第5話 おっさん陰陽師、気付く
「うん。冒険者さんは魔物を討伐したり、誰かを護衛したり、素材を取ってきたりする仕事なんだ。それに冒険者ギルドだと他の場所よりも高く魔物の素材を買い取ってくれるんだよ」
「ほう、そんな仕事があるのか」
レイラから冒険者という仕事の話を詳しく聞く。
どうやら冒険者とやらは様々な者からの依頼を解決することによって礼金をもらえるらしい。自分の力量に合わせた依頼を選び、依頼をこなしていけば、さらに難しく報酬の多い依頼を引き受けることが可能となるようだ。
「でも冒険者さんになるには試験を受けないといけないんだよ。私もなりたかったんだけれど、試験に落ちちゃった……」
「ふむ、ある程度の力は必要というわけか」
『ご主人なら絶対に大丈夫だよ』
レイラから聞いた話によると、主に戦闘能力があるかを見る試験らしい。魔法や召喚術を使うことが可能なようだし、式神がいれば問題はなさそうだ。
「なるほど。身分や経歴などには関係なく、実力さえあれば冒険者となることが可能なわけか。それなら今の我の状況でも問題なさそうだ」
「うん。それに冒険者ギルドは他の街にもいっぱいあるし、どの依頼を受けるかも自由なんだよ」
『へえ~いろんな場所へ旅をしながらお金を稼げるんだ。ご主人、せっかくなら京の都を探しながら、いろんな場所へ行ってみようよ!』
「ふむ、それも良いかも知れぬな。思えば我の人生のほぼすべてを京の都で過ごしていた。当主の役目も譲ったことだし、この国を回りながら京の都を探すとするか」
先祖代々のお役目である京の都の守護は我にとって誇りであり、辞めたいと思ったことはない。だが、それとは別に他の者から話に聞く場所をこの目で見てみたいと思ったこともある。
スーの言う通り、京の都を探しながら、この国を巡ってみるのも悪くない話だ。
「むっ、なんだと! いや、まさかそんなことがありえるのか……?」
考え事をしながらふと空を見上げると、すでに日は落ちて真っ暗になっていた夜空が目に入った。
それを見て我は気付いてしまった。
「い、いきなりどうしたの?」
「レイラ、すまぬが少しだけそこで待っておれ。令!」
懐から霊符を取り出し力を開放する。両隣の建物の壁を交互に駆けのぼり、建物の屋根へと上った。
「……ふはは、そういうことか。もはや我に返る地はないということだな」
『ご主人、急にどうしたのさ?』
スーが我を追って屋根まで上ってきた。
「スーよ。どうやら我らがいるのは日の本でも外の国でもなく、現世ですらないようだぞ」
『ええっ!?』
「どのような国であっても、星々の位置までは変わらないが、その位置がまったく異なっている。黄泉の国か極楽かはわからぬが、間違いなくここは現世とは異なる世だ」
我ら陰陽師の仕事には京の都の守護の他に暦を作ることや占いも含まれる。星の動きにより凶報を占うのも我らの仕事なのだが、ここは星の位置がすべて異なっていた。
ひとつの星が消えることは稀にあることだが、星の位置がこれほど変わることなどありえない。そうなると、ここは現世ではないということになる。道理で妖とは異なる魔物という存在があり、バルム殿のような獣人なる種族がいるわけだ。
『う、現世へ帰れるのかな……?』
「わからぬ。それにもしも帰ることができたとしても、その時は我の病も元に戻ってしまうかもしれぬな」
『あっ……』
そう、たとえこの世から現世へ戻ることができたとしても、その際に我の身体は再び病に侵されてしまうかもしれぬ。もう二度とあの苦しみと身体の動かせない辛さを味わうことはごめんだ。
「決めたぞ。我はこの世で生きてゆく。弓月家当主としての役目を終えたことだし、いろんな場所を旅しようと思う」
『うん、賛成だよ! やったあ、実はご主人といろんな場所へ行きたいと思っていたんだ。みんなもきっと同じ気持ちだと思うよ!』
スーが我の肩へ寄り添ってくる。そうか、思えば式神たちにも京の守護ばかりで不自由をさせてしまったか。
改めて頭上の星々の煌めきを見つつ、屋根の上からミニカムの街を見下ろす。
「待たせてすまなかったな。レイラ、我は冒険者となるぞ。すまぬが明日は冒険者ギルドとやらへ案内してくれ」
「うん、もちろんだよ」
屋根から降りてくるとレイラは心配そうにしていた。問題ないことを伝えて、冒険者になることを伝える。
この世をまわるとしてもこの国でいうところの金が必要だ。水や食料は式神がいればなんとかなるが、霊符を新しく作るための紙と墨、服などもこれだけでは足りない。冒険者とやらになれば、魔物を倒しながら金を稼ぐことができて一石二鳥である。
あの角ウサギとやらは非常に美味であったし、あれ以上に美味なる魔物は多いらしい。こうなってしまえば、むしろ開き直ってこの世を楽しむとしようではないか!
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