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声の距離
その日も、仕事は長引いた。
改札を抜けると、夜の街は昼間よりも速く流れている。ネオンは明るく、足音はせわしない。
立ち止まる理由なんて、どこにもない街だ。
柳のある道に入ったとき、僕は無意識に歩幅を落としていた。
彼女は、そこにいた。
いつものように、柳の下。
僕は会釈をした。
彼女も、同じように返した。
それだけだった。
でも、その夜は、なぜか足が動かなかった。
「……こんばんは」
声は、思ったよりも静かに出た。
彼女は、一瞬だけ目を見開いてから、ゆっくりと微笑んだ。
その笑顔を見たとき、僕はようやく気づいた。
これは偶然じゃない。
見間違いでも、疲労の産物でもない。
僕は、柳の下に立つ彼女に、確かに話しかけてしまったのだ。




