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霜月の柳  作者: Sencho
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薄れていくもの

 自分では、何も変わっていないつもりだった。

 朝は起きて、仕事をして、夜に帰る。

 それなのに、鏡の前で、自分の輪郭がぼやける瞬間がある。

 体調は、むしろ良かった。

 感情の波が低く、穏やかになっている。

 それが、どこか不気味だった。

「最近、調子いいな」

 同僚に言われる。

「雰囲気、柔らかくなった」

 柔らかくなった、というより、薄くなった。

 夜、部屋に戻ると、彼女がいる。

「おかえりなさい」

 その声で、胸の奥がほどける。

 疲れは感じない。

 代わりに、身体の奥が静かに空洞になっていく。

「最近、少し……透けてる気がする」

 彼女が言った。

「俺が?」

「うん。ここにいる感じが、遠い」

「疲れてるだけだよ」

 即座にそう言った。

 その夜、彼女はいつもより長く、僕を見ていた。

 眠りに落ちる直前、胸の奥がかすかに痛んだ。

 ――自分が、少しずつ軽くなっている。

 それが楽で、それが怖い。

 そのどちらも、まだ選べなかった。


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