3-2.異世界山
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夏も終わり秋が始まって間もない頃。
シュンちゃんを目の敵にしていた剛史君も河童の件以来、少しは和解したけれど、だからと言って皆仲良しという風にはならなかった。
それでもシュンちゃんの持つ雰囲気のおかげで彼はどうしたって可哀想な人、惨めな人にはならず、孤高の存在だった。
クラスメイトとは勿論話すけど、それは子どもながらにもある上辺だけの関係だ。
唯一家が近い私と一緒に帰ることになっていたのだけど、それが彼が望んだ人間関係の結果だったかどうかは、あの頃の私は知る由もない。
その日、シュンちゃんはどことなく元気がなかった。
元々口数は多くなかったけど、輪をかけて静かだった。
私も私で元々喋らないタイプだったので、側から見たら喧嘩でもしているように思われそうな雰囲気だったと思う。
私たちは黙って歩き、別れ道に差しかかる。『じゃあまた明日』と言おうとした時だった。
『これから”異世界山”に行こうと思ってる』
シュンちゃんの顔は真剣だった。
異世界山とは、文字通り異世界に繋がると噂されている山だった。
しかし山とは名ばかりで、気軽に散策出来る場所でもある。幼い私はドラえもんに出てくる裏山にそっくりだなと思っていた。
異世界山は、昼間は地元かつ近所の人が散策に入ったり散歩したりするが、夜にわざわざ行く人はほとんどいない。
『もうすぐ夕方だよ?』
『だからだよ!』
シュンちゃんが必死に何かを決意した様子で訴える。
『もし本当にお化けが出るなら、夜だろ。それに今日は満月だから、そーいう条件が揃ってる。だから行くにはうってつけだ。だから⋯⋯』
シュンちゃんはそれ以上言うのを躊躇っていた。
一緒に行って欲しいんだと察しの悪い私でもわかったけど、いつもと違ってすぐに行くとは言えなかった。
両親から夜、異世界山に行ってはダメだと教えられていたのだ。
黙った私を見てシュンちゃんは何かを察したのだろう。
『⋯⋯ううん、やっぱ何でもない。また明日ね、さあちゃん』
そう言って笑って見せてシュンちゃんが背を向ける。
寂しそうなその笑顔は、もうすぐ暮れる夕日と共に消えてしまいそうだった。
このまま行かせたら、本当にまた明日なんてあるかわからないと思った。
『やっぱ私も行く!』
急いで家に帰りランドセルをその辺に放り投げる。母には行き先を適当にメモを残し、私はシュンちゃんの元へと向かった。




