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棚の上のドロ

作者: SAME

 みんなは「キョンシー」って知ってるかな?

『前ならえ』で突き出した手のひらを下にすれば、キョンシーのポーズになるんだ。

それで両足揃えたままピョンピョン跳ぶの。はは、懐かしいなぁ~おじさんもね、あの頃は…

 え?なぜそんな古い事を聞くのか?いやぁ、ごめんごめん。


 今、おじさん、そういうポーズなんだ。真横から見ると、キョンシーのポーズしてるの。



 何でこんな事になったかっていうと、おじさんね、外歩いてたらちょっとセンスの良いお家があったものだから、中を見せてもらおうと思ってさ、お邪魔したわけ。ほら、電気の配線具合どんなかなとか、どういう家具置いてあるのかなとか、壁紙とか統一してんのかなとか、興味あるじゃない?これでも、おじさん、昔はハウジング系の人だからね。色々な人に家を売って…


 ん?家の人にはあいさつしたのか?

ソレ言われるときついなー、だっていなかったもん。まぁ、でも、見るだけだから。ちょっと立派な絵とか食器セットとか、いいな~って触るかもしれないけど、それだけだから。純粋に興味があって、中に入るだけだし。家の人が戻る前に帰ればいいかなーって。


 で、1階部分のすばらしい内装を堪能した後、2階へ上がったわけよ。

…いやぁ、1階はすごかったよ!綺麗なマイセンの食器。洒落たスプーンセットに上等な革の鞄。これ10万は軽くいくからね。その分、丈夫だけど。ドレッサーの中に綺麗な小箱が入っていてさ、中に指輪やらネックレスやらキラキラしてんの。


 …嫌だな、もちろん見ただけだよ。盗るわけないでしょ。ま、何かの間違いで2~3個おじさんの鞄の中に入っちゃったとしても、それは事故だからね。あんまり高くないようだったら返すよ。郵送で。

 …だからさ、2階はどんなかなって期待も膨らむよね。

けど2階は子供部屋しかなくて、ゲーム機ぐらいしかめぼしいのが…いやいや、特にかわった内装じゃなかったよ。そう、内装。おじさん泥棒じゃないからね、見てるだけだから。


 で、まあ、1レース分遊ばせてもらって、そろそろ帰ろうかなって辺りを見回した時に、見つけたんだよ。小さな扉をさ。普通の戸の半分ぐらいの大きさで、素材もなんかボロイ。おじさん、コレ見てピーンときたね。

 この家、三角屋根だから1階の部屋数が多いのは当たり前なんだけど、家立てる方にしちゃあ、ちょっとした空間も利用したい訳だ。でも天井が斜めで狭いスペースなんて、人間の部屋には向かない。…となると?そう、物置だよね。


 外のガレージの中も荷物置き場になっていたようだけど、こっちは家の中だ。比較的良い感じの物が置いてあるかもしれない。みんなも知っていると思うけど、たとえばレコードとか物によっては高く取引されているんだよ。昔のおもちゃとかね。全集の第一版もいいよねぇ…まぁこれは研究者向けだけど。…とにかく、そういうたまに出して眺めるぐらいの物があるかもしれないだろう?


 中は裸電球が一個ぶら下がっているだけで、古い木の床に壁紙も張っていないむき出しの壁…といかにもとりあえず収納スペース作りました的なせまーい空間でさ。でも、おじさんは見逃さなかったね。ぼんやり電球の明かりに照らされた奥の方…がっちりした箱が置いてあったんだ。そうとう頑丈そうな箱で、大きな楽器とか高価な精密とか入っていそうな感じかな。

もっとよく見てやろう。そう思ったのがまちがいだったよ、うん。



 あと少しで箱の前だってときにね足下が急にめり込んで

          あわててその床から足を離そうとしたんだけど、もう遅い!!


