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月の子

 卯年の二月二十九日の新月の日、空を一時間以上眺めていると、月の子を授かるという伝承がある。



 二人の少女が空を眺めていた。

「お月見なのに、お月さま出ないねえ」

 飽き々きとして、片方が月見のお供えに盛られた団子に手をのばした。それを、片方が咎める。

「こら、いづき。お供えは次の日に食べないと。今日食べちゃうとバチがあたるんだよ」

「うるさいねえ、うきよ。べつに一個くらいいいじゃない。いっぱいあるんだし、うさぎさんも怒らないよ」

 そのままひょい、と団子を頬張ってしまった。



 十二年の時が経ち、再び卯年の閏年。

 二人のかつての少女は再会した。

 団子を食べたいづきは、子を宿していた。

「相手に心当たりがないことはないが、はっきりと父親はわからない」

 今は荒んだ暮らしをしているというが、両親が裕福であるから、金に困った風はなかった。団子を食べなかったうきよも、実家が太いのだからあまり心配はないだろうとは思っていた。

 友と別れた帰り道、うきよは妙な声を聞いた。可愛らしい少女のような歌声が、空から降ってくるようだ。

「卯年の閏に暗き月 在りや無しやと じっと見りゃ

 供えの団子を 口に入りゃ

 月のうさぎに嫁入りと 月の子 (はら)にくだされる

 十五夜 大きなお月さん 閏のように 仰いだら

 月の子 胎をば飛びだして お月さんへと 帰られる

 月の子 要らぬと云うならば 胎をば祓う他になし

 祝詞のひとつも 聞いたなら

 月の子 あわれに 流れゆく

 祝詞のひとつも 聞いたなら

 月の子 あわれに 流れゆく」

 その歌声をただ事ではないと思ったので、うきよは引き返した。事の次第を話したが、いづきには笑われて、まじめに聞いてはもらえなかった。

 うきよは神社にも頼みこんだが、いづきの両親は縁起でもないと怒るばかりだし、神主も「庭じゅう、白くぬけたうさぎが跳ね回って気味が悪かった」と震えあがり、それきり祈祷を頼まれてくれなくなった。



 そして虚しく十五夜がおとずれた。

 うきよは一日じゅういづきにくっついて、やれ団子が食べたいと言いだせば聞き入れず、やれ窓を開けたいと言っても聞き入れなかった。

 しかし夜になり、家じゅうの隙間から月の光が漏れさすと、いづきはうきよを跳ねのけて、庭に出ていってしまった。

 そしてじっと、大きな美しい月をじっと、じっと見つめた。そのうちにいづきの腹は膨れあがり、ほおずきのように弾けて、真っ白に色のぬけたうさぎが次から次へと飛びだしていった。うさぎたちは雲のようになって、十五夜の月のなかに消えていった。

 おぞましい光景に腰をぬかしながら、うきよが何とかいづきに這い寄ると、腹は血まみれだがどこも破けていなかった。子を宿していたのが嘘のように、ぺったりとやつれてしぼんだ腹に、どこから出たのかもわからない血だけが塗られている。

 それきり、いづきは生きているのか死んでいるのかわからないような体で、死ぬまで目を覚ますことはなかったという。

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