第26話 おっさん冒険者、緊急依頼の話を聞く
「緊急依頼? 急ぎの依頼ということか?」
「……うん、そうみたい。呪いを受けた人の治療の依頼だって。聖魔法を使える第三級以上の冒険者さんを募集しているみたいだね」
「呪い。それは呪詛のようなものであろうか?」
「呪詛ってなあに……?」
「いや、それだけわかれば十分だ。受付の者に詳しい話を聞いてみよう」
急ぎの依頼ということであれば、魔物を狩ることよりもそちらを優先した方が良さそうである。陰陽師には病を治すことはできぬが、呪詛であれば陰陽師の領域だ。
呪詛とは陰の力を借り、厭魅と呼ばれる藁人形や紙を使った人形を用いて憎い相手に死や病をもたらす術である。京の都の法でも禁じられており、それを破れば罰を受ける。妖から人々を守ることだけでなく、呪詛を受けた者を守ることも陰陽師の大切な役割なのである。
我に聖魔法という魔法は使えないが、もしも我の世で言うところの呪詛であれば力になれるかもしれぬ。
「こちらは闇魔法による呪いを受けた領主様の息子の治療依頼となります。もしかしてヤコウ様は聖魔法が使えるのですか!」
「いや、我に聖魔法とやらは使えぬ。だが、もしかすると力になれるかもしれぬので聞いてみた次第だ」
「第四級ですか……。いえ、失礼しました。実はすでに第四級冒険者と教会の聖魔法の使い手の方が治療を行ってくださったのですが、あまりにも呪いが強力だったようで治療に失敗しております。そのため現在は第三級以上の冒険者様を募集していた次第でございます」
どうやらすでに治療を試みたらしいが、それに失敗しているらしい。確かに京の都でも強力な呪詛を祓うには熟練の陰陽師が必要であったな。
むしろ聖魔法とやらとは異なる陰陽術のほうが可能性はあるかもしれぬ。だが、我はまだ第四級冒険者であって実績が少ないゆえ信用がない。そうだ、そういえばあれがあったな。
「これはミニカムの街の冒険者ギルドマスターであるガドン殿からの文である。我も確実に治せるとは言えぬが、実際に症状を見てみたい」
「ガドン様の? ……宵闇の黒鴉団をたったひとりで!? すみません、上の者に確認しますので、少々お待ちくださいませ」
ガドン殿から受け取った文を渡したところ、受付の者が驚きの声を上げ、奥へ消えていく。大した相手ではなかったと思うのだが、宵闇の黒鴉団とはそれほど驚く者たちだったのだろうか?
「あんたがヤコウさんだね。ギルドマスターのマーチルだ。ガドンからの手紙は読んだよ」
受付の者が戻ってきたと思ったら、今度は上の階にある冒険者ギルドマスターの部屋へと案内された。
そこには30代くらいの筋肉質な女性がいた。京の都では女性が組織の長となることはなかったのだが、この世では問題ないようだな。ガドン殿を呼び捨てで呼んでいるということは知り合いなのかもしれない。
「その歳で最近冒険者に登録したばかりなのにすでに第四級へ昇級。たったひとりで宵闇の黒鴉団の一味を壊滅させるとは驚いたね。……それにそっちの召喚獣は初めて見るよ」
「我の国では冒険者ギルドという組織自体がなかったゆえ、最近登録したばかりなのだ。式神のスーと弟子のレイラだ」
『よろしく~』
「レ、レイラです!」
定位置である我の肩にとまっているスーと隣にいるレイラがマーチル殿に挨拶をする。スーはいつも通りの態度だが、レイラは緊張しているのと弟子と呼ばれて嬉しそうな感情が混ざった表情をしていた。
「……喋る召喚獣とはとても珍しい。手紙には見た目以上に強く、信用できる者だからなにかあったらいろいろと便宜を図ってほしいと書かれている。……他にも言動が目立つから、そのあたりも配慮してやってくれと書いてあるよ」
「そうであるか。ガドン殿にはいろいろと世話になった」
マジックバッグをいただいたし、とてもありがたいことだ。ただ、マーチル殿が少し言い淀んだのは我の服のことについて思うところがあるのかもしれぬ。ミニカムの街でも皆に言われたのだが、この世でこの服装がおかしい格好だというのは少し悲しくなるぞ……。




