第9話 おっさん陰陽師、戦う
「令!」
「なにっ、影が!?」
影縛りの霊符を発動させると、ダンケ殿の足元から影が這い上がり、身体中を縛る。
陰陽術は地を表す陰の気と天を表す陽の気である陰陽二気の考え方が基本だ。この世の一切の万物は陰陽二気によって生じ、それぞれ木・火・土・金・水の要素にわかれ、この五つの気が絶えず循環することによって自然界の秩序が保たれている。
陰陽術はその作用に干渉する術であり、結界や身体能力向上は陽の気となり、この影縛りは陰の気を持つ。式神召喚は陰陽両方の気を使い、五行の要素を持った式神を召喚できる術である。
「くっ、おら!」
ダンケ殿が影縛りを振り払う。陰陽術や魔法とやらを使わずに振り払うとは、身体能力は我の世の者よりこの世の者の方が上なのかもしれない。とりあえず結界や影縛りなどの霊符の力も冒険者相手に通用しそうである。
「スー、業火演舞!」
『よしきた!』
「ぐあああああ!」
スーが両翼を羽ばたかせると、紅蓮の炎がダンケ殿を包み込む。剣を振るって振り払おうとするが、振り払うと同時に新たな炎がダンケ殿の身体全体を襲った。スーも我の意を汲んで多少は技の威力を抑えている。ある程度したところで、スーに合図をして炎を消してもらう。
「……参った、降参だ」
「おじちゃん、スーちゃん、すごいすごい!」
ダンケ殿は両手を挙げて降参の意を示す。こちらの世も戦意がないことを表す方法は我の世と同じらしい。
レイラは両手を挙げて喜び、受付の者はとても驚いている。試験で試験官を圧倒することはあまりないのかもしれない。
「しかしとんでもねえなあ。あんたやその魔物、まだ全然力を出していないだろう?」
「うむ、ダンケ殿の言う通りだ。すまぬがそこまで手の内を見せたくないのでな」
まだ他の式神も召喚できるし、他の霊符もある。我だけでなく他の陰陽師もそうだが、いろいろと対策を取られることもあるので手の内をすべて見せるようなことはしない。……妖も怖いが、宮中の人も怖いのである。
「ははっ、俺が心配する必要なんてまったくなかったな。あんたの国のやつはみんなそんなに強えのかよ?」
『ご主人は歴代当主の中でも随一と名高い陰陽師なんだ。京の都でも5本の指に入るくらい強いんだよ!』
「他の陰陽師とそれほど手合わせはしないからわからぬが、これでも相応の役に就いていたゆえ、それなりの力はあると自負している。確かに歳をとるほど体力は衰えていくが、経験を積んで術の練度は上がってゆくからな」
他の陰陽師とは連携して京の都を守護する仲間であって、腕を競う機会はほぼないから誰が一番かなど些細なことである。
陰陽師は体力よりも五行力の方が重要なので、冒険者と違って歳はそれほど関係ない。
「なるほど。油断したつもりはないが、まさかそれほどの実力者がその歳で冒険者試験を受けにくるとは思ってもいなかったぜ。それにその魔法は初めて見るが、光魔法と闇魔法を両方使えるとは珍しい。冒険者よりも騎士団や貴族に仕えた方が……いや、これ以上は止めておこう」
相変わらず魔法とやらと陰陽術は若干かみ合わないが、とりあえずは納得してくれたらしい。少なくとも貴族に仕えるという選択肢はないな。この世の貴族は京の都の貴族と比べてまともだったらわからぬが。
「それとそっちの魔物を連れて街を歩く時は少し気を付けた方がいいだろう。言葉を解し、可愛いうえにそれだけ強いことが知られると悪人に狙われる。この街もそこまで治安がいいわけではないからな」
「ご忠告感謝する」
スーは式神だからいつでも改めて顕現させることができるからその心配はないが、あえて面倒事を起こすつもりもない。ダンケ殿の忠告通り、街中では気を付けるとしよう。
「お待たせしました。こちらがヤコウ様の冒険者証となります」
試験に合格し、しばらく待つと冒険者証とやらを渡された。薄い金属製の板で、これが身分証代わりとなるらしい。
「ヤコウ様の実力はダンケより十分に認めておられますが、第七級からのスタートとなります。依頼をこなしたり、魔物を討伐していくと級位が上がっていきますので頑張ってくださいね」
「うむ、感謝する」
ダンケ殿からは少なくとも第三級以上の実力はあると言われたが、当然最初は一番下からだ。もちろんそれに異を唱えるつもりはない。
「早速だが、近くの森で受けられる依頼をお願いしたい」
「かしこまりました。本来であれば最初は危険のない街での依頼をお勧めするのですが、ヤコウ様でしたら問題ございませんね。森での依頼ですと、薬草採取などの依頼や魔物の討伐などがございます。また、依頼以外の魔物などの討伐も昇級するためのポイントに加算されます」
なるほど、依頼の他に昨日のゴブリンなどは駆除対象となっており、討伐部位を持ちかえれば報奨金がもらえて昇級にも有利となるらしい。この辺りも冒険者になった際の利点であるな。
複数の依頼を受け、冒険者ギルドをあとにした。
角ウサギの角と毛皮を売ったお金の残りでひとつ買い物をし、バルム殿に無事に冒険者試験に合格したことを伝えて森へと向かう。これで手持ちの金もほぼなくなったことだし、まずはお金を稼ぐとしよう。




