子どもが出来ないのではと心配していたが杞憂にすんだようだ。もし、この子が女の子ならきっと彼女に似て可愛い子に育つだろう。
新魔歴4014年7月2日
子どもの性別が分かった。どうやら女の子のようだ。今のうちから名前を考えておこう。
また、親衛隊としての仕事も少し減らそう。できるだけ夜は一緒にいてやりたい。
新魔歴4014年12月18日
陣痛がひどくなり産まれそうだと聞いてすぐに病院に駆けつけた。運よく仕事も片付いていたのでよかった。そして、16時40分産声をあげ女の子が産まれた。私は妻を抱き締めた後我が娘をだっこした。名前は決まっている。自分の闇が、夜が深い時でも世界を見れるような子になってほしいそんな願いを込めて夜世深だ。
新魔歴4015年12月18日
夜世深一歳の誕生日。この一年で夜世深は大きく成長していた。親バカかも知れないが夜世深は賢い。この歳で文字が読めるしどこで覚えたのか簡単な漢字なら覚えている。だがまだ少し舌ったらずで『だ』が『ら』になっていたりさ行がうまく言えてないがそれも可愛らしいものだ。
新魔歴4019年5月28日
会社の経営がうまくいかなくなってきている。親衛隊のバックアップもあるのに入札等でうまくいかない日が続く。なにか大きな影のようなものを感じる。杞憂であることを願う。
新魔歴4019年10月10日
不味いことになった。会社の経営がかなり不味い。このままでは倒産もあり得る。なぜだ、何があるんだ。
新魔歴4020年6月15日
やっと、カラクリがとけた。裏で堕天使が私の会社を陥れようとしていることに気づいた。恐らくは今までの親衛隊としての活動の報復だろう……もっと早く気づいておくべきだった。会社は倒産してしまった。家族にも社員にも申し訳ない。
新魔歴4020年6月25日
堕天使が私と妻の命を狙っている。少しでも時間を稼ぐために私は妻と夜世深と離れる決断をした。夜世深には私は妻子を捨て逃げ出したと説明するよう妻にいった。妻は泣いて嫌がったが私の決意は変わらないどうか生き抜いてくれ。
「その後、私は堕天使に殺された。お前らだけは守ろうと色々情報を撹乱させたが無駄だった。結局母さんは殺されたし……夜世深、本当にすまない」
大きく頭を下げるお父さん……こんな事情があったなんて……
「許せない……」
「ふっ、そうだよな……私はさんざん迷惑をかけたし許してもらおうなんて、虫がよすぎたか」
「違う、わたしは堕天使が許せない。絶対に倒す」
わたしは強く拳を握りしめる。その瞬間体が暑くなった気がした。
「夜世深、貴女の魔力が一気に」
「えっ?」
言われて気づく。力がみなぎっている。力を望んだから放出魔力が増えたということ?
わたしは自分の変化に驚く。
「この力なら倒せる。夜の魔女、まずはあなたを倒す!!」
わたしはそう宣言する。
「くっ、やれるものなら、ね―――はあ!!」
「あっ!!」
突然夜の魔女が叫ぶとお母さんが驚いた声をあげる。どうやら、魔法が解かれたようだ。
「はぁはぁ、魔力を一気に体外に放出してみせたらとけたわね」
「くっ……ふっ、今魔法をだしても魔法削除されて終わりね。夜世深、最後に一つだけ。自分の信念は絶対に曲げてはだめよ」
「夜世深、私からも最後に一つだけ。正義は困難が立ちふさがったとしてもいつかは必ず勝つんだぞ」
「はぁはぁ、お話しはそれで終わりかしら?魔法削除」
「あっ……」
わたしは小さく声を漏らした。折角絆を取り戻せた両親が目の前で消えるなんて……少し悲しい気分になる。でも、わたしは負けたりしない!!
「夜の魔女。貴方は魔力を体外に一気に放出して魔力も限界に近いはず、対するわたしは魔力を大きく蓄えれた。負けるはずがないよ」
わたしは強く宣告した。しかし……
「ふっ、言ってくれるわね。でも、魔力がないなら明日の分を明後日の分を引き出すのみ。禁術・未来吸収」
夜の魔女の声と共に彼女の魔力が戻っていくのを感じる。
「ふー。ふふっ、魔力を一気に回復してみたわ。これで、あなたとイーブン」
にこやかに笑う夜の魔女。こんな、魔法が……
「不思議そうね。この魔法はね自らの体を活性化させて無理やり魔力を生成するもの。もちろん、副作用もあってこの魔法がきれたら動けなくなるし下手したら全身の筋肉が使えなくなったり脳に後遺症がでることもあるんだけどね〜」
なんでも無さそうにとんでもないことを言う。
「それじゃあ、戦況を整えさせてもらおうかしら?禁術・遺伝子改造生物」
夜の魔女の声に反応して六人もの人が現れた。いや、人ではない。人のようなものだ。牙や翼、異常に長い爪等特徴的な物が一つあった。
「ふう、だいぶ魔力が持っていかれたわ……でも、これでいいわ。ふふっ、この子達はね、私が実験材料として捕まえてた人たち。色んな生物の遺伝子を組み込んで人では無いものにして殺した。そのせいで死者の生誕では復活できなくて新しい魔法を定義したのよね〜」
「っつ……」
怒りで声が漏れそうになるのを押さえる。人を殺すだけでもなくさらにいじるなんで……最低。
「面白い顔。なに?私が鬼畜で残虐な女とでも思った?ふふっ、別にいいじゃない。私はそういう人間なの。悔しかったら倒しなさい。といっても、私に触れるには今や私の奴隷とかした彼らを退けないとね―――命令移行・待機から攻撃へ」
「「「「「「グルアァァァァァァァァァ」」」」」」
夜の魔女の声に反応して獣のような雄叫びをあげた。ここは心を鬼にしてもなんとか彼らを倒さなきゃ。
わたしは急に襲われないように後ろにへと後ずさる。そして、新たに作っておいた魔法を発動させた
「星の召喚、星座双子座!!」
わたしは魔法を発動させる、そうして……
「「貴女が全員で七人ならわたしは一人二役をやる」」
わたし達は声を揃えていった。夜の魔女も一瞬、驚いた表情を見せた。
