プロローグ
ちょっとだけ、今の生活に飽き飽きしていた。
身分に縛られ、階層に縛られ、上にも下にも行けやしない。
そんな日々を過ごしていた中、最近、アグレスの方でいざこざがあったらしい。
そのせいか、凝り固まっていた身分という名の蝋が、少しずつ溶け始めてきた。
その流れに乗って、ほんの冒険のつもりで100階だけ降りてみたことがある。塔のはずれの、大昔に使っていたらしいエスカレーターを使って200階まで。
そこは俺が住んでいる場所よりも、ずっとずっと自由な世界だった。
どんな好奇の目に晒されるのかと身構えていたものの、そこでは身分の差なんてさほど重要ではなかった。
ラズームとソアリが共存している素晴らしい世界。アグレスは予想通り1人もいなかったけれど。
俺が知らなかっただけで、ここはずっと昔からこうだったという。
日に日に俺の行動範囲は広がっていった。主に階下へと足繁く通うようになった。
友達ができた。
顔見知りの店ができた。
知らなかった世界を知ることが出来た。
初めて地べたの階まで行った時は、言葉にできない程の感動を覚えた。
初めて踏みしめる大地。人の根源である、土。
皆はこの素晴らしさを忘れているんだ。
特に、アグレスの人達は。
階下によく足を運ぶようになってから、しばらく経ったある日。階上の世界が気になるようになってしまった。
アグレスの人達が俺達の住んでいる階層にすら滅多に来ないことからして、分かりきっていた事だったんだ。それなのに、俺は忘れていた。
人の温かさに浸って、人の冷たさを忘れていたんだ。
ラズームの主な活動階層からほんの数十階あがったところで、明らかに雰囲気が変わった。
人々の、俺への視線が変わった。
蔑み。
疑い。
訝しみ。
ある人は何故お前らのような格下がいるんだと怒号を浴びせた。またある人は自分の子を守るかのように俺から距離をとった。
それからはもう、階上には行かなかった。
テレビに映るアグレスは、皆揃いも揃って過去の栄光の話、地位の話、自分たちがこの塔を守っているのだという感謝の押し付け。
俺の知るアグレスは、皆こうだった。
だから、アグレスの人達はみんな、頑固で、気難しくて、自分の地位に自惚れている人ばかりだと思っていたんだ。
――ミル、君に会うまでは。
小説を書くの、初めてです。
至らない部分も沢山あると思いますが悪しからず…




