妹に婚約者を奪われましたが、幸せです
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雪のような銀色の長髪に、温かみのあるグリーンの瞳。
背は高くも低くもなく、誰もが好意を抱く笑顔の持ち主。
ライザ・ヴァーダック。
彼女には妹がおり、名前をラウラ・ヴァーダックという。
姉と同じ銀髪で、悪意の満ちた赤い目をした美女だ。
ラウラは昔から我儘ばかりの娘で、両親とライザを困らせていた。
だがその優れた容姿に絆され、両親は可愛がってばかりいる。
その所為で我儘に拍車がかかり、ライザはよく被害に遭ったものだ。
例えば、気に入っていたドレスを奪われたり、可愛い靴を取られたり、数えだしたらキリがない。
とにかくそんな妹を持つライザであったが、彼女が20歳の時、ある事件を起こす。
それは――
「え? レイヴァン様を寄越せ?」
「はい。お姉さまの婚約者、私にくださいな」
自分の婚約者を寄越せなどという愚かな我儘を言い出す。
婚約者を寄越せと言われて、どうして手渡せるものか。
だがラウラにとってはそんなことは問題ではない。
自分が欲しいから欲しい。
これまで我儘を通し手に入れてきたからこそ、今回も同じように姉にねだる。
「そんなの無理に決まっているでしょ」
「無理とか知りません。お姉さまが良いというなら、それで全て上手くいきますから」
「上手くいくわけないでしょ。無茶なことばかり言わないで」
ライザは呆れるばかりであったが、ラウラはクスクスと笑う。
これまでと変わらず、欲しいから婚約者を頂く。
その一点しか考えはないようだ。
「代わりに私の婚約者をお姉さまに差し上げますから」
「差し上げますって……そんなことできるわけないでしょ」
「できますわよ。レイヴァン様には許可を取りましたから」
「なっ……」
「悪いですけど、私たちすでにそういう関係ですの」
勝ち誇ったラウラの表情。
ライザは驚いた顔をし、妹の言葉の続きを聞いた。
「レイヴァン様は侯爵家令息。私の婚約者は伯爵の生まれですから……レイヴァン様は私の方に相応しいと思いませんか?」
「伯爵令息は私の方に相応しいと?」
「私がお姉さまより身分が高くなるのは当然では? だって私の方が美しいんですもの」
当然のような言い草。
姉を見下す発言。
そして絶対に折れない意志。
ラウラには何を言っても無駄だし、譲って当然とその表情が物語っている。
ライザはそんな妹の顔を見据えながら、冷めた声で聞く。
「でもあなたの婚約者――カオス様が納得しないのでは?」
「カオス様も承知してくれますわ」
「え?」
「あの方、私にぞっこんなんです。だから私を自分よりも幸せにしてくれる方がいれば、その人に任せたいと思うはずですわ」
「……そんなバカなことを本気で言っているの?」
信じられないと言った表情をするライザ。
ラウラは姉の顔がおかしく思え、吹き出して笑ってしまう。
「バカほど私のことを愛してくれているの。だから納得してくれますわ」
「そんなにも想ってくれている方を捨ててでも、レイヴァン様と一緒になりたいの?」
「ええ。愛されるだけではダメ。地位もお金も全てがレイヴァン様の方が上ですから。私は全てが欲しいんです」
「……最後にもう一度だけ聞くわ。本当にいいのね?」
迷うことなく首肯するラウラ。
絶対に姉の婚約者を取ってみせる。
そしてそれは確信さえも抱いていた。
「私はレイヴァン様と結婚いたします。それは決定事項ですから」
「分かったわ」
こうしてレイヴァンとライザとの婚約は破棄され、すぐにラウラとレイヴァンとの結婚が行われる。
それから一年、今度はライザの結婚が控えていた。
レイヴァンの屋敷で、結婚式の招待状を見てラウラは鼻で笑う。
(お姉さまも結婚か。私のおさがりだけど、幸せになれるといいわね)
そうほくそ笑むラウラであったが、一つの違和感を覚える。
それは――ライザの結婚相手の名前が違うこと。
ライザの結婚相手は、シヴァ・ファウラスト。
隣国の第二王子だ。
「な、な……どういうことですの!?」
驚愕に震え、穴が開くほど招待状を見るラウラ。
カオスと結婚するはずだったライザが、何故第二王子と?