この魔法、双子座は魔法発動者そっくりに、いや正しくは完全にコピーして現れる。そして、一緒に戦ってくれるのだ。もちろん、双子座自身が実在魔法なので実在魔法はわたしも双子座も扱えないが無形魔法ならわたしと双子座はそれぞれ別の魔法を発動することが可能なのだ。さらに、わたしと双子座は脳内でいつでも会話できるので連携もとれやすいという魔法だ。
「ふふっ、面白い。行きなさい、みんな!!」
「「「「「「ウヲォォォオォォ」」」」」」
「闇の玉」
遺伝子改造生物が襲ってきたのを見てわたしは一歩後ろに下がり双子座が攻撃を繰り出す。遺伝子改造生物もそれを回避する。一人は異常に発達した足でジャンプしたり背中に生えた翼で空中に逃げたり発達した腕で防御したりしている。ある程度の知恵はあるらしい。言語を話してないので知恵はないと思ったのだけどな……
(あたしが誘導かけるから夜美は夜の魔女をお願い)
(わかった。双子座よろしく)
わたしは脳内で会話をする。双子座は喋るときはわたしのまねをして喋るけども脳内会話の時は通常の自分のしゃべり方になるし声音も変わる。
「闇なる弾丸」
双子座が闇の玉のワンランク上の闇なる弾丸を放った。大きな違いは闇の玉は多数の玉を放つのに対してこちらは大きな弾丸を一つ放つのだ。さらに被弾した場所を中心に爆発が起こる他追尾性能まである。
「グアァァァァ!!」
闇なる弾丸が四足歩行の男に当たり爆発起こる。わたしはその爆炎の中を走り夜の魔女の元に走る。
「流星の滝」
「太陽の輝き」
わたしの流星の滝と夜の魔女の太陽の輝き(サンシャイン)ぶつかる。流星の流れる早さのエネルギーと瞬間的な爆発エネルギーがぶつかりあい拮抗する。互いに実在魔法を発動した状態での戦いなので無形魔法しか使えない。どのように魔法を繰り出すか、これが大事だ。わたしは一度距離をとり体制を整える。
「一筋縄ではいかない、か」
「ふふっ、当たり前でしょ」
視線を交差させる。まっすぐやりあってもじり貧戦。勝てるかどうか……それに常に実在魔法を発動しているわけだ魔力消費も馬鹿にはならない。
緊張感を持ちつつもチラリと双子座の方を見た。おしつおされつ、双子座の攻撃はあたってはいるが致命傷を与えていない。加えて治癒能力がすざましい。怪我をしたところからすぐに皮膚が再生していっていた。
「抜け出せぬ光!!」
わたしは目の前に全てのものを吸い込み別次元に吹き飛ばす事のできる魔法を発動させた。
すぐにホコリや空気といったものが吸い込まれていく。火力にもよるがこの魔法は建物の一軒ぐらい簡単に破壊することができる魔法だ。しかし、今回は威力を高くするのはあまりにも危険すぎる。強すぎる事のない力を維 持しないと行けないが夜の魔女の動きを擬似的に拘束することはできた。
「くっ」
吸い込まれないよう踏ん張る夜の魔女。よし、これなら……
(双子座、夜の魔女を狙える?)
(ちょっと、待って……)
「闇の玉!!」
双子座は空中から自分をを狙う敵と牙の生えた敵に魔法を放った。かなり魔力を込めたようでダメージも大きそうで塵が舞う。……そうだ。これなら。
(――――――)
(―――了解。その作戦で行くよ!!)
「闇なる弾丸!!」
「くっ、太陽の終結!!」
二つの魔法がぶつかり爆煙を起こし消滅した。
わたし達はそれにともない立っていた場所から少し下がった。その時。
「ウグッ」
爆煙と二つの混ざりあった多量の魔力を吸い込んだ事により抜け出せぬ光が大きくゆらいだ。それを、夜の魔女は見逃さなかった。
「魔法削除」
こちらに走りながら遺伝子改造生物を消す。
「禁術・遺伝子変更、能力・爪!!」
一瞬にして大きく伸びた爪を大きくふりあげ、そして……
「きゃぁ!!」
抜け出せぬ光が破られたせいで体が揺らぎ。
「これで終わり!!」
死を宣告する言葉をなげかけ大きく腕を振り上げたのを見て、わたしは動いた。
「魔法削除。夜をまとう剣!!」
爆発が起こったときに抜け出せぬ光を素早く展開させ入れ替わっていた双子座を消しわたしは夜をまとう剣を夜の魔女の振り上げた手のある方の肩にさした。
「ぐっ」
その状態のまま夜の魔女は動けなくなった。
「……四肢の自由は奪わせてもらうから」
わたしはそう告げて肩にさしてある剣をそのまま下に下げる。血が溢れだした。
「あぁ!!」
叫び声をあげるがここで慈悲をかけたらこちらがやられてしまうかもしれないので無言のまま両足も切り裂いた。もちろん切断はしていない。あくまで傷つけただけだ。
もう片方の肩はあのとき、ミントさんが裏切った時につけた傷があるので大丈夫だろう。
「あ、あぁぁ!!くっ……―――」
叫び声をあげ痛みにより夜の魔女は気絶した。最後のなにか言葉を発していたような気がするが聞き取れなかった。恐らく恨み言だろう。
「魔法削除」
わたしは剣を消す。
今回の作戦は双子座がいたからこそできたようなものだ。ありがとう、双子座。
わたしは小さく心のなかで告げて秀一君の元へ向かおうと部屋を出ようとした瞬間。
―――パシュ。
四方八方から魔力の込められた矢―――物質変換矢が飛んできた。罠にかかった!?夜の魔女がこの罠を仕掛けるために最後の呟いたのか、と分かった時には遅く矢はもうわたしの目の前に迫っていた。
「ミント!!向かえに来たぞ!!」
僕の声は室内に響いた。
「向かえに来た、じゃなくて倒しに来た、でしょ?」
しかし、冷たく言い返される。その声は僕のしる声よりずっと冷たかった。
「いや、僕は向かえに来たんだ!!ミント=クリア=ライトを」
「馬鹿馬鹿しい。私は敵。いい加減わかったら?」
「そんなの知らない。僕は、僕の為にミントを連れて帰るんだ!!」
「なぜ、私を追いかけるの?さっさと殺せばいいじゃない」
「なぜって……僕は、僕はミント。お前が好きだからだよ!!」
僕は心にうじた気持ちをぶちまけた。鼓動が早くなる。
「ふんっ、面白いこと言うわね」
しかし、ミントに鼻で笑われてしまう。くそっ、なんでなんだよ!!
