第16話 おっさん陰陽師、青龍を顕現させる
目の前に描いた五芒星より、全長33尺(約10メートル)ほどの巨大な龍が顕現する。鱗は最高級の翡翠のように深く青い輝きを放ち、その四本の爪は非常に鋭く、眼孔には赤き炎が宿っている。
東の守護神であり、最後の四神である青龍。セイを顕現させるのは久方ぶりであるな。
『おいこらヤコウ! てめえ、なんで俺を全然呼ばねえんだよ! もっと暴れさせろや!』
「まったく、セイは相変わらずであるな……。京の都でそなたを呼ぶと後始末が大変なのだ……」
我をそのまま名前呼びする式神はこやつだけだ。セイは加減というものを知らぬので妖だけでなく周囲の建物まで傷付けてしまう。そのため京の都で顕現させるのはためらわれることもあり、セイを顕現させるのはだいぶ久方ぶりとなる。
『セイちゃんは相変わらずねえ~。もっと落ち着きなさいよ』
『おう、ゲンじゃねえか、元気そうだな。てか、ここはどこだよ? こいつらも京の都のやつらとは雰囲気が違うな』
セイを顕現させる場合は守りを得意とするゲン共に顕現させることが多いから、他の式神以上に仲が良い。セイにはここが現世ではないことを後ほど説明しないとな。
「ド、ドラゴンだと……」
「ば、馬鹿な……。ドラゴンを召喚できる召喚術師なんて、国に一人いるかどうかだぞ!」
悪党どもがセイを見て驚愕の表情を浮かべている。
ドラゴン? こやつらは龍を見たことがないのだろうか。あるいはこの世では龍のことをそう呼ぶのか?
「て、てめえら、怯んでいるんじゃねえ! ド、ドラゴンを召喚できるようなやつがこんなところにいるわけがねえ! よく見りゃドラゴンよりも小せえし、形が少し違う。きっとこいつはドラゴンの偽物だ!」
「た、確かにドラゴンとは姿が違うぜ! なんだ、驚かせやがって!」
どうやらドラゴンとやらと青龍は少し異なるらしい。まあ、そのようなことはどうでもいいが。
「セイ、こやつらは童をさらうような畜生どもだ。童たちはすでにゲンが守っている。今日は存分に暴れるがよい!」
『道理でどいつもこいつも腐った顔つきをしていやがるぜ! よっしゃあ、全員ぶっ殺してやる!』
「……こいつらには聞きたいこともあるし、一応少しくらい手加減はしてやってくれ」
他にさらわれた童がいないかや他に拠点があるかを聞いておきたい。まあ、セイに手加減は難しいかもしれぬが、一応言っておかねば。最悪の場合は見張りをしていた3人がいるか。
「野郎ども、やっちまえ!」
「「「おう!」」」
悪党どもがセイに向かって襲い掛かる。
「セイ、逆鱗旋風斬、森羅樹縛!」
『おうよ!』
「なっ、なんじゃこりゃあ!」
「ぎゃああああ!」
セイに向かって放たれた矢や槍などはセイが放った風の刃によってすべて弾かれた。そして風の刃はそのまま悪党どもを襲う。
さらに悪党どもの足元からは突然木の根が生え、足元へと絡みつき、そのまま身体全体を捕らえて締め付ける。防具を身に着けている者も多いが、その装備ごと押し潰した。
青龍は木の要素を持ち、植物や風を自在に操る力を持っている。威力と範囲はすさまじいのだが、相変わらず狙いは雑であるな……。童や我の方にまで攻撃が少し届いているぞ……。守りの得意なゲンと一緒でなければ京の都では顕現させられぬのも道理であろう。
『なんだよ、もう終わりかよ。口ほどにもねえな』
「て、てめえは一体なんなんだよ……」
「ほう、随分と頑丈なものだな」
セイの風の刃に斬り刻まれ、木の根に締め付けられてなおまともに喋ることができるのだから、この頭領は頑丈であるな。よく見ると他のやつらも骨はボロボロに砕かれているようだが息はある。防具のおかげでもあるが、やはりこの世の者たちの身体は我の世の者以上に頑丈な気がする。
だが、すでに勝負はあったようだ。この男も喋れるようだが、すでに身動きひとつできない状態である。
「……くそっ、俺たち宵闇の黒鴉団に手を出してただで済むと思うなよ!」
「ふむ、貴様らのような外道はどんな世にでもいるものだな。むしろそちらの方から来てくれるのならば歓迎しよう」
こやつらが大きな組織であることは聞いている。我を襲ってくるのならば望むところである。後ほどこの男に尋問をするとしよう。どこまで今の態度が続くのか見ものであるな。
さて、例の魔法とやらを使う者だけは木の根による拘束を外せる可能性もあることだし、この上からゲンの玄冥氷牢で凍らせておくとしよう。
「童たちも無事であるな。ゲン、水を与えてやってくれ」
『無事でよかったわね、はい飲んで』
童たちが捕らえられている檻をゲンが壊す。中にいる童たちは食料を与えられていなかったようだが、命の危険がある様子はない。後ほどこの場所にある食料を探して与えるとしよう。
『ちっ、まだまだ暴れ足りねえぜ。まあ、ガキどもが無事でよかったか』
「セイもご苦労であるな。後ほど詳しい説明をする。あと、この地の料理は京のものよりも美味であるから、期待しておくとよいぞ」
『ほう、そいつは楽しみだぜ!』
一緒に行動を共にしているレイラもあとで紹介してやらねばな。その時はレイラが作ってくれた美味なる飯を食べ、大人しくしていることを願うしかない。
さて、童たちは無事でよかったが、この後始末の方が面倒な気もする。街の者に式神や形代をどう説明したものか、迷うところである。




