1-7.河童の出る川
★
ぽちゃん
シュンちゃんは飽きてしまったのかつまらなさそうに川に石を投げる。
石は川面を切って三、四回跳ねてから沈んだ。
「昔は届かなかったのに今は余裕で届くね」
「まあコツを掴めばな」
河童を探すというのはやはり建前だったのか、シュンちゃんはあっさりと散策の足を止めた。
「そもそも何で河童がいるなんて噂がたったんだろうな。薬持ってる河童とかちょっと変わってるし」
シュンちゃんは川を見つめていた。
「元々河童にそういう話はあるみたいだよ。ただもっと県外の山奥の民話だけど」
「へえ。なんでそんな話がここまで伝わったんだろ」
「多分、子ども会のせいかな」
ウチの地区では夏になると子ども会の納涼大会がある。
そこでは有志の大人が怖い話をしてくれるのだが、その中の一人が薬を持つ河童の話をしてくれたのがきっかけでこの話が広がったようだ。河童の話は日本各地にあるが、薬をくれる河童は茨城方面の民話として残っている。
「詳しいな」
「気になって調べたんだ。どうせならと思って」
ホラーについての是非は特になかったけど、シュンちゃんとの探検をきっかけに少し興味を持てた。
調べてまとめたものを夏の自由研究として提出したら、この土地の歴史的背景にも繋がっており意外なほど高く評価された。
他人からの評価にあまり興味がなかったけど、純粋に感心してくれる声は思いの外私をやる気にさせた。
それからと言うもの、学ぶ事自体に抵抗がなくなり当時よりも大分成績が上がった。後ろから数えた方が早かった順位も、明らかに前から数える方が早くなった。
「これもシュンちゃんとあの時河童探しに行ったおかげだよ」
「そ。良かったな」
良かった、という割にはどうでもよさげな言い方だった。
「そういえば河童の薬、なんでお兄ちゃんにあげたかったの?」
「さあ? ケガとか風邪とかだろ。そんなどーでもいいこと、忘れた」
シュンちゃんがこの話は終わりと言わんばかりに、さっさと河原を後にする。
「次はどこ行くの?」
「窓辺から手を振る女の幽霊が出る⋯⋯”幽霊のでる白い家”だっけ。あれ、まだある?」
「あるけど、歩いてくと大変だよ」
まだ日は高く、コンクリートの上は歩くにはとても暑い。
私は自転車通学で暑さにも体力的にも慣れているけど、どう見てもシュンちゃんが慣れているようには見えない。
でも彼はそんな事は構わないようだった。
「昔だって歩いていったんだ。平気だよ」
「そうなんだけど、昔はこんなに暑くなかったから」
「いーから。どっち?」
仕方なく方向を示すと、シュンちゃんは迷いなくスタスタと路側帯が狭い道を歩いて行く。
私は急いで後を追った。
少し走っただけで額に汗が伝う。それでもすぐにシュンちゃんの背中に追いついた。
その背が独り言のように呟く。
「そんな数年で、全部変わってたまるかよ」