「まあ、いいわ。生きて私の前に現れた。約束通りどうして私がこんな回りくどいことをしたのか、堕天使とはなんなのか。教えてあげる」
椅子に座り直しミントは息をすった。
「魔学歴3065年ある男が産まれた」
「魔学歴?」
聞きなれない言葉に聞き返す。
「魔学歴。魔法を栄えはじめてからの時代の年号よ。西暦何年とかの魔法版とでも考えたら分かりやすいわ。とにかく、魔学歴3065年ある男が産まれた。そして二年後その男に弟が産まれた。この二人の兄弟の名前は兄はミリル=クリア=ライト、弟の名前はミリス=クリア=ライトよ」
「……ミリス」
その名前には聞き覚えがあった。世界から魔法を使えなくしたミントの祖先だよな。
「彼らはうまれつき高い魔力を持っていて五百年に一度の天才と呼ばれたわ。この時代、魔力は産まれ持った才能のようなもので魔力が高い人はそれだけで十分すぎる力をてにいれることが可能だったのよ。しかし、魔学歴3075年ある事件が起きた」
「ある、事件?」
「彼らの産まれた時代では世界的にある宗教があった。神を崇拝し“神の言葉”として定められた運命道理に生きないといけないという宗教が。そして父親がその宗教の熱心な信者だったのよ。その父親が“神の言葉”を信じてその定められた運命通りにミリス達の母親、つまり彼の妻を殺害したわ」
「なっ……」
僕は言葉を失った。宗教が深く根付いていないこの日本で産まれそして育った僕にとって宗教がそんなに影響を与えるなんて考えられなかった。そんなに“神の言葉”が大切なのか……
「で、でも。なんで、そんな運命が定められたんだよ……というか、“神の言葉”はどうやって知ったんだ?」 小さな矛盾。僕はそれを尋ねる。神様が本当にいるかどうかなんてわからない。でも、神様から言葉を聞くことなんて不可能だということはわかる。それを知れるなんて矛盾だ。
「いいえ、知れたの―――知らされたのよ」
「知らされた?」
「この宗教の幹部達が“神の言葉”を聞きそれを信者に知らせる、そういう形をとったのよ」
「だ、だから。その“神の言葉”をどうやって聞いたんだよ?」
「彼らにとっての神、宗教党首の言葉が“神の言葉”よ」
「なっ……」
言葉を無くす。そんなの、ただの人間じゃないか。それが神だなんて……
「まあ、その事実を知っていたのは一部の幹部。他の信者は本当に神がいると信じて疑わなかったでしょうね」
そんな……って、今はそんなこと関係ない。
「でも、なにが目的で……そんなことを」
「魔法を無限のものにするため、よ」
「魔法を無限のものに?」
ミントの言葉には魔法は有限である、というニュアンスが含まれていた。
「魔法は動物や法則に魔力を与えて力を得るということ。これは前に話したわね。それに嘘は無いわ。その魔力。魔力ってなんだと思う?」
「えっ?」
「それはね――――――」
ミントは魔力の説明を並べた。
知識や力がそれにあたる、そういう事らしい。
「そういった力をてに入れた動物や法則は更なる進化をしようとする。動物は知識を持ち植物は異常な成長をみせ、法則はバランスを崩し、星は活動が活発になる。そんな事が起こったら世界は滅茶苦茶になるわ。それを察知してある団体―――和名に直していうと魔力管理保持団体が魔法を自分達だけのものにするために活動を始め宗教という形を造り人々の持つ魔力がむやみやたらに使われないように管理し始めた」
「それと、人を殺すのとなんの関係があるんだよ?」
その“神の言葉”で人を殺すのと関係がないような気がするんだが……
「まず第一に人口を操作するため。“神の言葉”のほとんどが人を殺せ、ここで死ね、子供を産むな、といった 人口を操るためのものよ。単純に人口が減れば魔法が使われる回数が減るからね」
「それは、そうだけど。だからといって人を殺すなんてしたら結果的に世界は無茶苦茶になるんじゃ」
「言ったでしょ?この団体の目的は“魔法を自分達のものにするために”って。他人を中心とした世界なんてどうでもいいの。自分達が快適に暮らせる世界があればいいの」
そんな……自分達だけがって。
「そして第二に魂の転生に力を注がせるために」
「魂の転生?」
僕はそのまま聞き返す。
「森羅万象すべてのものには魂が存在する。その魂が転生しないで留まるのは世界の均衡を破壊すことにつながることになる。その転生の為に魔力を大量に必要とするから結果的に世界を滅茶苦茶になるのを遅れさせることができるということ」
だからって……酷い。
「そして、ここからが本題よ。母親を無くしたミリルとミリスは“神の言葉”を疑った。本当の神なら誰かが悲しむような命令をするはずがないって疑った。勿論、ミリル達の他にも“神の言葉”を疑う人はたくさんいたわ。でも、それを否定すれば神に逆らった、つまり悪魔として処刑されたわ。これは通称、悪魔狩りと呼ばれている」
悪魔狩り……魔女狩りというものは聞いたことはあるがそれと似たようなものだろう。
「そんななか、ミリル達は考えた。まだ、十歳と八歳だけど否定を唱えれば大人子供関係なく殺される。自分達が死んだら意味がない。自分達に出来ることを探した。探してある結論に当たった。それは自分達には魔法の才能があるということ。だから、魔法を使って内部を調べ始めた。そうして五年後魔学歴3080年、ミリル十五歳、ミリス十三歳の時知ったのよ、この宗教がどういったものなのか」
