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追放令嬢の私、規格外錬金術で国家認定“危険個体”にされたけど、公爵様が全力で囲って溺愛してきます  作者: 慈架太子


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第7話 その男に近づくな――初めての嫉妬

第7話「視線の先」


朝。


公爵邸の訓練場は、いつもより騒がしかった。


(……人が多い)


騎士たちが集まり、何やらざわついている。


その中心に――


「来たか」


アルヴェルト。


(相変わらず目立つ人)


「本日は訓練に同行してもらう」


「訓練、ですか?」


「ああ。実戦だけでは偏る」


(合理的ね)


私は軽く頷く。


「リリアーナ様、こちらへ」


声をかけてきたのは、若い騎士だった。


明るい茶色の髪に、人懐っこい笑顔。


「自分、ルークと申します!」


(……元気なタイプ)


「リリアーナです。よろしくお願いします」


「はい!昨日の任務、すごかったです!」


ぐい、と距離を詰めてくる。


(近いわね)


「そんなことはありません」


「いやいや、あの結界の件も含めて――」


その時。


「ルーク」


低い声。


空気が、一瞬で冷える。


振り返ると、アルヴェルトがこちらを見ていた。


「……訓練の準備は終わっているのか」


「っ、はい!」


ルークの背筋が伸びる。


(分かりやすい上下関係)


「なら動け」


「は、はい!」


ぴしっと敬礼し、慌てて離れていく。


(……今の)


明らかに、会話を遮った。


視線を戻すと、アルヴェルトが近づいてくる。


「無駄話はするな」


「情報収集の一環ですが?」


「不要だ」


即答。


(……へえ)


「随分と厳しいのですね」


「当然だ」


それだけ言って、背を向ける。


(……これ)


ほんの少しだけ、口元が緩む。


(もしかして)


訓練が始まる。


剣の音、掛け声、砂の舞い上がる気配。


私は端からそれを観察する。


(……効率が悪い)


動きに無駄が多い。


連携も甘い。


(改善の余地だらけね)


「何か分かるか」


いつの間にか、隣にアルヴェルトがいた。


「ええ、いくつか」


「言ってみろ」


簡潔な命令。


私は視線を外さずに答える。


「三番の騎士、踏み込みが遅いです。力に頼りすぎています」


「……続けろ」


「左側の連携も崩れています。呼吸が合っていません」


数秒の沈黙。


「……ほう」


その声は、わずかに低い。


「よく見ているな」


「見るのは得意です」


(だから隠すのも得意だったのだけれど)


「一度、やってみろ」


唐突な一言。


「……私が?」


「そうだ」


周囲がざわつく。


「令嬢が訓練に……?」


「大丈夫なのか……?」


(まあ、そうなるわよね)


「木剣でいい」


アルヴェルトが一本投げてよこす。


それを受け取る。


(……軽い)


重さを確かめる。


「相手はルーク」


「えっ、俺ですか!?」


さっきの騎士が前に出る。


「手加減は……?」


「不要だ」


アルヴェルトが即答する。


(容赦ないわね)


向かい合う。


「よろしくお願いします!」


ルークが構える。


(素直でいい子ね)


「こちらこそ」


軽く構える。


そして――


「始め!」


掛け声と同時に、ルークが踏み込む。


速い。


だが――


(直線的すぎる)


一歩、ずれる。


空振り。


そのまま、軽く剣を当てる。


「……一本」


沈黙。


「……え?」


ルークが固まる。


(終わり)


「今のは……」


周囲がざわつく。


アルヴェルトは、無言で見ている。


「もう一度、お願いします!」


ルークが構え直す。


(真面目ね)


二度目。


今度はフェイントを混ぜてくる。


(改善してる)


だが――


(まだ甘い)


最小限の動きで避ける。


再び、当てる。


「……二本」


完全に静まり返る訓練場。


「……嘘だろ」


誰かが呟く。


(まあ、そうなるわね)


「……そこまでだ」


アルヴェルトの声。


試合が止まる。


私は剣を下ろす。


ルークは呆然と立っていた。


「ありがとうございました」


一礼する。


「い、いえ……こちらこそ……」


完全に混乱している。


(可愛いわね)


「戻れ」


アルヴェルトが短く言う。


私は彼の隣へ戻る。


その瞬間。


ぐい、と腕を引かれた。


「……?」


距離が詰まる。


周囲から見えない角度。


「目立ちすぎだ」


低い声。


(……それ?)


「問題がありますか?」


「ある」


即答。


「余計な視線を集める」


(……ああ)


少しだけ、理解する。


「評価が上がるのは良いことでは?」


「違う」


その声が、わずかに低くなる。


「お前は――」


言葉が、止まる。


(言いかけた)


「……何でしょう?」


ほんの少し、近づく。


すると――


一瞬だけ、彼の視線が揺れた。


「……いや、いい」


手が、離れる。


(逃げた)


「そうですか」


あえて、それ以上は追わない。


訓練場を後にする。


背後では、ざわめきが収まらない。


「なんなんだ、あの人……」


「騎士より強くないか……?」


(いい反応)


廊下を歩く。


アルヴェルトは無言。


けれど――


歩幅が、少しだけこちらに合わせられている。


(……無意識ね)


「先ほどの件ですが」


「何だ」


「“余計な視線”というのは」


一歩、近づく。


「気にされているのですか?」


沈黙。


数秒。


「……当然だ」


低い声。


「管理対象だからな」


(はいはい)


「そういうことにしておきます」


小さく笑う。


その瞬間。


「……あまり他の男に近づくな」


ぽつりと、落ちた言葉。


足が止まる。


(……今の)


振り返る。


アルヴェルトは前を向いたまま。


(言ったわね)


「命令ですか?」


「……違う」


少しだけ間があって、


「忠告だ」


(ふふ)


「承知いたしました」


わざと、少しだけ丁寧に返す。


そのまま、隣に並ぶ。


距離は、昨日よりも近い。


そして――


確実に、変わっている。


(これはもう)


“戦力”じゃない。


「……アルヴェルト様」


「何だ」


「ありがとうございます」


「……何がだ」


「いえ、なんとなくです」


それ以上は言わない。


けれど――


彼の足取りが、ほんのわずかに乱れたのを、


私は見逃さなかった。

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