6-1.私
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瞬きするのも忘れるくらい見つめ返したのを、先に逸らしたのはシュンちゃんだった。
「お前、目力怖いよ。俺の負け」
勝負だったのか。不覚にも勝ってしまったらしい。
シュンちゃんは勢いをつけて身体を起こした。
「ずるいよな。沙夜のキャラだと本気で言ってるのか昔からわからねーもん」
シュンちゃんが口を尖らせて言う。
ならば、今度こそ誰も探しに来れないようにスマホを捨てようか、とスマホを振り上げてみせると、彼は困ったような顔をした。
「お前さ、いつからそんなイジワルになったわけ?」
「ごめん」
「⋯⋯いや。謝るのは俺の方だな、ごめん。なんか今日、俺らしくなかったな。無駄におしゃべりだったし」
私は首を横に振った。
「久々に話せて嬉しかった。それにシュンちゃんが相変わらず美しくて素晴らしかった」
「結局それかよ。お前らしいけどさあ」
そうして一拍置いてからシュンちゃんはなあ、と私を呼んだ。
「今日色々言ったけど、全部本気じゃないよ。なんていうか思った事何も考えずに言ってみただけ。忘れて」
それはウソのように思えた。
でも彼がそう言うなら、そうなんだろう。
私が頷くとシュンちゃんは安心したようだった。
「ありがとな」
多分、もうシュンちゃんは全てを簡単に捨ててやけっぱちになるには、環境が満たされ過ぎていたんだと思う。
暫く私たちは黙ったまま夜空を見上げた。
シュンちゃんが起き上がったので、今度は私が寝転んでみる。
見上げた夜空はやっぱり昔より星が見えないと、私は思う。
そしてどちらかの腹が鳴ったのを合図に帰る事にした。
帰り道、シュンちゃんと並んで来た道を戻る。
辺りはいつの間にか風で雲が流れて月明かりが戻って来ていた。
「バスもうなくなったよな。どうする?」
「歩けばいいよ、夜は涼しいし。それよりも新幹線の時間は大丈夫?」
調べようかとスマホを取り出すと、シュンちゃんがン、と手を差し出した。
スマホを渡すと、彼は手早く操作してから画面をジッと見つめた。
「どうかした?」
「どう頑張っても新幹線は間に合わない」
諦めたようにそう言ってスマホを渡される。
「じゃあうちに泊まる? 一部屋くらいなら何とかなるよ」
狭いけど、と付け足すと彼は叱られた子どものような顔をした。
「ごめんてば。失礼な事言って悪かった」
私としては嫌味のつもりはなかったけど、そう聞こえたみたいだった。
「別に怒ってないよ。ただ心配なだけ」
「問題ねーよ。友達に泊めてもらう」
「シュンちゃん、そんな友達いたんだ」
決してシュンちゃんを侮っていた訳じゃない。
ただ、私は昔のように彼が今でも”孤高”である事を心のどこかで期待していたのかもしれない。
思わず失礼な物言いになってしまったけど、彼はあまり気にしてないようで、あっさりと「いるに決まってる」と返した。
「だいたいお前だってそういう友達の一人や二人、いるだろ」
「そうだね」
そこで会話が止まる。
お互いの返答におかしなところも意外性もなかった筈なのに、急激に空気がひんやりとしてしまった。
私は急に忘れ去られたぬいぐるみのような気分になってしまって、この空気を取りなす事ができなかった。
シュンちゃんも同じ気持ちで黙ってくれていたら良かったのだろうけど、違う気がした。
黙っていると、ジージーとオケラの鳴く声がよく聞こえる。
私は気まずさを誤魔化すように暫く地面だけを見て歩いた。
ふと隣を見るといつの間にかシュンちゃんがいない。
見回すと彼は少し後ろの方で足を止めていた。




