第12話 手を繋ぐ理由が、任務のはずがない
第12話「並ぶ距離」
「外に出る」
朝食の席で、アルヴェルトがそう言った。
(……唐突ね)
「任務ですか?」
「半分だ」
曖昧な返答。
「結界の残滓を確認する。ついでに――」
一瞬だけ、言葉が止まる。
「気分転換だ」
(……今の)
ほんの少し、視線を逸らした。
(言い慣れてないわね)
王都の街。
石畳の通りは人で賑わい、店先には色とりどりの商品が並ぶ。
(……久しぶりね)
王宮にいた頃とは違う、自由な空気。
「離れるな」
隣から、いつもの声。
「はいはい」
軽く返すと――
ぐい、と手を引かれた。
「……?」
そのまま、自然に繋がれる。
(……え)
「人が多い」
それだけの理由。
(……そういうことにするのね)
並んで歩く。
手は、繋がれたまま。
(……これは)
完全に、恋人の距離。
周囲の視線が、集まる。
「……見られていますよ」
「問題ない」
即答。
(強い)
「リリアーナ様?」
声をかけられる。
振り返ると、見知らぬ女性だった。
上品なドレス。整った容姿。
(貴族ね)
「やはり……エルフォード家の」
「はい」
軽く頷く。
「ご無事で何よりです」
(……表向きは、ね)
「ありがとうございます」
すると、その女性はアルヴェルトへと視線を向けた。
「アルヴェルト様も、お久しぶりです」
柔らかい笑顔。
(……知り合い)
「……ああ」
短い返答。
(塩対応)
「ご一緒とは珍しいですね」
女性の視線が、私たちの“手”に落ちる。
(……あ)
確かに、目立つ。
「……任務だ」
アルヴェルトが答える。
(雑)
「そうでしたか」
女性はにこりと微笑む。
だが、その目は――
(見てるわね)
値踏みするように。
「もしよろしければ、お茶でも――」
その言葉。
だが――
「不要だ」
即答。
(速い)
「今は時間がない」
(完全遮断)
女性がわずかに表情を崩す。
だがすぐに整える。
「……そうですか」
(強いわね、この人も)
「行くぞ」
アルヴェルトが歩き出す。
手は、離さない。
むしろ――
(少し強い)
さっきより、握る力が増している。
(……分かりやすい)
少し離れた後。
「……知り合いですか?」
何気なく聞く。
「昔の縁だ」
短い答え。
(雑)
「好意を持たれているようでしたが」
一歩、踏み込む。
すると――
「関係ない」
即答。
(早い)
「そうですか」
軽く流す。
だが――
「……お前こそ」
今度は彼が口を開く。
「何だ」
「先ほどの男」
(……ルークね)
「距離が近い」
(来た)
「訓練の一環ですが?」
「不要だ」
(またそれ)
「……アルヴェルト様」
「何だ」
「嫉妬、ですか?」
真正面から言う。
その瞬間。
沈黙。
完全な沈黙。
(……)
彼の足が止まる。
周囲の喧騒が遠くなる。
「……違う」
低い声。
だが――
「……」
一拍。
「……それもある」
(認めた)
思わず、目を細める。
(素直ね)
「では、あの女性は?」
少しだけ、意地悪に聞く。
「関係ないと言いましたよね?」
「関係ない」
即答。
(強い)
「なら、問題ありませんね」
「……ああ」
だが――
「だが」
一歩、近づく。
距離が、詰まる。
「お前は別だ」
(……それ)
かなり強い。
「どう違うのですか?」
静かに聞く。
すると――
彼は、ほんの一瞬だけ考える。
そして。
「……優先順位だ」
低い声。
「お前が上だ」
(……)
言葉が止まる。
(それ、言う?)
「……ありがとうございます」
小さく返す。
それしか言えなかった。
再び歩き出す。
手は、繋がれたまま。
(……さっきより)
距離が、さらに近い。
「……アルヴェルト様」
「何だ」
「これは」
繋がれた手を見る。
「任務ですか?」
少しだけ、笑う。
すると――
「……ああ」
一拍。
「そうだ」
(嘘ね)
「では」
軽く握り返す。
「任務、継続ですね」
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
彼の指が、強く握り返した。
(……ああ)
これはもう。
完全に。