もし自分がミリル達なら……怒りを覚えるだろうな。自分たちの人生を“神の言葉”なんてでたらめなもので狂わせたんだから。
「そうして、二人は決意をする。ミリルは自分人生を狂わせたこの宗教を壊滅しようと、ミリスは……この宗教のトップに立ち人を支配しようと」
「なっ!?」
あり得ない。なんで自分の母親を殺した宗教に入ろうだなんて。
「こうてし二人は行動を起こしし始めた。ミリルは裏で気づかれないように同じくこの宗教に不審を持つ者を集め戦力を高めていき、ミリスは自分の持つ魔法で記憶の操作等を行い上に登りつめていった。魔学歴3084年ミリルは親衛隊を作り上げミリスは宗教党首になって二人は激しくぶつかり合った」
兄弟なのに……兄弟なのにいがみ合い殺しあうなんて。
「二人の戦いはとても激しいものになった。殺し殺され……そして、魔学歴3085年、12月31日、今のこの日本という地域で最後の戦いが起こった。互いに最大威力の魔法を放ちあった」
「それで?それでどっちが勝ったんだ?」
「二人とも負けた」
「は?」
「二人とも世界に負けたのよ」
「世界にって……どういうことだよ?」
「いったでしょ。魔法を使いすぎたら世界のバランスが崩れるって。つまり魔法を与えすぎて世界が崩れ二人は負けたのよ」
世界、世界が崩れた後……ミリルは世界にに負けた……皮肉だな。
「そして元に戻すためにミリルは本当に力を求めた人以外に魔力を発生させないようにする為に対価の無い願いをかけ魔力を対外に放出したり貸し与えることを封じた。そして、この魔法事態に呪いをかけ封印した。その封印を解く三つのカギをこの日本に放ったのち人々から記憶を奪い、いくつかの禁術や通常魔法を封印して無形魔法を新たに作ることを封じて世界をリセットさせた。一応言っておくとこの事件を気に区別をする為年号を魔学歴から新魔歴と呼ぶようになったわ」
「ところで、三つのカギってまさか……」
「そうよ。神から産まれた悪魔、神から授かりし光、生命の調整機この三つのカギを残してミリルは残った親衛隊に世界を見守るように言って死んだわ」
それがミリル……僕はそのうちの神から授かりし光の能力をもらったわけか。
「この三つのカギの説明、の前にその時ミリスが起こした行動を教えるわ。ミリスはね、それを認めなかった。魔法を自分のものにしたかった。だから……力をこの手にする為にこの宗教団体の残党とともに堕天使を立ち上げたのよ」
「立ち上げたって……だとしても、ミリスはもう死んでるはずだろ?だって……もう何百年も昔の話なんだからそれなのになんでまだ堕天使は残っているんだ?ミリスの意思を継ぐ者が現れたのか?」
僕は疑問を連ねる。
「ふふっ、そう思う?」
「えっ?」
「ミリスは死んだ。そう思うの?」
「何を言って……まさか」
「そうよ、ミリスはまだ生きている。自らにかけた魔法、禁術・存在し続ける魂と体という魔法で自分を不老不死にしたのよ」
「不老、不死に……」
僕は小さく呟く。不老不死なんて……とてもじゃないが僕は耐えられないだろうな。
「話を戻して三つのカギについて。このカギの説明をしましょう。まず生命の調整機。唯一人に寄生しない欠片で狼の形をかたどり生命のバランスが崩れそうならそれを支えるのが役目。神から産まれた悪魔。人に寄生する欠片でこの欠片の持ち主は魔力の量が異常に多く、常に欠片から魔力が放出されるので魔力がきれることがない。神から授かりし光。この欠片も人に寄生して欠片の持ち主は三つの性質を有することができて魔法の才能にあふれているため高速詠唱等のことが初期からできるわ。そして、この三つの欠片を集め調合した時呪いは溶けて自由な魔法が手にはいるのよ」
「……欠片が寄生する人間ってのは決まっているのか?それともランダムで?」
僕は質問を問いかける。人間はいつか死ぬ。そのたびに欠片は寄生する人間をかけるのか?
「ランダム……というわけではないけどそれに近いわね。前の欠片の持ち主が死んだ直後、他二つの欠片が遠く離れすぎない距離に産まれた生命力の高い人間が選ばれるわ」
「つまり、僕が選ばれたのは偶然というわけか―――あれ?でもミントの言い方じゃどうやって神から産まれた悪魔の欠片を持つものを党首としていたんだ?ランダムなんだろ?」
「ふんっ、ある程度操作出来るランダムなら堕天使の力ならなんとか出来るわ。前の欠片の持ち主が死ぬ瞬間に合わせてその死ぬ場所から遠すぎない距離にある支部で子供を大量に産ませればいい。生命を操ること事態魔法を使えば簡単なこと。私だってそうやって産まれたのよ」
「そう、か―――あれ?」
僕はそこで疑問をいだいた。
「なら、なぜ神から授かりし光の欠片もそうやっててにいれなかったんだ?」
そうだ、なぜそれをしない……いや、しないのじゃなくて出来ないのか?
「出来ないのよ。実は神から授かりし光の欠片にはある仕掛けがほどこされているの」
「仕掛け?」
「神から授かりし光の欠片にはある運命が刻まれている。それは幼い頃に絶望をあじわうこと」
「絶望……?」
僕は聞き返す。自分の中の絶望……葵姉さんのことか……?