 …一気に床を突き抜けて、丁度真下にあった食器戸棚と壁の隙間に、おじさんの胸のあたりまでピシーっと入り込んじゃったんだ…。


 それ以上落ちなかったのは、とっさに両手で戸棚の天井をつかんだから。もし掴んでいなかったらヤバかったね。この食器棚結構大きいから、ヘタしたらおじさん一生この隙間で過ごさなきゃいけないとこだった…『気をつけ』か『万歳』の格好のまま。ある意味笑えるけどね。

 それはともかく、もちろん出ようとしたよ。幸い、両手は動かせるから、上手く力を入れれば棚を倒して脱出するのは簡単だ。この家の住人には悪いけど、まあ、仕方ないよね。彼らだって、家に知らないおじさんのミイラがいた!なんてなったら嫌だろうし。


 でもさ、タイミング悪く家の人が帰ってきちゃったんだよ。

…えぇ?助けてもらえばいいって?本気で言ってるのソレ。ま、まぁ、確かに、おじさん泥棒じゃないけどさ…この状況でそういっても信じてもらえないでしょ。

 リビングに入ってきたのは、女の人だった。この家のお母さんかな?おじさんは、気付かれないようにそっと天井の穴のササクレを戻して、そしてじっとしていた。みんなが寝静まった頃に脱出するしかない!!今、棚を倒して抜け出しても、玄関でご主人にバッタリ…とか起こりかねないもんね。


 おじさんの頭が棚の上だったのは助かった。部屋の様子がわかるし退屈しないし。誰か棚の上を見ることがあれば、一発でバレちゃうけど…いけるよね?大丈夫だよ、うん。

それにしても、ここの家族良いなぁ…奥さんが夕飯を作っているだろ?ん~良いニオイ…料理上手だな、きっと。で、子供と旦那さんが帰ってきて、食器出したり風呂わかしたり。準備ができたら皆でいただきます、かぁ。

 おじさんもね、昔はそんな生活おくっていたんだよ。かわいい娘と奥さんと…ああ、今頃どうしているかなぁ。…え?違うよ、離婚じゃないよ。単身赴任だよ!これは本当!!でもさー、この町きてさー、リストラで……何、聞いてないって?聞いてくれよ、そこは。


 ………。


 奥さんと子供、仕事なくても、おじさんを受け入れてくれるだろうか?

 家族の元に戻って、そうしてイチから就職活動する…て言ったら、支えてくれるだろうか?

 稼がないおじさんなんかいらないって言われないだろうか?

 …みんな、どう思う?


 おじさん、無性に家族に会いたくなってきたよ…。涙で目が霞んできた。

 ああ、でも棚の上に引っかかっている状態だから、声上げて泣けないけどね。



※※※※※※



 深夜2時。この辺は、割と金持ちが住んでいる住宅街。

その中から、家族構成的に見つかっても何とかなりそうな家を選んで、オレは忍び込んだ。

この家に恨みはないが、運が悪かったと思って諦めてもらおう。


 どうやら、ほとんどの部屋はリビングを通過しないと行き来できないらしい。

音を立てないようにそっとドアを開けようとして、オレは動きを止めた。


 …人の気配を感じる


 懐のナイフに手を掛けながら、そっとドアの隙間から部屋の中へ、ペンライトの明かりを動かす。床…テーブル…壁…


 「うゎ…!!!!!!!」


 オレはあわてて自分の口を塞いだ。光の中に浮かび上がるは、50前後のおっさんで、しかも生首だったからだ!!食器棚の上に生首…目はつむっていて、じっと動かない。



 一瞬、本物かと思ってしまったじゃないか!

 なんでこんなものを飾ってあるんだよ!!!


 何か価値がある置物なのだろうか?おそるおそる、棚の近くまで寄ってみた…あれ、なんか今、笑ったような気が…って、 目 が 開 い て る ?!



 突如!!生首がクワッと口を開けた!!



 ガタガタガタガタ…不気味な音を立てて食器棚が揺れる。生首の視線はずっとオレに注がれている。その表情は、笑っているような怒っているような、あああ、あまり詳しく見たくもない!なんだこれは、怨霊か?!祟りか?!



 ワケも分からず立ちすくむオレの上に、食器棚が倒れ込んできた…




※※※※※※



 「マジだって、刑事さんっ!オレ見たんだよ!!」


 「よく考えても見ろ、一般家庭に生首なんてあるわけないだろ。」


 「あったんだって!食器棚の上に…ヤベーって!オレ、目が合っちゃった。祟られたらどうすんだよ…。御祓師呼んでくれよ!!」


 「食器棚…ああ、お前が下敷きになっていたヤツな。そういえば、あそこの天井にも穴が開いていたが、あれもお前か?」


 「やってねーよ!オレじゃないっ!」


 「ふぅん、いずれにせよナイフ持って人の家に侵入するとは、やる気満々だったということだな。ろくでもないヤツだ。ま、少し頭を冷やすんだな…。」



 「ちょ、刑事さん!刑事さーん!!」



お読みくださりありがとうございます。


おじさんは、盗んだものをその場に置いて逃げた…ということで一つ。


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