ヴァンパイア その2
ルミナス・ライトハウスに発言を促されたドリーは、言った。
「私はプレストンと一緒に暮らしたい」と言った途端、ドリーは咳き込み、倒れ込み、吐血した。
そして、ドリーはゆっくり立ち上がった。
「駄目だ、プレストン!
ヴァンパイアになると、行動や言葉にまで呪いをかけられる。
自分の気持ちが発せられなくなる。
魔法だって発動するけど、もはやサドミスト様の声も聞こえない。
こんなの、争いがなくても、幸せのない世界だ。
あなたの魔法で全てを消し去って」
呪いに抗いながら、咳をし、血を吐きながら、ドリーはそう言った。
国王は、赤い目を点滅させながら、言った。
「あなたに、ドリーもろとも吹き飛ばす覚悟はありますか?」
ドクン!ドリーはこちらを見つめている。
何を信じれば?
どうすれば?
「プレストン!」
俺は……
俺は……
ドリーを信じる!
「我が主神、サドミスト!――!!!」
詠唱が、出てこない!
国王が、誇らしげに前に出てきた。
「残念だったな。もうすでにお前は我が術中に落ちている。
お前はもうサドミストの声は聞こえない。」
国王は、勝ち誇っている。
「魔法が封じられた魔法使いなど、ただの人だ。
だが、安心しろ。ヴァンパイア化すれば、すぐに極大魔法も使えるようになる。
そして、我々の為に、世界中の敵対する国を燃やし尽くすのだ。」
何をやった?さっきの赤く輝く目の点滅か?
何にせよ、魔法が使えない。身体も動かない。
そんな僕の状況には関係なく、ヴァンパイアが一歩、また一歩と近づいてくる。
ヴァンパイアがニヤリと笑い、腕を振った。
その瞬間、ヴァンパイアの爪が僕の頬を切り裂いた。
「大丈夫だ、プレストン。その傷に我の血を入れれば、傷も消える。
そして、お前もヴァンパイアになれる。」
ヴァンパイアは僕の血の付いた爪を舐めながら、笑っている。
もう駄目だ!
その時、ドリーの声が響いた。
「プレストン!私は君が大嫌いだ!一人でどこへでも、好き勝手に行くがいい!」
そして、血を吐きながらも、涙を流して、詠唱を始めた。
「サドミスト様!自らの弱さで邪悪に染まった私の言葉に、耳を傾け給え!
今、この世で、あなたに一番近しい子羊が、意に反して邪悪に染まろうとしています!
私の身も、心も、夢も、愛も、未来も全て捧げます!
邪悪を、私もろとも消し去る最後の奇跡を授け給え!十三月の奇跡!」
ドリーは体中が輝き始め、身体の至る所が燃えながら倒れていった。
その光を浴びたヴァンパイアたちは苦しみで叫び声を上げている。
ガブリエルは、全身から炎が出ている。
国王も、司教のルミナス・ライトハウスも、身体のあちこちが燃えている。
ヴァンパイアを先頭に、光の届かない霊廟の下に逃げ込もうとしている。
(今です、プレストン!)
サドミスト様の声が聞こえ、身体も動いた。
「我が主神、サドミスト!人の生き血をすすり、卑劣な悪行を続けた凶悪な魔物に、天の裁きを与え給え!砕け散れ!メテオ!」
今まで見たことのない、超弩級の巨大な光の玉が落ちてきて、教会だけではなく、ミッドシップ国の王都全てを飲み込み、全てを焼き尽くした。
防御結界の中で、プレストンはドリーを抱きかかえた。
僕には使えないはずのない治癒魔法を、必死に願いながら何度も何度も試みた。
しかし、何も発動することはなかった。
その時、ぐったりしたドリーが目を開いた。
ヴァンパイア化していたときの目は、赤い光を失い、以前のドリーの目の色に戻っていた。
「プレストン……ありがとう……もう……いいよ……」
ドリーは、まぶたを開いたまま、空を見あげている。
「プレストン、覚えてる?魔法塾でのこと……
私が魔法を発動できなくて、居残りになってるとき、いつも一緒にいてくれたよね。
嬉しかった……」
そ、それは、僕も発動できなかったから……
「怒られるときも、一緒に怒られてくれて……」
それも、僕も怒られたから……
「いつも、一緒にいてくれてありがとう。わたし、プレストンの事……」
弱ったドリーの表情が一瞬硬くなった。
「私、あなたが大嫌い!だから、あなたは私のことを忘れて、これからも生きていってね……それが、私の幸せ……。」
そう言って、ドリーは動かなくなった。




