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1-3.河童の出る川


 けれどそうしたある日の道徳の時間の事。


『今週の土曜日に長冷川に行こうと思っています』


 自分の事を自由に紹介するというテーマで、シュンちゃんは今週の予定を発表してみせた。

 長冷川は子供達の間で河童が住んでいるとで有名な場所だ。


 彼は河童を探しに行くのではなく、いない事を証明するために確かめに行くという。誰を誘うでもなく、そう話すシュンちゃんに、一緒に行きたそうにしてる子もいた。


 シュンちゃんもそのつもりで話したように思えたけど、『お前の予定なんか知りたくねぇし』と割って入ってきた剛史君の一言で話は終わってしまった。


『遠回しに誘ってんですかー? マジかまってちゃんじゃん』


 剛史君はハッと鼻で笑う。先生が剛史君を注意したが、シュンちゃんは相手にしなかった。


『あのシュンがかまってちゃんとか、そんなわけないじゃんねえ』

 そうコソコソと女子達の話す声が聞こえてくるけれど、私は剛史君は中々鋭いなと思った。

 だってシュンちゃんは澄まし顔で皆の発表を聞いていたけど、その横顔は少し寂しげで私の胸の奥を突き刺すようだったから。



 よく晴れたその週の土曜日。


 長冷川行きのバス停にいた私を見て、シュンちゃんはその大きくて光が沢山入る目を更に見開いた。


『え、な、さあちゃん?! どうしてここにいるの?』


 無論シュンちゃんと河童探し(彼的にはいない事の証明だけど)に行くためである。

 ちなみに約束はしてないし、誘われてもいないし、そもそもそういう会話すらしてない。約束もしていないのに勝手にいた私を見てどう思うのか考えない訳じゃなかったけど、彼の寂しさがほんの少しでも薄まれば本望だった。


『私も長冷川一緒に行きたいと思って』


 私がそう告げると、シュンちゃんが明らかに戸惑った顔をする。

 来る面子として自分が期待外れなのは承知していたけれど、実際に反応を目の前にすると改めて自分のクラス内カーストの低さが情けない。

 やっぱり急用を思い出したから帰るね、と言いかける私を、意外にも彼は引き留めた。


『⋯⋯さあちゃんさ、お化けとかそういうの興味なさそうじゃん? 何で?』


 本音は二つほどあるけど、どっちも正直に言うのは気が引ける。でも嘘をつくのも悪いようなと迷ってると、シュンちゃんが私の持ち物に目をつけた。


『そういえばなんで虫籠と虫網持ってるの?』


『河童がいたら、捕まえようと思って』


『⋯⋯いないこと確かめに行くのに捕まえようとするの?』


 もっともなツッコミである。

 探検と聞いて深く考えずそれっぽいのを持ってきたけど、よくよく考えれば彼の意と反する装備だ。重ね重ね失敗した、と思っているとシュンちゃんは小刻みに震えて顔を背けた。


『くっ、河童って、そもそもいたとしても、そんなっ、小さくないでしょ⋯⋯』


 一応持ってきたアルミホイルに包んだきゅうりも彼に見せてみる。

 ちなみにこれは先程庭の家庭菜園から採取して来たものであり、父さんが手塩にかけた逸品だ。


『二本しか上手くできなかったけど、さあちゃんとお母さんとお父さんの三人で食べようね♪』と父さんは言っていたけど、きゅうりも普通の人間に食べられるよりカッパに食べられた方が嬉しいと思う、と伝えると、シュンちゃんはついに吹き出した。


『か、河童にきゅうりって安直過ぎんだろ! しかもニ本もあるし! あはははははは! あー⋯⋯お腹くるしいっ』


 いざとなったらおやつにしても良いと思って、と伝えると彼はもうやめてくれと目を拭った。


『さあちゃんておかしな子だね。いいよ、仕方ないから一緒に連れてってあげる。あと、お父さんにはちゃんと謝っときなよ?』



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