1-5.河童の出る川
『痛ぇっ!』
河童が網を頭に乗せたまま立ち止まる。つられて私も足を止めた。
改めて目の前の河童を見てみると甲羅がない。
身体も緑色ではなく、緑の服を着ているし、頭上にはお皿ではなく緑色の帽子を被っている。
くわえて声はクラスメートの誰かの声にも似ている気がする⋯⋯。
ふむ、河童は意外に人間らしいんだな、と思っているともぞもぞと網の中で河童が振り向いた。
その顔は紛れもなく剛史君だった。
私は急いでシュンちゃんを呼んだ。
『シュンちゃん! 河童! 剛志君そっくりの河童捕まえたよ!』
『ちっげえよ! 俺(本人)だっつーの!』
偽河童、もとい剛志君が頭にかかっていた網と帽子を勢いよく地面に叩きつける。なるほど、確かにこの粗暴さはそっくりさんには出せない。
『さあちゃん⋯⋯どうしたの?! って剛志⋯⋯』
一足遅れてやって来たシュンちゃんと剛志君の視線が交わる。
剛志君は私に河童と間違えられたのが気に入らなかったのか、先程まで顔を真っ赤にプンプンしていたのだが、シュンちゃんを見た瞬間、我に返ったのか得意げに煽り始めた。
『そ、そーだよ! ばーか! 河童じゃなくて俺の変装だっつーの! だーまさーれた! だーまされた!』
『バカ犬飼にマヌケ伏見ー! お前ら剛史君を捕まえたって事はいるって思ってたって事だろ! 騙されやがったくせに!』
何処からか現れた剛史君の子分二人も騙されたコールに加わる。
私はシュンちゃんが激怒するんじゃないのかと思った。
けれど意外にもシュンちゃんはクールだった。煽る剛史君たちには答えず、私の手を引いて帰ろうとする。
それを見た剛史君はフンっと鼻を鳴らした。
『なんだよ逃げるのかよ』
『違う。もういないってわかったから帰るんだ。お前たちはいないのをずっと探してろよ』
そうして河原を後にしようとした時だった。
『何だこれきゅうり!?』
声の方を見ると剛史君の子分の一人が私が設置したきゅうりを手にしていた。
『もしかしてこれお前ら? マジでアホじゃん!』
剛史君は言ったと同時にきゅうりを川に放り投げる。
哀れきゅうりはぽちゃんと音を立てると、川に運ばれてあっという間に見えなくなった。
『きゅうり⋯⋯』
何ともなしに呟く。
何ごとにも終わりはあるものだけど、あまりにも呆気なく、そしてきゅうりとしての本懐を果たさない終わり方だった。
(きゅうりゴメン、ついでにお父さんもゴメンなさい)
残念ではあるが流れてしまったものは仕方ないので心の中で謝罪しつつ、どんぶらこと流れゆくきゅうりを見送る。
あのきゅうりは一体何処まで流れるんだろうか。
もしかして魚が食べるのかなと思いながら川を見つめていると、背後から『何すんだよ!』と剛史君の怒った声が聞こえてきた。
振り向くとシュンちゃんが剛史君の胸ぐらを掴んでいた。
『お前たちが先に喧嘩売ってきたんだろ、謝れ』
『あれやっぱお前のかよ! ダッセー!』
剛史君はバカにしたように笑うとシュンちゃんを突き飛ばした。
(なんてことをするんだ!)
思わず駆け寄るが、剛志君が一歩早かった。尻餅をついてしまったシュンちゃんに掴みかかる。
私は剛史君を止めようと後ろから彼の肩を掴もうとすると、それをチャンスと思ったのかシュンちゃんが剛史君を殴り返した。
シュンちゃんがナイスサポートと言うかのように笑顔を向けてくる。
いや違う。そういう意味で止めに入ったんじゃない。シュンちゃんは意外にも好戦的だった。
『てめえ、ヒョロいから手加減してやりゃあ調子に乗りやがって⋯⋯!』
剛史君がシュンちゃんに再び掴み掛かる。
『ちょっと女子に注目されてるからって良い気になってんじゃねーよ!』
『お前こそ自分がモテないからって僻むな!』
私、シュンちゃん、剛史君、剛史君の子分二人も入り混じった軽い小競り合い、突き飛ばし合いが始まる。
しかし剛史君達も悪ぶっていても加減を知っている悪ガキだったので、地域パトロールのおじいさんに何を騒いでるんだと全員が怒られ、あっさりと騒ぎはお開きとなった。




