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3-5.異世界山


『ダメ!』


 私はシュンちゃんの手を掴んだ。そして急いで来た道を走る。彼の軽い身体は私の勢いに敵わないのか、引っ張られるままについてくる。


『サアチャン はなして』


 シュンちゃんの抑揚のない声が背中から聞こえる。聞けなかった。返事をする瞬間も惜しかった。いつもの彼じゃないような気がしたから。早く、一秒でも早く、この場から離れたかった。


ーーーあの場所にいたら、シュンちゃんがどこか遠くに行ってしまう。


 緩やかな下り坂を転がるように駆け抜ける。あの切れ目が、空間が、後ろにいつまでもいつまでもいる様な気がして振り返る事はできない。何度か小石や草や葉っぱに足を取られそうになったけれど転ぶ訳にはいかない。何がなんでも追いつかれる訳にはいかない。ただただ左手に掴み込んだ手を絶対離してはならなかった。


 そうしてやっと足を止める事ができたのは、月明かりも届かない木々の生い茂った木陰だった。


『ねえ! 手本当に痛い! いい加減離して!』


 シュンちゃんの怒った声にやっと我にかえって手を離す。

 彼の白くて細い手首は私が強く握り込んで引っ張たせいで真っ赤になっていた。


『ご、ごめん! 折れてない、よね?!』


 シュンちゃんは腕を撫でたまま答えない。

 その姿を見ていると喉の辺りが詰まって、心臓がドクドクとうるさくなる。流石に折れるわけがないのだけど、さっきの彼のいつもと違う様子が、それほどに私を動揺させた。


『せっかく、見つけたのに』


 シュンちゃんが言ったのは、紛れもなくあの切れ目の事だった。

 認めたらいけない気がして、私は首を振る。


『違う⋯⋯。 あれは、ただの月明かりか、見間違いだよ⋯⋯』


『じゃあ何で逃げた? 本当だと思ったから逃げたんだろ?』


 シュンちゃんはキッと私を睨んだ。

 私はそれ以上何も言えなかった。頭では、噂が本当であるはずがないのだから、もっと悠長に構えて、詳しく調べてみればいいと思っていたのに、気づいたら走りだしていたのだ。


(でも)


 一瞬、たしかに、あるはずのない向こう側見えて、何かが見ている感覚がした。

 こんなの絶対に気のせいなのに、それがひどく背筋を冷たくさせた。


 シュンちゃんは不機嫌さを隠そうともしないで私に背を向けて辺りを見渡す。

 つられて辺りを見渡すと、見覚えのない場所だった。


 完全に普段通る道から外れてしまっていた。




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