「絶望を味わい苦しんだことで神から授かりし光の欠片はくすんでしまいカギとしての役割をはたせなくする。だから神から授かりし光の欠片を使えるようにするにはあることをしなければならない。そのあることというのは、絶望の克服。これをすることにより本来の在り方に戻せる。堕天使に最初からいたら絶望の克服というのは難しくなる。だから泳がせる必要があったの。面倒な制約ね。しかも欠片を一つに集めるためには欠片の持ち主が他の欠片の持ち主を倒すのが条件。さらに、神から授かりし光は生命の調整機を、生命の調整機は神から産まれた悪魔を、神から産まれた悪魔は神から授かりし光を、倒さないと意味がない。ちょうどじゃんけんのような関係ね」
「ま、待ってくれ!!僕は生命の調整機を倒したのか?」
「自覚がないとは言わせないわよ?あなたは生命の調整機という魔法を破壊したでしょ?」
確かに……破壊してしまった。でも……
「僕が魔法消去をしたあとも耐えていた。それをミントの気持ちを送ったことで大人しくなったんじゃ……」
「あ〜、思想伝言魔法だっけ?あの魔法は厄介だったわ。どうせ、生命の調整機はいつか消えてたのに。だからあの時はメッセージは眠いという気持ちをのせた。思想伝言魔法は伝言鳩魔法の上位互換。だから、相手の脳内にイメージを送り無理矢理体や心に干渉することも可能と考えたのよ。結果は大成功。動きは鈍って消えていったわ」
「え?でもあの時、ミントの気持ちは僕も感じていたぞ?」
「ふふっ。違うわよ。この魔法にどんな事が含まれているかなんて分からないからもしものために伝言鳩魔法を飛ばしておいたのよ」
「じゃあ、全部計算だったのか?」
「そうよ。まず貴方に生命の調整機を倒させその間に過ごした時間を元に冨本秀一をプロファイディング。そのプロファイディング結果を元に冨本秀一の中にある汚れを浄化させるために行動を起こしたのよ」
全部策略だったのかよ……ミント。
憤りや苛立ちよりも悲しみが僕を包んだ。
「因みに教えてあげるわ。表向きな堕天使の党首は代々神から産まれた悪魔の欠片を持つものが選ばれる。もちろん天使の名もそのまま神から産まれた悪魔よ。そして、真の党首であるミリスが自分につけた天使の名は堕天の頂上に立つ者」
「堕天の頂上に立つ者……」
僕はその言葉を小さく呟いた。まだ、彼、堕天の頂上に立つ者―――ミリスは生きているということだよな。っ!!ということは!!
「ふふっ、現在、ミリル様は私の中にあった欠片も持ち出して欠片の調合の最終段階に入っておられるわ。ミリス様はこの部屋の奥にいるわ。会いたければ私を倒しなさい」
「っ……」
ミントを……倒す。僕にはそんな事が出来る自信なんてない。でも……
―――ここは俺達に任せろ!!お前達はさっさとミントさんを見つけ出してこい。
石田と福田の言葉。
―――日常が始まった時秀一君の導き出した答えを教えて。
夜美の言葉。
僕は三人の決意を、思いをを背負っている。そこから導きだす答えは一つ。
ミントに本当の意味で勝つ!!
「ミント。僕は負けない。絶対に!!」
「あっそ。じゃあ、お互いに欠片の元保持者なんだし全力で戦いましょ。お互いに欠片の残骸は残ってるはずだから、私は枯れることのない魔力で、冨本秀一は三つの性質を使い勝負ね。光弾魔法!!」
「相殺する。緑森林の塊!!」
魔力を節約するために性質相性的によい草を選択する。互いにぶつかりあい小さな爆発をおこし消えていく魔法。
しかし……このままでは無限に魔力のあるミントにいつか負けてしまう。
――――――なら。
「魔力合成・緑光の斬り切り!!」
僕は斬撃せいの高い風を送る。中に鋭い葉や枝の含まれた。この魔法が光弾魔法を次々と破壊しミントの元に向かった。
草と風の性質を混ぜ合わせた魔法。実在魔法しか新たな魔法が作れないが魔法の一部が実在していればそれは実在魔法と定義される。いささかこじつけに感じるが、まあそんなことは今はいいだろう。
「風をまとう剣」
ミントはすぐに剣を具現させ剣をひとふりさせて強烈な風を送り魔法を相殺する。全くの余裕の表情だ。
だが……ミントは風の性質しか使えないならその風と踊れれる強力な魔法なら。
「風と舞い全てを斬りつける化け狐」
魔力消費を抑えるため一文の呪文を紡ぐ。そして、Sランク魔法を放つ。
「疾風の狐妖怪!!」
「キュウウン」
僕の前に身長130センチ前後の和服でキツネの耳をつけた鎌をもった女の子が現れ一鳴きする。
見た目としてはキツネ耳をつけた以外では特に変わった所はない。言語は有して無いが知能は高く僕の指示通りに動くのはもちろん、状況を判断して最適な行動をしてくれる。
「疾風の狐妖怪ね。どこまでやれるかしら?」
「キュウ?」
ミントの言葉に疾風の狐妖怪は首をかしげ僕に寄り添う。そうか……疾風の狐妖怪はミントの事を知っている。仲間だったミントの事を。そのミントが敵となっているのだから戸惑っているんだろう。
「ミントは今は敵だ。でも、僕たちの元に帰ってくるよう説得するため戦うんだ。だから手伝ってくれるか?」
「キュウ!!」
「そっか、じゃあ頼むぞ―――マイカゼ!!」
僕はこの魔法に与えた僕の疾風の狐妖怪だけの名、マイカゼを言った。
魔法犬をマトと言っていたからか僕は知性のある魔法には名前をつけていた。やはり、わざわざ長い名前をいうよりは連携もとりやすいしニュックネームのようなもので仲もよくなりやすくなるという考えからだ。魔法との連携は大切なので仲を良くするのは大切だと思っている。幸いにもマイカゼも僕に甘えてくるし仲は良好だと思っている。
「マイカゼ……久しぶりね。それにSランクか。なら私も別の魔法にしようかな。魔法削除――――――天空と光の派数武器、形態・双剣」
ミントの手に金色に輝く双剣が現れ、それを構える。
「これもSランク魔法よ。風をまとう剣の能力に加え光に関係した攻撃もできるようになってるし、わざわざ魔法を消さなくても形態を変えることで大剣や刀、弓に拳銃といった武器に変形させる事ができるのよ。」
クスクスと笑うミント。手に持つ双剣の光に僕は焦燥感にかられる。その光はとても眩しいのに花火のごとくすぐに消えてミントも手の届かない場所に行ってしまうような―――そんな気分になる。
「……マイカゼ、鎌疾風」
「キュウン」
僕の声に頷いてマイカゼは鎌を振り風の三枚刃よりも強力な鋭い風を連続で送る。
「ふふっ、無駄よ」
だが、ミントは双剣を細かくふると同じく風が発生したのか鎌疾風とぶつかり合い爆風のようなものが起こり服を乱す。
「くっ、マイカゼ鎌疾風を続けてくれ―――」
僕はそう頼んで呪文をつむぐ。呪文はできるかぎり魔力節約のため言っておきたい。
「風の三枚刃」
僕はマイカゼの攻撃に加勢すべく魔法を放つ。鎌疾風とミントの繰り出す風は互いに拮抗しているように見えた。なら僕が加勢すれば……と思ったのだが……
「形態変更・大剣」
ミントは双剣を合わせるようにもったかと思うと一メートルぐらいの大きな剣に変更させてぶんとひとふりすると強風が現れ魔法を消し飛ばされる。
「くっ」
僕は強風に煽られたじろぐが風と躍り自由に飛行も可能なマイカゼに背中を支えられ助かる。
「ちっ……マイカゼ、鎌斬鬼」
「キュウッ!!」
僕の声に反応してマイカゼは一気にミントの元に移動して鎌を連続で振り落とす。
「はっ、とっ……」
ミントは上手く大剣に当てかわしてるようだ。しかし、大剣はその大きさゆえに動きが鈍くなるはずだ。だから!!
