ロイアルヴァルト完成
アカリの荷物は、侍従長、ジェイコフ、プレストンの3人が部屋の中に運んでくれた。 階級はアカリが一番下なのだが、部屋に入れないため仕方がない。
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そうこうしているうちに、新しい組織の名前が決まった。
「ロイヤルヴァルト」
国王に呼ばれ、任命式が行われた。 それは大規模な式典となり、まるで騎士の叙任式のように、国の各機関の代表に対してお披露目となった。 これで、「ロイヤルヴァルト」はサワーシップ国内全体で権威付けられた。
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「ロイヤルヴァルト」ができた頃、プレストンは何を頼んでも拒否せず、こなしてくれた。
まるで、拒否して話し合いが増えるくらいなら、黙ってやって終わらせたほうが楽な選択肢だと思っているようだ。
そんなプレストンを変えたのは、「ロイヤルヴァルト」の面々だった。
アカリは、基本的にプレストンから「何かやりたい」という要望がないことに気づいた。彼は周りからの依頼を選択して、こなす。 しかし、プレストンを観察して、彼の行動には「嫌だけどやる」と「普通にやる」の2種類があることに気が付いた。
アカリはこの2種類を切り口として、「嫌だけどやる」を極力減らしていき、プレストンの「やりたい」を探していった。
サンドラは、組織として圧力をかけてくることに対して全力で彼を護ってくれた。
ジェイコフは、いろんな仕事を探して、王国内を駆けずり回ってくれた。
そんなみんなの献身的な行動のお陰で、プレストンは自己肯定感を取り戻していった。
「ロイヤルヴァルト」ができてからしばらく経ち、みんなの対応のおかげで、プレストンも少しずつ回復していった。 そんなある日、この近隣師団のサムソンから手紙が届いた。
サムソンは、以前、プレストンに剣術を指南してくれていた男だ。
手紙は、「久しぶりに稽古をしよう」という簡単なものだった。 「なんで、今頃になって稽古?」 疑問に思いながらも、指定された場所にに向かった。
道場の中は静まり返っている。 その道場の中心で、フロント・ダブルバイセプスのポーズをとるサムソンの姿があった。 やがてゆっくりと、ポーズを緩め、目を開いた。
サムソンは剣を正眼に構えると、3人に分身した。 「いざ! 参る!!」 3人のサムソンが一直線になって突進してくる。
そ、そんな! 一直線になったら、3分身の意味は何?
すごいスピードで突進してくる1番目の攻撃を大きくかわすと、わずかに体勢が傾いている。 わずかでも体勢が傾いているため、2番目をかわすために動ける範囲が限定された。 その隙に、足をかけられ大きく体勢を崩した。 そして倒され、目の前に切っ先を突きつけられた。
「参りました……」 2人は、訓練場の床に座り込んだ。
「報告書、『ミッドシップの3人組のヴァンパイア』を読んでくれたんですね。」
サムソンは頭をうなだれた。 「こんな基本的なことも教えずに、出征させて……すまなかった……」 サムソンは、前衛・治癒担当・司令官の編成で、部隊を組んで出征になると思っていたらしい。
人を斬ったこともない少年が、自ら人にとどめを刺すということの重みを、理解していた。
サムソンは、プレストンの顔を見た。 「辛かったな。頑張ったな。 通常、新兵の基礎訓練が3ヶ月。魔法使いなら、それ以降に専門訓練が1年。 時間をかけて、精神を鍛え、何を守るための力なのかを刻み込み、信念を作り上げる。 一番大切なことをすっ飛ばして、戦場に送り込むなんて……」
力不足……弱いのは精神……プレストンは、うなだれた。
「信念が形成される前に出征して、自分の中の原点ができぬまま壊れてしまった。 多くの人は、原点を持たぬまま、まるで子供が無邪気に虫を殺すように、流され・慣れていく人もいる。 でも、特別大きな力を持つものが流されて力を行使すべきではない。 命を奪うには、強い信念が必要だ。
だが、今のままではいけない。 今必要なのは、『何のために力を使う』という信念の醸成と、 それを守るための心の強さを身につけなくてはならない。 君の心が、今の状況の中で回り続けているようなら、私の修行についてきなさい。」
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その修行の旅で、プレストンは体力と剣の技能と、サワーシップ国の民を家族のように護る信念を身につけた。 過去の、ミッドシップ国での出来事を受容できるまでに至った。
そうやって、今のプレストンがいる。
修行の旅から帰る頃には、発行される新しい地図には、ミッドシップ国の記載が消えた。 それ以来、プレストンを「ワイプアウト」と呼ぶものが増えていき、 ミッドシップ国の事件も、「ワイプアウト事変」と呼ばれるようになった。




