第14話 おっさん陰陽師、怒る
「……あれはバルム殿か?」
「うん、バルムおじちゃんだ!」
街へ入る門にはいつものように検査を待つ人々が並んでいるのだが、その左側に多くの人が集まっていた。そしてその中心には遠目からでも耳が生えていてわかりやすい獣人のバルム殿が他の衛兵たちに取り押さえられている。これはただごとではない。
「ビャク、急いでくれ。場合によってはバルム殿を救い出す!」
『承知した、我が主! レイラ殿、しっかりと掴まっていてくれ』
「うん!」
ビャクが今まで以上の速度で疾走し、急ぎ門の前まで到着した。そのままバルム殿が取り押さえられている場所へと近付く。
「うおっ、びっくりした、ヤコウさんか!」
「ケイン殿、いったいどうしたというのだ? なぜバルム殿が取り押さえられている?」
手前にいたケイン殿は我が最初にこの街へ来た時に検査室へ案内してくれた衛兵の者で、森への往復をする際に挨拶を交わす間柄となっている。
「実はな、バルムさんの息子のサムルくんが何者かにさらわれってしまったんだ」
「ええっ!?」
「それは一大事ではないか! だが、なぜそれでバルム殿が取り押さえられているのだ?」
息子がさらわれたという一大事に、なぜ父親であるはずのバルム殿が拘束をされているのかわからない。すぐにその者を探しに行かねばなるまい。
「目撃者の情報から判断すると、サムルくんをさらったやつらは『宵闇の黒鴉団』という大規模な犯罪組織の可能性が高いんだ。実はここ数日でサムルくんだけでなく、結構な子供たちがさらわれてしまったらしい」
「よ、宵闇の黒鴉団……」
『レイラちゃんもそいつらを知ってるの?』
「う、うん……。この国で一番大きな犯罪者集団だよ。すっごく大きな組織で、たくさんの村や街を襲って悪いことをしているの。レイラみたいな子供がさらわれたら、もう二度とおうちには帰れないんだって……」
スーの問いにそう答えながら震えだすレイラ。確かにレイラのような浮浪児は特に狙われてしまいそうだ。
京の都でも女子をさらう人さらいはいたが、この世でもそのような悪人がいるのか。
「だが、相手がわかっているのならば、すぐにでもそやつらを捕まえればよいのではないか?」
「宵闇の黒鴉団は大規模な犯罪者組織だから、下手に手を出すのはまずいんだ。そもそもサムルくんがどこにさらわれたのかもまだわからない……。バルムはひとりでも宵闇の黒鴉団が潜伏していそうな場所へ乗り込むと言い出して聞かないんだよ。あいつは獣人で人族よりも力が強いから、みんなで取り押さえているんだ……」
「……なるほど」
息子がさらわれたとなれば冷静でいられないのも仕方がないだろう。だが、たった一人でその犯罪者集団のいる場所へ乗り込んでも返り討ちにあうだけである。
「そやつらが潜伏している場所はわかるのだろうか?」
「……正直に言うと厳しい。あいつらは魔法の追跡から逃れる術を知っているから、なかなか尻尾を掴めないんだ。それにたとえ潜伏している場所がわかったとしても、この街の騎士団や冒険者たちでは手に負えない可能性も高い。近くの大きな街から援軍を頼んだとしても、その間に潜伏場所を移されてしまうかもしれない」
「そうか……」
小さな街ではそれも仕方のないことなのかもしれない。
だが、もちろん我がこの状況でそのまま指をくわえて見ている気などない。
「ケイン殿、サムル殿の詳しい容姿やさらわれた場所などの詳しい情報を教えてほしい」
「あ、ああ。それは構わないが……」
「レイラも我に力を貸してほしい。この街周辺に詳しいレイラの力が必要だ」
「うん、もちろんだよ!」
……童をさらうとは、外道の極み!
たとえ世が違えど、子は宝であって未来への灯火だ。それを踏みにじった時点で、そやつらを決して許す訳にはいかぬ!
闇を祓うために我ら陰陽師がそこに在る。弓月家六代目当主、弓月夜行の誇りにかけて、いざ参らん!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ここが宵闇の黒鴉団の潜伏場所か。……なるほど、そういうことであったか」
いつも狩りに来ている森とは異なる広い森。その森の奥深くにある人気のない場所に簡易式の野営地があった。野営地といっても、柵と呼ぶには立派な壁にぐるりと囲まれており、まるで小さな防塁のようだ。
奥には金属製の檻の中に入れられた童たちがいることもすでに形代で離れた場所から確認済みである。その中には耳の生えた獣人の子もおり、聞いていた特徴とも一致するのでバルム殿の息子で間違いないだろう。
ケイン殿から聞いた場所へレイラに案内してもらい調査をし、ビャクが賊どもの匂いを辿りつつ形代で周囲を探索してこの場所を探し当てた。魔法とやらの追跡には警戒しているようであっても、式神や陰陽術での追跡ならばそれが可能であった。
「それでは我が皆を救い出してくるゆえ、レイラはスーと一緒にここで待機していてくれ」
「えっ、おじちゃんひとりで行くの!? さっき街へ応援を呼んだのに……」
「あれは念のためだ。童の中には衰弱している者もいたから、すぐに救い出す。スーはレイラをここで守ってくれ」
『うん、任せて!』
すでにこの場所を書き記した報せを形代で街まで飛ばしている。距離的にはかなりギリギリだが、何とかなるだろう。とはいえ、ケイン殿も言っていたが、ここへ来るまでに時間がかかる。
そしてあの街には悪党どもを手引きした者がいる。準備を整えている間にその者から連絡が入り、こいつらが逃げ出す可能性も高い。
「ビャクもここまで助かったぞ。しばし休んでいてくれ」
『……承知しました。我が主、必ず子供たちを救い出してください!』
「ああ、約束しよう」
朝から狩りをして我らをずっと運んでくれたビャクはそろそろ限界だし、なによりここからはゲンが適任である。ビャクを還し、ゲンを顕現させる。
「いでよ、玄武! 急急如来律令!」
『あら、ご主人様。なにかご用……って随分と深刻な様子ね』
「ああ、今から簡単に事情を説明する」
ゲンに現在の状況を説明し、宵闇の黒鴉団の拠点へ真正面から踏み込んだ。
ビーッ、ビーッ。
……正面から堂々と乗り込もうと思ったのだが、拠点の手前まで進んだところで大きな音が鳴る。我が踏み入った場所には何もないように見えたのだが、これが魔道具というやつなのかもしれない。音のなる罠などには気を付けてきたつもりだが、魔道具ばかりはよくわからぬな。
「誰だ! ……ああん、なんでてめえがこんなところにいるんだよ?」
「貴様らがあの街で人さらいの手引きをしていたというわけか」
すぐに見張りをしていた3人が我のもとへとやってきた。そしてそのうちのひとりが我を見て反応する。その男は先日冒険者ギルドで我に絡んできた2人組のうちの1人であった。




