第13話 おっさん陰陽師、昇級する
「……えっと、本当にいいの?」
「ああ、もちろんだ。むしろ古着でよいのか?」
「うん、新品なんてもったいないよ!」
翌日。冒険者ギルドでまた新たな依頼を受ける前に市場へとやってきた。宿と食事がどうにかなったので、衣服を新たに購入しにバルム殿から教えてもらった服屋へとやってきている。
やはり我が着ている狩衣のような服は探してもなく、注文をして作ってもらうこととなった。大銀貨3枚と結構な出費だが、背に腹は代えられない。昨日の宿が2人分で大銀貨1枚なのでその3泊分と考えると、そこそこの値段だ。1着分では足りないが、今は懐にそれほど余裕があるわけではないので、残りはもう少し金を稼いでからだ。
そのついでにレイラの分の服を購入しようとしたのだが、新品ではなく古着でいいらしい。我に遠慮しているのかもと思ったのだが、確かに今のレイラには新品の服よりも実用的な古着を何着か買ってあげたほうがよさそうだ。さすがに今のボロボロの服は変えた方がいいが、服よりもナイフや保存食などを優先して買ってあげた方がいいだろう。
さて、使った分の金をまた稼ぎに行くとしよう。
「お、おう……。これまた随分と狩ってきたものだな」
「バルムおじちゃんだ!」
「昨日は初めてということで簡単な依頼を受けたが、今日は第七級でも少し上の依頼を受けてみたのだ」
街へ戻ってくると、門のところにバルム殿がいた。
今日は朝から森へ行けたこともあり、昨日以上の成果を上げることができた。本当はまだ余力はあるのだが、昨日と同じでビャクの背に載せられないくらいになってしまったので、少し早めに帰ってきた。荷物に限界があるのは仕方のないことだ。
「それよりも昨日はバルム殿のおかげでとても助かった。こちらが借りていた銀貨5枚分の謝礼だ。ぜひ受け取ってほしい」
昨日森から帰ってきた時にバルム殿はいなかったので、借りていたお金が返せなかった。今日も朝街を出る時はいなかったのだが、帰ってきた時はいたので、昨日借りていた銀貨5枚の倍の大銀貨1枚を差し出す。
「ああ~そいうのは大丈夫だ。貸した銀貨5枚だけ受け取っておくぜ」
「いや、バルム殿には世話になったことだし、ぜひ受け取ってほしい」
「ははっ、大した金額じゃねえし、あんまし気を使うもんじゃねえよ。それにあんたはいいやつみたいだしな。その金は自分たちのために使ってくれ」
そう言いながらレイラの方をちらっと見るバルム殿。
古着を買ってあげただけなのだが、そんなことを言う。とはいえ、そう言われてしまっては無理に渡すものでもないか。
「お気遣い感謝する。なにか困ったことがあれば、ぜひ我に声をかけてほしい」
「おう、そん時はよろしく頼むわ」
口調は軽いが、ビャクを実際に見ていることだし、多少は我の力を知ってもらえただろう。金額としては大したものではなかったかもしれないが、新しい地に来たばかりで不安だった我に対して世話を焼いてくれたことにはとても感謝している。なにかあれば力になりたいところだ。
「おめでとうございます、ヤコウ様。本日で第七級から第六級に昇格しました」
「……随分と簡単に昇格するものなのだな」
昨日と同様に冒険者ギルドへ依頼されていた物を持っていくと、しばらく確認をされたあとにいきなり昇格すると言われた。まだ冒険者になってからたった2日目なのにもう上がるとは逆に心配してしまう。
「第七級から第六級は昇級しやすいですからね。それにどちらかというとヤコウ様の依頼達成ペースが異常ですよ……。普通の駆け出し冒険者はひとつの依頼を数日かけてこなすものなのです。特にこのバーリエン草はかなり珍しい素材なのによく1日でこれだけ見つけられましたね」
「ふむ、物探しは得意であるからな」
占いや形代など、物や人探しは陰陽師の得意分野である。それに今日は第七級でも多少面倒と言われていた依頼を受けたという理由もあって昇級できたのだろう。
「こちらが今回の報酬の金貨1枚と大銀貨2枚と銀貨4枚となります。ちなみにこちらの報酬も第七級冒険者が1日で稼げる金額ではないですからね……。3~4人のパーティを組んでも数日はかかると思います」
「なるほど」
昨日は大銀貨8枚だったが、今日はそれよりも多い。あの森に現れる魔物は我や式神の敵ではないし、どちらかというと魔物の死骸を解体したり埋葬したりする時間の方が長い。妖と違って実体があるゆえの面倒な点でもあるな。
とりあえず昨日も含めてある程度の資金を得ることができた。人に害を与える魔物を狩る冒険者という仕事は我に合っているかもしれぬな。
仕立ててもらっている服ができるまでしばらくかかることだし、あと数日はこの街で過ごしてから別の街へ移動するか考えるとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『今日もいっぱい狩れたね~』
「ああ、おかげで金にもだいぶ余裕ができてきたな」
我が第六級冒険者に昇級してからさらに2日が過ぎた。今日も朝から森へ移動し、冒険者ギルドで受けた依頼を達成してきた。今はその帰り道だ。
「服は今日できる予定だし、あとはあのマジックバックという魔道具がほしいところだが、今のままの稼ぎでは難しいだろうな」
「あれはすっごく便利だよね!」
『こちらの世には考えられないような道具があるのですね……』
マジックバックとは、見た目は小さな袋なのだが、それよりも遥かに大きな物を入れることができる魔道具らしい。実物を見せてもらったのだが本当に驚いた。この世の魔法とやらは本当にすごいものである。
あれがあれば森で狩った魔物を楽に運べることができるのだが、便利な分値も少々はるのだ。この街付近にはそれほど危険な魔物が出ないこともあって、一気に大金を得ることができない。
「この5日間でこの街を十分に見ることができたし、そろそろ他の街へ移動しようと思っているところだ。せっかくなら新たな場所へ行ってみたいし、我は海というものをぜひ見てみたい」
『うん、おいらも賛成だよ!』
『そうですね、私も賛成です』
「そうか。レイラはどうする? もしもレイラが良ければこのまま我らと共に来るか?」
「えっ!?」
我の前にいるレイラが驚きの声を上げた。
結局レイラとは出会ってからずっと行動を共にしている。我としても解体や料理のできるレイラがいてくれると、とても助かる。
ここで出会ったのも何かの縁。もしもレイラがこの街に未練がないというのなら、共に旅をするのも悪くない。
「もちろん無理にとは言わぬぞ」
「……ううん、私もヤコウおじちゃんやみんなと一緒に行きたい! それとね、おじちゃんにひとつだけお願いがあるの」
「なんだ? レイラにはだいぶ世話になったことだし、我に可能なことならできる限りのことをしよう」
「あのね――」
『むっ、主! なにやら街が騒がしいです!』
レイラの願いとやらを遮りビャクが叫ぶ。
ちょうど街の門が見えてきたところだが、確かに何やら門の前が騒がしい。街で何かが起きたのだろうか?




