4-6.そうして
「また黙りこんでる。何考えてんの?」
いきなり相槌すら打たなくなった不思議に思ったのか、シュンちゃんが片肘をついて私を見つめていた。
「私が、その場にいたら、お兄さんの秘密を暴露してしまいそうだなって思ってた」
無意識に噛んでいた下唇を緩めて言うと、シュンちゃんは軽く笑った。
「何だそれ、嫌がらせかよ?」
「いや、そんなつもりは、ないんだけど」
「知ってる。沙夜はいつも言葉足らずなだけだもんな。100以上考えてるのに吐き出すのは1だけ。しかもその1がわかりにくいんだよなあー」
からかうようにそう言うと、シュンちゃんは手を枕にしてベンチに仰向けになって目を閉じた。
私も同じように寝転ぼうとして、やっぱりやめた。
シュンちゃんは目を閉じたまま「でもさ」と言った。
「そんなお前の事を、不意に思い出しちゃったんだよなあ、俺は」
シュンちゃんが息を深く吸う。
「祖父さんの上っ面の思い出を皆して語って、興味のない近況報告を聞いて、聞かされて。何も面白くないのに笑って⋯⋯もう帰りてーなって思ってた時に、そういや昔バカみたいな探検したなって、思い出した。そうしたら新幹線のチケット買って、バスに乗って⋯⋯気づいたら、ここまで来てた」
それは線香花火の最後の玉が落ちたような言い方だった。
「まさかこんなすんなり会えるなんて思ってなかったけど」と、付け足してシュンちゃんは真剣な顔をした。
「なあ、お前なんで引っ越してないんだよ。あんな狭い家なのに、いつまでもさ」
「ウチ、まあまあお金ないから」
「知ってる。お前、俺んちの菓子美味そうに珍しそうに食ってんの見てたし」
「うん」
「俺んちより全然金ない家で、母親は厳しくて」
「うん」
「父親はすげーのんきそうで」
「うん」
「それなのに、すごい楽しそうで⋯⋯羨ましかった」
シュンちゃんが寝転んだまま背を向ける。私は彼が泣いてるような気がして心臓が痛くなった。
「シュンちゃん」
彼の背に呼びかける。
シュンちゃんは寝転んだままゆっくり振り向くと私を見上げた。
その顔はひどく幼く見えたけど、意外にも泣いていなかった。
「昔、山で迷った時、もし誰も探しに来なくて、ずっとこのまま帰りたくないって言ってたら⋯⋯お前どうしてた?」
そんなの昔も今も未来永劫答えは同じだ。
「一緒にいたよ」
「ウソだ」
「ウソじゃない。今も帰りたくないなら一緒にいるよ。シュンちゃんが、帰りたくなるまで」
シュンちゃんが私の目を見る。
私はそのまま見返した。
彼の目は月の光を取り込んだみたいに綺麗だった。
その美し過ぎる目に自分の顔が映るのが不思議で、私はシュンちゃんと出会った時のことを思い出した。