「風の三枚刃!!」
僕は横に回り大剣でのカバーが無理であろう位置に魔法を放つ。当たる……そう思ったが。
「無駄よ!!」
ミントの声と共に大剣が眩しく光る。
「くっ」
「キュン!!」
光の眩しさでマイカゼの動きが一瞬止まる。そのすきに大剣を降り風の三枚刃を消し飛ばせる。
「よっと……形態変更・槍」
ミントは悠々と距離をおき大剣から槍へと姿を変えさせ片手で持つ。
「次は私から仕掛けさせてもらうわ」
その言葉通り僕に向かって槍を構えながら走り出してくる。
「なにを……」
僕はたじろぎ後退しようとする。
「はっ!!」
しかし、思いの外急にミントは突進を止めた。のだが……
「グフッ……ガハッ」
鋭い風が僕の鳩尾にあたり吹き飛びそして壁にぶつかる。海老のような形でぶつかったので頭からではなくお尻からぶつかったのが不幸中の幸いだ。
「マイ、カゼ……千切風切」
でも、痛みにたえ命じる。マイカゼも心配そうにこちらを見ていたが顔を幼い顔を引き締め鎌を細かく乱雑にみえて繊細にふるい様々な風を送った。
「形態変更・双剣」
ミントはそれをみて双剣へと形を戻し僕に背を向け千切風切に対抗する。
―――貰った!!
「人体転移魔法」
「えっ?」
僕は一瞬にしてミントの後ろにたどり着く。そして。
「風の拘束具!!」
「|しまっ―――」
僕はミントを剣を振るった瞬間に停止させる。
「マイカゼ!!」
「キュウ!!」
僕の意思をよみとりマイカゼの送った風の軌道を変更させミントの両手両足に傷を負わせる。
「くっ……」
悔しそうな声をあげるミント……両手足をやられたら攻撃はできないはずだ……と思いミントの手足をみるが。
「なっ!?」
血が一滴も出ていなかった。まさか!!
「形態変更・弓」
後ろから声が聞こえふりかえると“本物”のミントがいて風の弓矢を放っていた。
「うっ……」
―――ドスッ。
肩に衝撃を受け倒れ込む。見えない弓矢は僕の肩を貫通し穴を開けていた。
痛みで視界が揺らぐ。ちらりと後方をみるとマイカゼの姿が無かった。恐らく僕が傷の痛みで魔法の維持が困難になったから消えたのだろう。
「―――光の屈折……大剣を光らせた時に発動していたわ」
コツコツと弓を片手に近づくミント。くそっ、なすすべがない……
「これで終わらせてあげる。死になさい」
ミントが弓を引く、その時。
「えっ?」
窓から入ってくる光が一瞬緑に変わり暗くなる。
あれは……あの光は。
「まあ、いいわ。最後に遺言は?」
ミントは気にしないように弓を引ききってニヤリと笑みを浮かべた。
「かたどるは幸せへの具現の導き」
「えっ?」
僕の言う言葉が意味が分からなかったからミントが眉をひそめた。しかし、構わずいいはなつ。呪文はできた。後は魔法名だけ。たった今思いついた魔法に名前をつける。
「幸せ具現へ導く緑閃光!!」
「なっ!?くっ……」
僕が叫んだとたん胸元から眩い緑色の光が放たれた。ミントがその光に驚いているすきになんとか逃げ出す。
肩にあいた穴は緑に発光しながら綺麗に塞がっていく。
「……成功か」
僕は淡い緑の光をはなつ十字架のホルダーのついたネックレスに手をやった。
―――グリーンフラッシュ。陽がおちる瞬間、緑色の光が見える現象で空気のすんだ場所等のいくつかの条件が揃ったときに起こる現象。その光をみたひとは幸せになれるという。
「なんなのよ……まあ、いいわ、くらいなさい」
ミントが風の弓を放つ。しかし―――
キンッという甲高い音共にその風の矢は弾き返されその瞬間緑の光は輝きを増す。
「そんな……」
驚いた声をあげるミント。
「無駄だ。この、幸せ具現に導く緑閃光は僕の幸せを求め絶望を拒否する。だから、偶然というなのもとに僕は助かる」
「っ……」
僕の説明に苦虫を潰したような顔になるミント。でも、本当の意味での戦いはこれからだ。残り魔力も少ない。できるだけ迅速にミントを連れ戻す。
「なあ、ミント。さっきの説明だとお前もミリスの駒の一つ、ということだろ?なんでそれを黙って肯定するんだ?」
「―――ならなかった」
「え?」
「肯定せざるえなかった!!私の妹の為に!!」
瞳に大きな涙を浮かべるミント。
―――ミントの過去になにかあったのか?
