第27話 少しだけ――隣に戻る
第27話「少しだけ、戻る」
朝。
公爵邸の空気は、相変わらず重かった。
(……でも)
昨日とは違う。
(完全な孤立じゃない)
部屋を出る。
廊下。
使用人たちの視線はまだ硬い。
だが――
(少しだけ、弱い)
完全な拒絶ではない。
(……揺れてる)
「リリアーナ様」
執事が声をかける。
「朝食のご用意が整っております」
「ありがとうございます」
(……日常)
戻りきってはいないが、途切れてもいない。
食堂へ向かう。
(……いる)
アルヴェルトが、すでに席についていた。
(……昨日と同じ)
だが――
(違う)
空気が、少しだけ柔らかい。
「……おはようございます」
「……ああ」
短い返答。
(でも)
(視線を逸らさない)
席に着く。
沈黙。
だが――
(……苦しくない)
「……リリアーナ」
「はい」
「食べろ」
(……それだけ?)
だが。
(……十分ね)
食事が運ばれる。
静かな時間。
「……アルヴェルト様」
「何だ」
「今日は」
少しだけ、間を置く。
「外には出ません」
沈黙。
(……)
「……そうか」
短い返答。
(……)
(止めない)
「……その代わり」
「屋敷の中で、動きます」
「問題ない」
(……許可された)
「……ありがとうございます」
沈黙。
(……)
「……リリアーナ」
「はい」
「……昨日の件だが」
(……来た)
「……言い方を間違えた」
(……)
「管理対象ではない」
(……)
「……分かっています」
小さく答える。
「……」
沈黙。
(……でも)
「……ただ」
「守られるだけでは、いられません」
(……)
「……ああ」
短い返答。
「……分担する」
(……)
「お前の言う通りだ」
(……)
(ちゃんと、聞いてる)
「……ありがとうございます」
食後。
中庭。
柔らかな日差し。
(……久しぶりね)
何も起きない時間。
「……リリアーナ」
「はい」
「来い」
(……?)
近づく。
「……手を出せ」
(……何?)
言われるまま、手を出す。
その瞬間。
ぐい、と引かれる。
「……っ」
軽く、引き寄せられる。
(……近い)
「……確認だ」
(……またそれ)
「何のですか?」
「距離だ」
(……)
「離れすぎている」
(……)
「……そうですか」
小さく笑う。
(……不器用ね)
「……では」
ほんの少しだけ、距離を詰める。
「このくらいですか?」
沈黙。
(……)
「……もう少しだ」
(……細かい)
さらに一歩。
(……近い)
「……これでいい」
(……満足げね)
「……アルヴェルト様」
「何だ」
「それ、必要ですか?」
「必要だ」
即答。
(……強い)
「……分かりました」
そのまま。
少しだけ近い距離で立つ。
(……)
(悪くない)
「……リリアーナ」
「はい」
「勝手に動くな」
(……またそれ)
「……努力します」
「今回は許す」
(……)
「次は」
「一緒に動く」
(……)
「……はい」
素直に頷く。
(……戻ってきた)
完全ではない。
でも。
(ちゃんと、隣にいる)
その時。
遠くで鐘が鳴る。
(……?)
「……来たな」
アルヴェルトが呟く。
(……何が)
「王宮だ」
(……)
「動く」
空気が、一瞬で変わる。
(……やっぱり)
(終わってなかった)