信じられない気持ちと、姉の身分が自分より高くなる現実。
ラウラは怒りに震え出した。
そして結婚式当日――
豪勢な式場に、名だたる貴族が集まっていた。
レイヴァンはその中でも決して見劣りするわけではないが、ライザの結婚相手が格上すぎ、ラウラは気が気ではない。
そうしてようやく現れるライザとシヴァ。
ラウラはシヴァの顔を見て、茫然としてしまう。
赤髪碧眼の美青年で、背が高く、鍛えられた体は抱きしめられたくなるほどに逞しい。
だが驚いたのはそんなことではない。
シヴァの正体は――元婚約者のカオスではないか!
「カオス様……? え、シヴァ様というのは……どういうことですの?」
目を丸くしているラウラに向かって、シヴァが笑顔で口を開く。
「やあラウラ。実は僕は身分を隠していてね……ありのままの僕を愛してくれる人と結婚をしたかったんだよ」
「え、え……ええ?」
「だから昔から親交の深い友人の家名を借りていたんだ」
「そうだったみたい。ごめんなさいね、ラウラ。こんな良い方を私に譲ってくれて」
「…………」
ラウラの目が血走る。
青筋を立て、歯が折れるほどに噛み締めていた。
「……えせ」
「はい?」
「返せ……返せ返せ返せ返せ! その男を私に返せ!」
「何を言っているのかしら。あの時ちゃんと確認したでしょ。本当にいいのねと」
「うるさい!」
ライザに掴みかかろうとするラウラ。
だがその寸前に、シヴァの友人であるフィンという男が割って入る。
黒髪の美青年である彼は、ラウラを抑えて旦那であるレイヴァンの方に視線を向けた。
「奥様を連れ出してください。迷惑です」
「あ、ああ……申し訳ありません」
「返せ! お前にはこの男がお似合いだ! そっちは私がもらうんだから」
「我儘ばかり言わないで頂戴。あなたも結婚しているし、私ももう結婚が決まった。もう覆すことなんてできないわ」
「うるさいうるさい! あんたは私の言う通りにしてればいいの! 黙って寄越せ!」
「止めるんだ、ラウラ。もう行くぞ」
「泥棒! 私の男を奪ったクソ女! 絶対に取り返すから!」
レイヴァンに引きずられるようにしてこの場を去って行くラウラ。
シヴァは呆れて笑ってしまう。
「まさか、あそこまでの女性とはね」
「だから言ったじゃないですか。昔からああなんですよ、あの子は」
ライザとシヴァは、気を取り直して結婚式を再開させる。
実はシヴァは、元々ライザと結婚するためにラウラに近づいていた。
子供の頃にライザと出会い、彼女と結ばれることを夢見ていたのだ。
ようやく迎えに行く準備が整った時、ライザはすでにレイヴァンと婚約をしていた。
ライザは親から勧められた婚約で、乗り気では無かったことを知り、そしてライザと結婚するためある計画を立てる。
ライザもまたシヴァのことを想っており、ラウラは自分よりも高い地位に立ちたいと考えている旨を説明し、そして友人のフィンの家名を借りて、偽りの名前でラウラと婚約をした。
するとラウラは、二人の策略にはまり、レイヴァンをライザから奪ってしまったのだ。
全て二人の掌の上とは知らず、レイヴァン以上の男性を手放すこととなった。
妹はそれから戻ってくることを許されず、多くの人々が祝福する中で二人は誓いのキスを交わす。
それは互いに想い合う二人の、生涯を共にする永遠の約束。
そして二人はその約束通り、死が二人を分つまで幸せに暮らすのであった……
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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