そう考えた矢先気づく。魔法を使う為には一度力を求めるような過去がなければならないということを……
「―――私には妹がいた。いつも、私に甘えてくる可愛い妹―――ミライ=クリア=ライトが……でも、私が欠片を 持っていたから堕天使は私とミライを引き離してミライを軟禁した」
「軟禁……!!」
「私達は嫌がった!!でも、そこでミリス様に言われたの……私が大人しく協力するのならミライは元気にすごせる、ただし反発すれば……どうなるかわからないって」
「脅しじゃないか!!」
「関係無い!!私はミライを助けたかった!!だから……」
僕は何もいえず黙ってしまう。その光景は昔、葵姉さんと見たあの映画、『未来泥棒』にそっくりだった。
未来を盗んでいたイアの目的は時間を、運命を停止させて妹の病の進行を止めることだった。その為に色々な場所の時を止めて運命の進まない世界を作ろうとした。しかし、後もう少しのところでラミに止められる。ラミは彼女に自分の胸の内を伝え運命を進ませることで病を治す方法を模索するという可能性をあげて、ラミの妹もそれを望んだため運命の歯車が再度回り始めた、という話だった。最後のシーンは今でもよく覚えている。未来を進む決意をしたラミとイアが夕日に向かい手を繋ぐシーンだ。
そんなイアに、ミントはとてもよく似ていた。妹の為に自分を犠牲にしようとする、そんな姿が。
だから、僕もラミになりきる。自分の想いを言う。
「ミント……僕はミントの笑顔や仕草に引かれていって好きになった」
きちんと目を見てミントに伝える。胸元に光るネックレスの輝きがます。きっとその光は幸せに導く光であるはず。
「従うしか無いのか?戦う事はできなかったのか?」
「…………無理よ。反抗したら殺される可能性が高い。なら従う方が安全」
ミントは弓を持っている方とは逆の手を強く握りしめる。爪が食い込んだのか血が流れ落ちた。
それをみてさとる。ミントも悔しいのだと。
「……最低だ」
僕は低く呟く。こんなにミントを悩ませるミリスが許せなかった。
「おい!!きいてるんだろ!?ミリス、出てこい!!」
僕は部屋を見渡しながら叫ぶ。ミントは何も言わずただ嗚咽を噛み殺していた。
その時、目の前に光が現れる。これは、人体転移魔法!!
光が収縮し中から人が出てくる。
「ボクの事を呼んだかい?元、神から授かりし光の保持者、秀一クン?」
「なっ……」
「あっ、あっ……」
僕はその人物を見て驚き、ミントは茫然としている。
「お前は……」
「キミが呼んだんだろ?このボク、堕天の頂上に立つ者こと、ミリス=クリア=ライトを」
「ミリス……」
僕は名前を静かに繰り返した。見た目は僕よりも1,2歳年上ぐらいの青年がいた。こいつがミリス……どことなくミントに似ていた。
「ふふっ、まさかキミがここまで来るとは思わなかった。楽しませてもらったよ。ボクの娘との戦いも見事なものだったよ」
「娘?」
「あれ?気づいてないのかい?神から産まれた悪魔の欠片を得るために子供を産ますときボクのDNAを得れば魔法の素晴らしい能力をもらえれる可能性もあるからね。全員、ボクの子種、精子を使って産んでるんだよ」
「だから……か」
僕は小さく呟く。だから、ミントとミリスは似ていたのか。それにセカンドネーム以降も同じであることが頷けれる。
「まっ、そんなことどうでもいい。ボクの目的はもう少しで達成できる」
にこやかな笑みを浮かべながら言うミリス。
「だ、だったら、妹を!!妹と会わせてください!!」
今まで黙っていたミントが話に入ってきた。
「妹?あぁ……ミントと離した後数日後に殺したあの子のことかい?」
「殺し……た?」
ミントは信じられないように目を見開いた。
「当たり前だろ。いらなくなったら捨てる。誰だってそうじゃないか」
「そんな……」
ミントは顔を青白くさせる。僕も信じられずに茫然とする。人の命をなんだと思ってるんだ?
「そして、今使用するゴミが一つ増えた。ミント、キミだ」
「なっ!!」
ミントより先に僕が反応する。ミントをゴミだと?
「もう戦う気力のいらない者なんていらない。ゴミだよ。不幸を求む貫く槍」
ミリスの手に金色の長い槍が現れる。
「無駄だ!!僕の幸せ具現に導く緑閃光がある限りミントは死なない!!」
僕は自分の胸に光るネックレスをつかむ。これがある限り不幸は否定される。
「何を言い出すと思えば。無駄だよ、この不幸を求む貫く槍は不幸を肯定する。キミの否定する不幸と僕が肯定する不幸。どちらが強いかな?」
「ぐっ……」
僕は言い返せなくなる。恐らく、魔力はミリスの方が上だ。
「そういうこと、じゃあ、あの世でゆっくりね、ミント」
ミリスの手から不幸を求む貫く槍が伸びて僕らの元にやってくる。
「ミント!!」
僕はとっさにミントの前に出て手を開けてミントを守り目を閉じる。
………………
……………………
…………………………?
