第19話 おっさん陰陽師、弟子をとる
「……レイラが陰陽術をか?」
「や、やっぱりレイラは才能がないかな……? 魔法を使う才能もないみたいだし……」
「ああ、いや、そういう意味ではない。そうか、そういう選択肢もあるのか……」
我が腕を組んで考えていると、レイラはそのように解釈をしてしまったらしい。
京の都でも我は弟子をとって陰陽術を教えていた。実際に弓月家当主を譲ったのは我の甥であり、我の弟子でもあったゆえ、我に師としての適性がないというわけではないだろう。
京の都の陰陽寮という組織に女性が所属することはできなかったが、そのことについては以前から疑問であった。たとえ女性であっても、才ある者であれば陰陽師として登用すべきであると思っていた。
ここは別の世であるし、我が女性の弟子をとっても問題はないだろう。ただ、ここは我がいた世とは異なり、陰陽術はなく魔法というものがある。この世の者が陰陽術を使えるのかは疑問が残る。
「とりあえずここで話すようなことではないな。一度宿へ戻ってから話すとしよう」
ただでさえ我は目立っているのと、すでに例の賊どもを我がひとりで討伐したことが広まっているらしく、この冒険者ギルドでも我を見ている者が多い。この世の人の噂も広まるのは早いものだ。我が別の世から来たことを知られても問題はないと思うが、下手に勘繰られても面倒である。レイラ以外の者には秘密にしておいた方がよさそうだ。
そして旅を共にするのであれば、我のことをレイラにちゃんと説明をしておかなければならない。
「レイラ、実を言うと、我はこの世の者ではないのだ」
「ええっ!? ……どういうことなのかな?」
宿へ戻ってきてレイラと向き合い、我のことを正直に話したのだが、当然そのような反応になるであろう。我自身も最初は意味が分からなかったからな。
「我は日の本という国におり、重い病にかかって床に伏せていたのだが、気付くと突然草原にいたのだ。我は死んで黄泉の国へやってきたと思ったのだが、陰陽術を使えて四神も顕現させることができ、この地にいる者はみな自然に生きている。それに我がいた世では陰陽術はあったが、魔法という不思議な力やこのマジックバッグといった不思議な道具は存在していなかった。我だけが別の世へ迷い込んだと考えると一番しっくりくる」
「えっとお……」
レイラがぽかんとしている。我もまだ現状を完全に理解できていないのだから、レイラがそれを理解できなくとも仕方がない。
「少し話が難しかったな。簡単に言うと、別の世から来た我の陰陽術をこの世にいるレイラに使えるのかわからぬということだ」
「そっかあ……」
我がそう言うと、あからさまにがっかりとした表情を浮かべるレイラ。
「だが、可能性はないわけではない。弟子か……うむ、いいだろう。明日から試してみるとしよう」
『よかったね、レイラちゃん!』
「うん!」
元々陰陽術は誰しもが使えるわけではなく、生まれ持った才能と血筋も重要である。レイラだけでなく、この世の者が使えるのかは正直分からぬ。
とはいえ、今まではそれを試してみるという発想がなかった。もしかすると鍛えればレイラも陰陽術を使えるようになるかもしれない。そうなれば我と別れても自身で身を守り生きていくことができるだろうし、覚えておくことに意味はある。
陰陽術を使えるのかはまだわからぬが、レイラも嬉しそうにしていることだし、弟子として扱うとしよう。
「さて、今日は疲れただろう。明日は早いし、寝るとしよう」
悪党どもを成敗し、街へ戻って来てからも冒険者ギルドで話をしていた。晩ご飯は冒険者ギルドで食べてきたが、すでに日は暮れて真っ暗だ。我も疲れているのだから、童であるレイラはそれ以上に疲れているに違いない。
「あのね、おじちゃん。今日は一緒のお布団で寝てもいいかな?」
「……うむ、今日だけだぞ」
「やったあ!」
我がそう言うと、嬉しそうに飛び回るレイラ。
これまでそんなことは一度も言わなかったレイラだが、我の弟子となって我らと共にゆけることとなり、安心したのだろう。
それに今日は悪党どもの拠点へ踏み込んだりと怖い思いもしていた。まだレイラは幼いことだし、誰かに甘えたい時もあるに違いない。あるいはいつもスーと一緒に寝ている我を羨ましく思ったのかもしれぬな。
「えへへ~スーちゃんはあったかいね!」
『たまには賑やかなのもいいね!』
「明日は朝早くから動くゆえ、2人とも早く寝るのだぞ」
レイラを我とスーで挟むようにベッドへと入る。最初は宙に浮いているような感覚もあったが、慣れてしまえば柔らかくて布団よりも寝心地はよい。
明日は別の街へ移動し、レイラに陰陽術の修行をつけるゆえ、忙しくなりそうだ。レイラとスーは普段と違ったこの状況を楽しんでいるが、早く寝なくてはな。




