え?魔石アウイナイトは絵の具になりますよ?
「魔石採掘だが、別の業者に委託することにした。
君は明日から来なくていい」
「それって……クビ、ってことですか」
ザルドは立ち尽くした。
ずっとツルハシやハンマー片手に、採掘業一筋だったのである。
今さら他の仕事につくなど、考えられない。
失意のままザルドは家に着くと、室内はもぬけの殻だった。
同居していた恋人が、出て行った挙句ザルドの私物ごと売り払ってしまったようである。
「ついてないなぁ、俺……」
行くあても無いので渋々故郷に帰ると、随分と寂れていた。
「いい魔石が取れなくなってな。採掘業はそろそろ潮時かね」
ザルドの父は、悲しそうにそう言う。
故郷は相変わらず、魔石獣・火山亀が頻繁に火山活動を行っていた。
この火山活動で出た魔石を売って生計を立てていたのだが、どうにもうまくいっていないらしい。
仕方なく母がやっている宿屋を手伝っていると、貴婦人が付き人をつけて泊まりに来た。
銀に近い、水色の髪の女性。
ザルドはとあることを思い出し、驚く。
「母さん!
あの人、魔石に詳しいクリスティル家の血筋のライラ・ドルーペースって人だよ!!
魔石姫って言われてる人だ!!」
「そんなすごい人が、なんでうちに?!」
ザルドと母がヒソヒソ声で盛り上がっていると、ライラがこっちにやって来た。
何か機嫌を損ねてしまったかと焦るザルド達に、ライラが口を開く。
「この地に魔石アウイナイトがあると聞いたのですが、場所を案内していただけませんか?」
「ああ、あの青い魔石ですか?
サファイアより衝撃に弱いので、価値はないと思いますが……」
ザルドの母が口をモゴモゴさせて言うと、ライラは目を見開いた。
「え?魔石アウイナイトは絵の具になりますよ?」
「「え?!」」
どうやら「真珠の顎飾りの少女」で有名な画家が好んで使う青の絵の具が、魔石アウイナイトと同じ成分だったらしい。
その画家が使う青の絵の具がなくなってしまったので、
なんとか同じものを確保して欲しい、とライラに依頼が来たようだ。
ザルドは魔石アウイナイトをハンマーで粉々にし、すり潰して加工、絵の具にしたものをライラに渡した。
「これで当面の絵の具量が確保できました。
本当にありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします」
「いやぁ、こちらこそ、新しい収入源ができました。
ライラ様は私達の命の恩人です」
ザルド達は泣いてお礼を言った。
"魔石姫''ライラ・ドルーペースが見出した魔石として、
魔石アウイナイトは注目が集まり、
各地から商人が来て買取り、宝石や装飾品として使われるようになった。
おかげでザルドの故郷は、また活気を取り戻した。
魔石獣・火山亀が頻繁に火山活動を行っているため、魔石アウイナイトがなくなる心配はない。
この地の住人たちはずっと火山亀と共生してきたので、このまま平穏に暮らしていけるだろう。
「ねぇザルド、あの時は突然いなくなってごめんね。
あなたの私物、返すわ。
私達……やり直さない?」
ある時、ザルドの元恋人が復縁をせまりに来た。
ザルドは答える。
「俺も君も、過去に戻るのはやめよう。
お互いに、今を生きよう。
俺のことは忘れててくれ。
俺も君のことは忘れるから。」
そのまま、彼女に背を向けた。
ザルドのかつての私物が、地面にぶちまけられた音が響く。
彼女の怒鳴り声や金切り声が聞こえるが、決して振り返らなかった。
ザルドは、ライラから教えてもらったアウイナイトの石言葉を胸に歩く。
「アウイナイトの石言葉は、過去との決別、って意味があるんですよ」
アウイナイトはラピスラズリと同じ主成分です。
有名な画家 フェルメールが描いた「真珠の耳飾りの少女」の少女のターバンの青は、ラピスラズリが原料のウルトラマリン・ブルー。
この話を元に話を書いたので「真珠の顎飾りの少女」という言葉が作中出てきますが、顎飾りってなんだよと、自分でも思いました。




