2-5.綺麗な幽霊屋敷
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「亜里沙⋯⋯ああ、思い出した。確か一緒に家の窓見てたら、急に叫んで逃げてった子だ」
シュンちゃんは、今はもう閉ざされたその窓を見ていた。その思い出し方はどうだろうと思ったがまさしくその通りだった。
「あの時、確か⋯⋯中には本当に人間の女の人がいて、窓から外を見てたんだよな」
「そう。その人を見間違えて幽霊騒ぎになったんだよ」
「空き家に勝手に忍びこむ人間も怖えよって話だけどな。あの時はそれが誰なのか大人がうやむやにしたけど、お前は知ってるの?」
「うん。亜里沙ちゃんの遠縁の人で、この家も亜里沙ちゃん家の親戚の人の物だって。詳しくは知らないけど」
本当は知ってたけどあえて言わなかった。
その後の事は聞いてもないのに風の噂で耳に入ってきたのだ。
その昔、あの家には若い夫婦が住んでたけど、旦那さんの浮気で奥さんが精神的に参ってしまい、遠くの実家で養生する事になった。
ほどなくして旦那さんは浮気相手の家に住むようになり、その家には誰も住まなくなってしまった。それでもたまに奥さんが家を思い出して、実家を抜け出し家に勝手に入る事があったそうだ。(自分の家なのに勝手というのは変な話だけど)
それを目にした近所の人が「幽霊がいた」と噂し出した。亜里沙ちゃんの親戚も噂は耳にしていたけど、親族の揉め事を知られるよりは幽霊騒ぎの方がマシだと黙認したのだ。
ただほぼ無人の家をそのまま放置する訳にも行かず、亜里沙ちゃんの大叔母さんが、管理の為に何回か通ったという。
あの日、亜里沙ちゃんは養生してた奥さんが遂に亡くなったと聞いていた。
唯一出入りする大叔母も旦那さんの仕事の都合で海外に行っている。そうなればあの家に昼間来る者は誰もいないはずだ。
ーーーそれなのに、窓が開き、まして誰かが手を振っていたんだから、亜里沙ちゃんが驚くのも無理はなかった。
奥さんが死んだと言うのは、奥さんの家族がついた嘘だった。彼女が病院で養生することを知られたくなかったそうだ。
たとえ同じ親族同士でもここからは知られたくない、という線引きがあるということなんだろう。
あの手を振った影は、病院に行く前に一目でいいからもう一度家を見たい、と願った奥さん本人だった。手を振ったと言うのも、そういう風に見えただけだったのだ。
ちなみにその後亜里沙ちゃんはシュンちゃんに近づかなくなった。叫んで逃げても追いかけてくれない男に興味はなくなったそうだ。
元より私等とは接点もないので、それ以来話す事はほぼなかったが、中学の卒業式の後で声をかけられた。




