第7話 おっさん陰陽師、絡まれる
声をかけてきた二人はここにいる者たちと同様に武装をしている。ひとりは小型のナイフ、もうひとりは長い剣を腰に携えていた。
太刀とは微妙に異なっているし、京の都で持つ者が多かった槍やなぎなたなどを持っている者はほぼいない。他にも見たことのない武器を持っている者もいるし、やはり魔物とやらを相手にすることで、我の世の武器とは異なるのだろう。
「ご忠告感謝する。受付の者といい、この街の者は優しい者ばかりなのだな」
「なんだと! おい、おっさん、俺たちに喧嘩を売ってんのか?」
「いや、そんなつもりはまったくないのだが……」
受付の者のように若くはない我を心配してくれていたのではないのかと思ったのだが、違ったのだろうか?
『ご主人は世間知らずだからなあ~。こいつらはただご主人を煽っているだけだよ』
「う、うん。たぶんおじちゃんのことを馬鹿にしていたんだとと思うよ……」
……ふむ、バルム殿やレイラのようにこの世は心優しき者ばかりというわけではないらしい。そしてスーの言う通り、我は京の都の守護に専念してきたこともあり人付き合いは少なかったので、そういった機微には少し疎いかもしれぬ。
確かに我を挑発している者にあのように返せば、喧嘩を売り返していると思われても仕方がないか。
「それにしても汚ねえガキだな。てめえみてえなガキが冒険者ギルドに入ってくるんじゃねえよ!」
「そうだな、冒険者の品格が落ちるってもんだぜ」
「……っ!」
レイラが我の狩衣をぎゅっと掴む。このような人相の悪い者にすごまれて怯えてしまったのだろう。
「ふむ、冒険者の品位を落としているのは貴殿らのように見えるがな。なるほど、この国の冒険者とやらは年上の者や幼き者に対して威張り散らすことが仕事というわけか。そうなると我も冒険者になることを考え直さねばならぬな」
「てめえ、俺たちをなめてやがるな!」
「おい、ちょっと珍しい魔物を連れているからって調子に乗りやがって!」
2人の男が怒り、武器に手をかけようとする。
我はともかく、世話になっているレイラのことまで悪く言われて黙っているほど我も温厚ではない。とはいえ、ここで大きな問題を起こすつもりもないので、適当にあしらうとするか。
「ヤコウさん、大変お待たせいたしました。試験会場はこちらとなります」
「……ちっ、命拾いしたな」
「おっさん、覚えておけよ!」
そう思いつつ懐にある霊符に手をかけたところで、先ほどの受付の者が我を探しに来たため、2人組の男たちは悪態を吐きながら去っていった。さすがにあいつらも冒険者ギルドの者がいる場所で面倒を起こすつもりはないようだ。
「おじちゃん!」
「怖がらせてしまったようだな。大丈夫だ、レイラは何ひとつ悪くないし、あのような者ごとき我の敵ではない」
よほど怖かったようで、我の足をぎゅっと掴んでくるレイラ。
人相も悪かったし、本当にあいつらも冒険者とやらなのだろうか。冒険者になればいろいろと便利ではあるが、あんな輩ばかりであるなら本気で考え直さなければならぬな。
「……ヤコウ様に魔力はないようですね」
「ふむ、そうか」
受け付けの者の指示に従い、目の前の青色をした水晶に手をかざすがなにも起こらない。この街へ入る時に手をかざした水晶とは異なる大きさと色をしているが、それとは別の魔道具らしい。
レイラから聞いた話によると、魔法を使用するには魔力というものが必要らしく、それを測定する魔道具のようだ。魔力は持っている者の方が少ないそうで、レイラも魔力は持っていなかった。陰陽術の五行力と同等のものかとも思っていたが、どうやらそれとは異なるらしい。
魔力を持っていればそれだけで冒険者試験にも優遇されるらしい。水晶にてをかざすだけでそれを特定できるとはずいぶんと便利なものだ。
「それではこちらで試験を開始します」
そのまま広い部屋へと案内される。部屋の中にある白い闘技場のような場所にひとりの男が立っていた。受付の者に促され、我はその上へと上がり、受付の者とレイラは下で待機している。
「おう、あんたが受験者だな。俺は試験官のダンケだ、よろしくな。試験官でもあるが、元第三級の冒険者だぜ」
ダンケ殿は三十代前半で我よりも少し若いが、がっしりとした筋肉質の男であった。元第三級とは京の都でもあった階位のことだろう。どうやら冒険者にもそういった階位があるらしい。
「我はヤコウと申す、よろしく頼む。ところで第三級とはどれほどの位なのだろうか?」
「おいおい、そんなことも知らずに冒険者試験を受けるのかよ……」
「すまぬ、我はこの国に来たばかりでな。教えてくれると助かる」
「道理で見たことのない格好をしていると思ったぜ。冒険者は第一級から第七級まで分かれている。最初は第七級から始まり、依頼をこなしたり、功績を積んだりすると級位が上がっていく仕組みだ。その上に特別な特級という階級もあるが、この国全体でも数人しかいないほど希少となる」
「なるほど、全部で8つの位があり、第三級は真ん中よりひとつ上ということであるな」
京の都よりも簡単で良いな。都では正一位、従一位から始まり、少初位の上下など位階だけでも30ある上に官職や官司まであるので、誰がどれほどの身分なのか判別が難しい。
「……言っておくが、上の階級になるほど数が少なくなるから、第三級でも結構すごいんだぜ。引退するまでに第三級まで上がれれば、冒険者として十分成功したと言える」
「ああ、すまぬ。決して貴殿を侮ったというわけではない」
つまりこの者は冒険者とやらでも上位に位置するということになる。確かにダンケ殿は先ほど我らに絡んできた二人組よりも貫禄があり、いくらかの死線を越えてきた佇まいが感じられた。
試験ではあるが、この世の者の力を見る良い機会だ。少しだけ楽しみになってきたぞ。




