2-7.綺麗な幽霊屋敷
『亜里沙の親戚⋯⋯って言ってもけっこー遠縁だけど、なんだかんだ触れてほしくない事情がある人達だったから、そーいうの少しわかるんだよね。心配でも関心自体持って欲しくないんだって。悪いことじゃなくてもさ。でもそれを気にしてるっていう風にも思われたくない。だから変に強がってピリピリしちゃうんだろうねえ⋯⋯』
亜里沙ちゃんは寄せ書きでいっぱいになった自分のセーラー服の白襟を撫でた。
『だからさ、なんかぜーんぜん浮世離れした宇宙人みたいなわけわかんない子が側にいると気が楽だったのかなーって、思ったり⋯⋯って亜里沙が結局結論出してんじゃん?!』
彼女は笑って私の背をバシバシと叩く。
そして自分の襟を器用に外すと私に差し出した。
『ね、書いて。ここ。私も書いてあげるから』
そう言うや否や彼女は私をくるりと反転させ、背に付いたままの襟に書き始めた。ゴリゴリと筆圧の強い感触が背中に伝わってくる。
亜里沙ちゃんに渡された襟は私の襟とは比べものにならない程にスペースが埋まっていた。
私は何を書くか迷った結果、亜里沙ちゃんの絵を描く事にした。
『⋯⋯何これバケモノ?』
壁を机にして描いていると、背後から亜里沙ちゃんが睨んだ気配がした。小学生の頃に抱いた印象である小顔でスラっとしているのを絵にしてみたのだが、どうやら上手く表現出来なかったようだ。
亜里沙ちゃんはモデルを目指すために都会の学校へ進学するらしい。だからそれを絵にしてみたと伝えると、本気で目指してるワケじゃないんだけど、と彼女らしくない顔で笑った。
『そうなんだ。亜里沙ちゃんならなれると思う』
絵を何とか修正しながら答えると亜里沙ちゃんは黙った。
『⋯⋯沙夜ちゃんてそーゆう事言うからイヤ』
そう言って私がまだ描き途中の襟を引ったくる。
『あ、まだ描き途中だよ』
『このバケモノがこれ以上どうなるっていうの? もう良いから。じゃ、バイバーイ』
『うん。さよなら』
『さよならだってー笑う〜』
歌うように揶揄うように笑って亜里沙ちゃんは教室を出て行く。
一人になった教室でフと彼女が何を書いてくれたのか気になった。襟を後手に四苦八苦しながら外す。
そこには『ごめんね』という一言と亜里沙ちゃんのサインが書かれていた。
ごめんねが何を指すのかわからなかったけど、彼女が成功するといいなと思った。
でも亜里沙ちゃんがそれ以来どうしているのか、私は知らない。




