第20話 守るか、自由か――初めてぶつかった日
第20話「すれ違い」
夜。
公爵邸の空気は、重かった。
(……静かすぎる)
昼間の会話。
“選択”。
“どちらを取るか”。
(……残るわよね)
窓際に立ち、外を見る。
王都の灯り。
その向こうに――王宮。
(……あそこが原因)
「……リリアーナ」
低い声。
(……来た)
振り返る。
アルヴェルト。
「話がある」
「私もです」
沈黙。
(……同時ね)
「先にどうぞ」
一歩、譲る。
「……王宮の件だ」
(やっぱり)
「今後、外出は制限する」
(……)
「単独行動は禁止だ」
(来た)
「理由は?」
「狙われている」
即答。
(……それは分かってる)
「安全を優先する」
(……それも分かる)
「……アルヴェルト様」
「何だ」
「それは」
少しだけ、間を置く。
「閉じ込める、ということですか?」
沈黙。
「……違う」
「守るだけだ」
(……同じよ)
「結果は同じです」
空気が、わずかに揺れる。
「……リリアーナ」
「私は」
言葉を重ねる。
「守られるだけの存在ではありません」
沈黙。
「分かっている」
「なら」
一歩、近づく。
「私にも動かせてください」
「却下だ」
(……即答)
「危険だ」
(……そればっかり)
「だからこそです」
声が、少しだけ強くなる。
「私のせいで問題が起きているなら」
「私が対処すべきです」
沈黙。
「……違う」
低い声。
「お前のせいではない」
(……でも)
「結果として、そうなっています」
「なら」
「私が動くべきです」
(……ここ)
(引けない)
「……必要ない」
「俺がやる」
(……それ)
(ズレてる)
「……アルヴェルト様」
「何だ」
「それでは」
「間に合わない可能性があります」
沈黙。
「……ない」
(……断言)
「俺がいる」
(……そうじゃない)
「……それは」
一瞬、言葉が詰まる。
(どう言う)
「……信頼の問題ではありません」
「状況の話です」
沈黙。
「……同じだ」
(……違う)
「違います」
はっきりと言う。
空気が、凍る。
(……言った)
「……何がだ」
声が、低くなる。
(怒ってる)
「全部を一人で抱えるのは」
「合理的ではありません」
「分担すべきです」
(……正論)
だが――
「……お前は」
一歩、踏み込んでくる。
「危険だ」
(……またそれ)
「それでもです」
「私は動きます」
沈黙。
(……)
「……許可しない」
(……来た)
「許可が必要ですか?」
「必要だ」
(……完全に)
(上に立つ気ね)
「……それは」
少しだけ、声が冷える。
「恋人として、ですか?」
沈黙。
「……違う」
「管理対象としてだ」
(……)
(それ)
一番言っちゃダメなやつよ。
空気が、完全に止まる。
「……そうですか」
声が、静かになる。
(……冷えた)
「では」
一歩、下がる。
「私は従いません」
「……リリアーナ」
「私は私で動きます」
(……決めた)
沈黙。
「……勝手なことをするな」
「します」
(……もう止まらない)
「……危険だと言っている」
「分かっています」
「だから行きます」
(……)
完全な対立。
「……行かせない」
低い声。
一歩、近づく。
(止める気)
「……止めますか?」
「必要なら」
(……本気ね)
「……アルヴェルト様」
少しだけ、目を細める。
「それでも、行きます」
沈黙。
数秒。
長い沈黙。
「……好きにしろ」
ぽつりと落ちる。
(……え)
「……ただし」
顔を上げる。
その目は――
「無事で戻れ」
(……)
それだけ。
(止めないのね)
「……はい」
小さく頷く。
(でも)
(これでいい)
背を向ける。
歩き出す。
(……初めてね)
(背中を見せるの)
「……リリアーナ」
呼び止められる。
止まる。
振り返らない。
「……」
沈黙。
「……行くな」
(……)
一瞬。
心が、揺れる。
(……でも)
「……行きます」
それだけ言って。
歩き出した。




