第41話 おっさん陰陽師、海で遊ぶ
「わわっ、冷たい! えいっ、えい!」
『へっへ~当たらないよ~』
『あら、それじゃあこれはどう?』
『うわっ!? ゲン姉、それはずるいよ!』
海の浅瀬でレイラがスーとゲンと水掛けをしながら遊んでいる。レイラが手で押し出す水は空を飛ぶスーに当たらなかったが、水の中からゲンが勢いよく出し続ける水に当たる。
なるほど、海ではこうした遊びも楽しめるのだな。みなとても楽しそうでなによりだ。
我はというと、浜にて野営で使用している椅子に座ってのんびりとその様子を眺めている。思い返せばこの世に来てからは生活するための金を稼いだり、いろんな場所へ移動して随分と慌ただしかったものだ。たまにはこうして何もせずに過ごすのも悪くない。
『ご主人も一緒に遊ぼうよ~!』
「おじちゃんも遊ぼうよ!」
「……我はここでのんびりしてるゆえ、みなで楽しむとよい」
先ほど足までは海に浸かって楽しんだ。この狩衣で海へ入るわけにはいかぬからな。
『そういえばご主人様は川でもちゃんと泳いだことがないわよね』
「………………」
ゲンには見抜かれてしまっているようだな。確かに我は川でまともに遊んだことも少なく、うまく泳ぐことができない。しかもこの海とやらは波にさらわれてしまえば二度と陸へ戻って来られないとも聞いている。
浅瀬であれば大丈夫とも聞いているが、可能なら川で泳ぐ練習をしてからにしたいところである。レイラは泳ぐことができるようだが師としてあまり情けないところは見せたくないので、今度こっそりと泳ぐ練習をしてもよいかもしれぬな。
「さて、そろそろ上がるか」
『ええ~もっと遊びたいよ!』
「レイラももう少しだけ遊びたいかな……」
我が海から上がるように伝えると、みなが不満を言ってくる。特にレイラがこうして自分の意思をはっきりと伝えてくるのは珍しい。とはいえ、今日は本当にこれまでである。
「もう日が暮れてきたからな。夜の海はとても危険だと聞いている。みなもだいぶ疲れたであろう。焦らずともしばらくはこの街に滞在する予定だ。それほど気に入ったのであれば、明日も海で遊ぶとするか?」
「うん! やったあ!」
『あら、いいわね。たまにはのんびりとしましょう』
我がそう伝えると喜び、はしゃぎまわるレイラ。
よっぽどこの海とやらが気に入ったようだ。確かに海に入らなかった我も蹴鞠のような球を弾いて地に落とさぬようにする遊びや砂を押し固める遊びなどでとても楽しめた。しばらくはのんびりと過ごすと決めたわけだし、明日もここで過ごすとしよう。
「主らよ、少しよいじゃろうか?」
「……っ!?」
横から突然声がしてその場から飛びのく。我に声をかけてきた者、年頃は裳着(女性版の元服で成人式。12~15歳ごろ)前の童のようで、レイラよりも少し大きく10くらいだと思われる。
そんな外見とは裏腹にこの者からは歴戦の強者の風格が感じ取れた。もちろん童の外見自体は金色の髪をしているただの童だ。
しかし、それに内包している力は間違いなく強い。これまで京の都で正体を隠した妖どもを幾分と相手にとった我だからこそわかる。
「おっと、警戒させてしまったようじゃな。敵意はないのじゃ」
「………………」
そういいながら金色の髪をした童は両手を挙げる。確かに敵意があれば声などかけずに攻撃をしてくるであろう。我も懐から取り出した霊符を下ろす。
この浜辺に来てからあまり目立たぬよう隅の方で過ごしていた。そのため、他の者と少し異なる服を着ている我と魔物の姿をしたスーとゲンを見て奇妙に思う者も多くいただろうが、声をかけてきたのはこの者が初めてである。
「おじちゃん、このお姉ちゃんの耳は長いよ」
「むっ、そういえばラグナード殿が言っていたな。確かエルフという種族がいると」
レイラの言う通り、この童の耳は普通の者よりも長く尖っていた。ちょうど領主であるラグナード殿からエルフという長寿の種族がいると聞いていた。
「うむ、妾はエルフじゃ。名はエルネという」
「……弓月夜行と申す。こちらは弟子のレイラだ」
名を名乗られたため名乗り返すが、警戒はしたままである。なにが目的なのかはわからぬが、この者はただものではない。
「ヤコウとは変わった名じゃな。気持ちはわかるが、警戒せずともよい。妾はただそこにおる魔物……いや、召喚獣のようなものたちに興味があるだけなのじゃ!」
『おいら?』
『私?』
そう言いながらエルネと名乗るエルフはスーとゲンを指差した。




