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霜月の柳  作者: Sencho
9/20

家に誘う

その日は、いつもより少し遅い帰りだった。

仕事が立て込んでいたわけじゃない。

終業後に上司に捕まって、どうでもいい確認を何度か繰り返しただけだ。

駅前のスーパーに寄り、惣菜売り場を一周する。

値引きシールの貼られたパックを手に取り、

迷った末に唐揚げとポテトサラダをかごに入れた。

最後に、いつもの缶ビールを一本。

特別な夜ではない。

誰かを待たせているわけでもない。

――少なくとも、少し前までは。

袋を提げて歩く帰り道、

自然と足が柳のあるほうへ向かっていることに気づく。

彼女は、いつも通り柳の下に立っていた。

「こんばんは」

先に声をかけたのは、彼女のほうだった。

「こんばんは」

返しながら、僕は袋を少し持ち上げた。

ただの癖のような仕草だった。

「今日は、遅かったですね」

「うん。ちょっとだけ」

風が吹き、柳の枝が揺れる。

僕は袋の中のビールを思い出す。

一人で飲むつもりで買ったはずのそれが、

急に宙に浮いたもののように感じられた。

言葉が、喉のあたりで止まる。

ここで別れて家に帰る、

その選択肢が、なぜかしっくりこなかった。

だからだと思う。

深い意味も、先のことも考えずに、

その言葉が口をついて出たのは。

「……今から、お惣菜なんだけど」

間抜けな切り出し方だった。

「家で飲むから。もしよかったら……」

一度、言葉を切る。

「君も、来ない?」

言ってしまってから、遅れて現実が追いついてくる。

彼女は、すぐには答えなかった。

そして――

「……うん」

小さく、頷いた。

その夜、

いつもの帰り道は、少しだけ違って見えた。


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