来るはずの痛みが数秒たってもやってこなかった。その時嫌なデジャヴ感を覚えて目を開ける。そこには……
「ぐっふ……貸しはこれで返したわよね、秀一君?」
「あお――――――いや、香里!!」
一瞬僕の目の前で血液を流しながら笑う姿に葵姉さんの姿が思いうかんだが、すぐに見間違いと悟り彼女の名前、香里とさけんだ。
「香里、なんで!?」
「あたしの選んだ道に……文句、あるわけ?」
苦しそうに呻く香里。
「いや、もういい、喋るな!!」
僕は焦って止める。
「世話焼けるわね、アンタたちは」
「だから!!って、アンタ達?」
「別次元の往来」
香里の声とともに周りに三つの光が現れる、その光から。
「夜美、石田、福田!!」
僕は三人の姿に驚く。
「危機一髪のところで助けたわ……よ」
「えっ、香里!?」
「「か、香里さん!?」」
三人も香里の状況に気づき三人とも驚いた声を上げた。
「……邪魔、しないでほしかったな」
「ハグッ!!」
ミリスはそういうと不幸を求む貫く槍を抜く。そのせいで香里の腹部からの出血が酷くなりたおれこんだ。
「香里!!」
僕は慌てて彼女の元に向かった。しかし、もう息はしていないようにみえた。
目の前で、また、僕を、守ろうと、して、葵、姉さんと、同じ、ように、死んだ……
胸の内から堪えきれない怒りがわく。
―――許せない、ゆるせない、ユルセナイ。
暗い感情が押し寄せる。失った魔力が戻ってくる。
「秀一君、まさか!!」
後ろから女の声が聞こえる。女?いや、あの声は夜美だ。なんで、女なんて言い方を……まさか、この感情がX、なのか?やばい、おさえなければ……しかし、意識すればするほど無理になる。
僕は“俺”を押さえきれなくなる。
「コロス……」
自分のものとは思えない声で、“俺”は呟く。
「ん?なんだか、様子が変わったように見えるけど大丈夫?」
どこか小バカにした感じでミリスが言う。
「コロス、絶対、コロス」
「この不幸を求む貫く槍さえ、壊せないキミがかい?」
「黙れ!!」
「えっ……ふっ、スゴイね」
“俺”は胸に手をやり強くネックレスを持つと不幸を求む貫く槍が音をたて割れて消えた。
どうやら“俺”の否定する不幸がうわまったようだ。
「秀一君、落ち着いて!!」
「お、おい!!冨本」
「正気になれよ!!」
三人が僕に声をかける。この衝動を僕も止めようとするが、“俺”に介入することができない。
「はははっ、キミは面白いね。なんとしてでもボクを殺したいみたいだ」
目の前でミリスが楽しげに笑う。この、キミは僕のことをいってるのか、“俺”のことをいっているのかは分からなかった。
「いいだろう。キミと本気の殺し合いをしよう」
「ダマレ!!風の三枚―――」
―――ガシッ。
“俺”が魔法を放つ直前に足首をつかまれ一瞬“僕”が体を動かせれるようになり魔法の発動を押さえる。
「殺……しちゃ、ダメ、なん……で、しょ?」
まだ、生きていたのかそう言ったのは香里だった。でも、その後すぐ意識を失い香里は本当に死んでしまったということが理解できた。
僕は香里の言葉が胸の内をしめ、少し“俺”を冷静にさせる。もし、ここでミリスと本気の殺し合いをしたら……今、まともに魔法を使えるのは夜美だけ。石田達もなんだかの武器を持っているだろうが僕はなにか知らないのでもしかしたら“俺”とミリスの魔法に巻き込まれる可能性は高い。ミントも妹が殺されていたという事実がうけいれがたいのか呆然としていた自分の身を守れるとは思えなかった。
「香里!!―――秀一君、香里の為にもいつもの秀一君に戻って!!」
隣で夜美の声が響く。そうだ、ここで“俺”を暴走させたら不幸になる。
そう考えた瞬間、幸せ具現に導く緑閃光が瞬く。“俺”の否定する不幸よりも“僕”の否定する不幸の方が強くなる。
「っ。はあ、はぁ。夜美……香里ありがとう。ミリス、お前を絶対に“倒す”!!」
殺すのではなく倒す。“僕”はそういいきる。
「ふ〜ん、なんか面白くなくなちゃったな。まあ、いいや。裏切り者も殺せたし、欠片の調合に魔力を使いすぎた、一旦休戦としよう」
「なっ、させるか!!」
僕は慌てて背を向けようとするミリスに叫んだ。しかし―――
「いいのかい?お互いのためだと思うけど?」
「なに、いって―――」
そこまでいってミリスの視線をたどる。そこには涙をながし続けるミントの姿があった。
「わかったかい?じゃあね。人体転移魔法」
ミリスは嫌らしい笑みを浮かべて去っていった。
この後を制したのは嫌な暗く重い沈黙だった。
「…………ミント」
あれから数分たち、僕はすすり泣くミントに声をかけた。その間に僕らを守ってくれた香里の遺体を綺麗にして強制転移魔法で、とりあえず怠惰な天使として使っていた部屋のベッドに送った。
「……………」
返ってくるのはただミントのすすり泣く音だけだった。
「…………ミント!!」
一瞬迷ったが声を張り上げる。ビクンとミントが体を揺らし反応する。一度大きく息をすいミントに目線を合わせる。そして……
「ミント、おかえりって僕たちに言わせてくれ」
「えっ?」
「頼む、僕たちの味方になってくれ。今までのをただの家出だって言って僕たちの元に戻ってくれ。なっ、みんなもこれでいいだろ?」
「シュウ、イチ……」
僕は後ろで見守る三人に問いかける。
「秀一君がそれでいいなら」
「俺も、もともとそれが目的だしな」
「そうだな、俺も星野と石田と同意見だ」
「だとよ?」
「ヨミ、イシダ、フクダも……」
ミントの目かまた大粒の涙があふれ出す。後、もうひと押し。
「僕も神から授かりし光の欠片を持っていたせいで葵姉さんを、夜美も彩愛さんを、そしてミントお前もミライを失ったんだろ?この悔しさ、きちんと晴らそう。葵姉さんと彩愛さんと香里も。そしてミライを含め他の苦しんだ人たちの恨みを」
「でも、みんなを騙してた!!私はもう、戻る資格なんてない……」
「――――――確かに資格を失ったかもしれない」
僕は少し迷って言葉をつなげる。
「なら、また資格を取り戻したらいい」
すっと、手をミントに差し出し後ろを見て三人にアイコンタクトをとる。三人も意味が分かったらしく無言でミントに手を差し出した。
「さぁ、笑顔で資格をとれ!!」
「うん!!」
ミントは僕の手をつかむ。夜美、石田、福田の手も僕の手に重ね合わせて一緒にミントを引っ張って立ち上がらせた。
ミリス、僕たちは負けない!!この仲間達の“絆”は絶対に負けない!!
僕たちの未来は今選択し選び取る。
「シュウイチ、お願い!!」
「秀一君に託すよ」
僕は二人の魔法を受け取る。絶対にここでこの戦いは終わらせる!!
そして、その先で見るんだ。
次回クリアライフ6―――選択―――お楽しみに
「幸せ具現に導く緑閃光!!」




