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4-2.そうして



 始まりは、地域のボーイスカウトの肝試しだった。


 この裏山は公有地と私有地が入り混じった場所だった。

 しかしある年、スタッフの中に私有地の関係者がいて、私有地に立ち入らない事を条件にイベントが許可されたことがあった。

 勿論この注意事項は子ども達にも伝えられたが、私有地の意味がよく分からない子も多い。

 そこでボーイスカウトの高学年のリーダーの一人が、「ここに入ったら、二度と帰れないんだ」と冗談を交えて注意を促した。

 そのオカルトチックな尾鰭は子ども達好みだったらしく、どんどん広まり、「立入禁止」は「入ると二度と帰れない場所」へと変わっていった。

 加えて山の中腹にある両サイドの木々の曲がり重なった姿が子ども達の中で二度と帰れない場所と繋がり、「異世界山」の話が生まれたのだった。


 もっと詳しい謂れを聞いたけど要点を端折って伝えると、シュンちゃんは「ま、そんなもんだよな」と、言った。


 その声はどこか寂しそうで、同時に何かを諦めたようなで、昔大人達に見つかった時にシュンちゃんが言った『見つかっちゃたね』を思い出した。


 あの時は聞いても何もできないから聞けなかった。今だってできることは大してないだろう。


(それでも、昔よりは)


 私はポケットのスマホの電源を落とした。


「シュンちゃん」


「なに?」


「なんで、今日もう一回探検したかったの?」


 彼の目を見て尋ねる。


 柄にもなく、少し緊張した。


 不意にあの夜のシュンちゃんの白いスニーカーを思い出した。


 しかし彼はチラッとコチラを見てから、すぐに視線を戻した。


「言いたくない」


 覚悟して聞いたのに返ってきた答えは拍子抜けするほど簡潔明瞭だった。いや全然良いのだけれど。


「そっか」


 私もまた簡潔に返して、足元に目をむける。

 よく見ればシュンちゃんは黒い厚底スニーカーを履いていた。

 こんなの履いてよく長距離を歩けたものだ。こんな靴履かなくても彼の身長は平均よりも大分高そうなのに。

 きっと多少は疲れたに違いない。

 そう思って東屋近くの寝転べそうなくらい広いベンチに座ることを提案すると、シュンちゃんは黙って頷いた。



 そうして二人並んで座る。

 シュンちゃんは写真を撮りたいと言った星空ではなく、ただ真正面の薄暗い木々の間を見てた。


 私も同じように見つめると彼は唐突に、「悪かったな」と、謝った。


 何のことだろう。

 理由を頭の中で探すが特に思い当たらない。突然来たことだろうかとも思ったけど、何となく違う気がする。

 思考を張り巡らせてると、彼は自分の頬を指差した。


「昔、この山で俺の事庇って、おばさんに叩かれただろ」


 ああ、そんなこともあったねと私が頷くと、シュンちゃんは眉をひそめた。


「何だよ人がせっかく勇気出して謝ったのに、その気のない返事は」


「いや、ずいぶん昔のことだから」


「⋯⋯もしかして俺過去に謝ったことあったっけ?」


「かもしれない。私、忘れっぽいし」


 嘘だった。

 本当はあの日以来その話はしていない。

 彼から言うことはなかったし、私も自分が泣いてしまった事に触れてほしくなかったのだ。


「ないよ。俺、お前にあの時のこと謝ったことない。それだけは確実に覚えてる。気まずくて今の今までわざと話題に出さなかった」


「そうだったんだ」


 ああ、まただ。

 また、私は小賢しい思考をしてる。


 ーーー私も泣いたのが恥ずかしくて気まずかったんだよ。


 素直にそう言えばいいのになんで隠すのか。でも幸いな事にシュンちゃんはそんな私に気付かない様子だった。


「沙夜さ、俺が引っ越した理由知ってるだろ?」


「どうかな」


 曖昧に答えてみたけど本当は知っていた。

 でもあまりいい理由じゃなかったので、それが知れ渡ってる事をシュンちゃんに知らせたくなかった。


「いいよ濁さなくて。どうせ皆知ってたことだし、もし本当にお前だけ知らないなら、そっちの方がなんかイヤだ」


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