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【30話】蠢実

――帰宅後。

 

玄関の引き戸を閉めると、外の夜気が遮断され、家の中に少しひんやりとした空気が漂う。

 

煌希は靴を脱ぎ、薄暗い廊下を無言のまま歩いていく


左手奥の燦斗の部屋からは、キーボードを叩く音と、半開きのドア越しにモニターの薄明かりが漏れていた。

 

ボイスチャットの会話が、途切れ途切れに廊下に響いてくる。

 

(……うるせぇな)


煌希は小さく舌打ちしながら、立ち止まらずに自分の部屋へ足を運んだ。



ジャケットを椅子の背に掛けると

そのままベッドに倒れ込み、片腕で額を覆った。


(……あの野郎、何を企んでやがる)


部屋の中は静かだった。

 

壁越しに燦斗の楽しそうな笑い声と、叫び声が混じり合い、別世界の音のように響いてくる。


煌希は目を閉じ、耳を塞ぐように枕に顔を埋める。

 



―――――――――


一方その頃、燦斗は自室にこもり、FPSゲームの真っ最中だった。

 

モニターの画面には、仮想の市街地で繰り広げられる激しい銃撃戦。

 

壁を蹴って角を曲がり、敵の死角に回り込む。

瞬時に照準を合わせ、撃つ。


「よし、一人落とした!……アベコング、カバープリーズ!」


そう燦斗が叫ぶと、フレンドのキャラクターが隣に滑り込んでくる。

そして、ヘッドセット越しに怒鳴り声が聴こえてきた。

 

「誰がコングだテメェ!!!亞唄縷(あべる)様と呼べ!!」

 

「ふっ。うっせぇな〜怒ってる暇あったら撃てよw」

 

「……ぶっ殺すぞ!!」


亞唄縷の荒げた声と同時に、銃撃音が耳元に響き渡る。

 

そんな中、二人が軽口を叩き合っている隙を突くように、敵部隊が一斉に雪崩れ込んできた。


「……って、囲まれてんじゃねーか!!」


マップの四方に赤点が瞬く。

 

別部隊が側面から回り込み、建物の屋上からも弾丸が雨のように降り注いでくる。


「は!?マジかよ〜……アベコングの銃声のせいだなぁ?」


「うるせー!テメェのせいだろが!!さっさと動けッ!!!」


様々な方向から銃撃を受け、過酷な状況の中、

二人のキャラクターは走って遮蔽物の影に身を隠し、戦況を冷静に把握していた。


「クソッ、アーマー割れた……!!」

 

その言葉を聞くと、燦斗はしゃがみ込み、亞唄縷のキャラに回復アイテムを使う。

 

緑色の光がキャラクターを包み、残りわずかな耐久を繋ぎとめる。


しかし、複数の足音が目の前まで迫って来ていた。


「おい、もうそこまで来てるぞ」


「……任せろ」

 

亞唄縷の声が低くなる。さっきまでの怒鳴り声とは別人のように、研ぎ澄まされた声色だった。


敵が一人、角から顔を出した瞬間――。

 

「バンッ!」

 

完璧なヘッドショットが炸裂し、赤いダメージ数字がモニターに浮かぶ。


「ナイスッ!……次来るぞ!」


敵の部隊は一気に詰めてくる。

 

だが、亞唄縷のキャラクターはスライディングで遮蔽物から飛び出し、腰撃ちのまま三人の間を駆け抜けた。

 

視点がブレることなく、まるで吸い付くように敵の頭へ照準が重なる。


「ダウン一枚ッ!!」


その声に呼応するように、燦斗も前へ飛び出す。

壁を蹴って高所を取ると、上からグレネードを投げ込んだ。


ディスプレイに映る戦況が、刻一刻と変わるたび、彼の心臓は高鳴る。

 

時折、モニターの明かりが部屋の壁を照らし、影がちらつく。

 

燦斗が投げたグレネードの爆風で敵部隊のフォーメーションが崩れた。

その一瞬の隙をついて、亞唄縷が確実に仕留めにかかる。

 

「そんなんじゃ、俺に勝てねぇーよザコ!!」


二人の連携で敵部隊を一組、二組と倒し、一気に制圧していく。


「うぉ!俺らいけんじゃね?これ!!」


彼の指先がマウスを握りしめた瞬間――


ゲーム画面が切り替わり、中央に青と金の文字が浮かび上がった。


《The One Remains》

 

派手なエフェクトと共に、二人のキャラクターが勝者として映し出される。

 

燦斗は小さくガッツポーズを取り、口元に笑みを浮かべる。


「いや、ほんっとナイス!エイムも中身もキレキレだな。やっぱアベコング最強だわw」

 

「あったりめーだろ!てか、燦斗その呼び方いい加減やめろ!!ぶっ壊すぞ、お前のPC!!」

 

その笑顔は、学校の成績や家の事情も、外で何が起きているかも、一切気にせずに心から楽しんでる証だった。

 

彼にとって、今は目の前の勝負(バトル)だけが全てだった。


燦斗の笑顔がモニターの明かりに照らされている、そのすぐ横で、卓上に置かれたスマホの画面に……突然ノイズが走った。

 

黒と白の乱れの奥に、“目”のようなものが一瞬浮かんだが、すぐに消える。


しかしその異常に燦斗は気づかない。

 

完全勝利の余韻に浸り、叫び声や笑い声を上げている。


モニターの明かりに照らされ壁に浮かんだ影は、楽しげな彼を嘲笑うかのように、怪しく揺れていた。

 


―――――――――

 

冷たい空調の風が、重く淀んだ空気を押し流していた。

 

暗闇に浮かび上がるのは、壁一面を覆う大小無数のモニター。

青白い光が机や椅子、そしてその中央に座る男の輪郭を淡く縁取っている。


アスバは高背の椅子に深く腰を沈め、組んだ脚の上で両手の指を組んでいた。

 

姿勢は崩れているが視線は鋭く、画面を睨んでいる。


モニターには、都市の監視カメラから吸い上げられた映像がひしめき合っていた。

 

――駅の改札で人波を縫う通勤客。

コンビニで酒を抱えてレジに並ぶサラリーマン。

車載カメラが捉える深夜の交差点。


そして、それらに混じって別の画面ではSNSのライブ配信が、際限なく垂れ流されている。

 

高額転売の取引。

自称インフルエンサーたちがフォロワーを煽る投稿。

選挙演説の裏で笑顔を作る政治家の映像。

 

別のモニターでは戦争報道のテロップが流れ、その下には株価のチャートが脈打つように上下を繰り返していた。


アスバの唇が、わずかに歪む。

 

「……欲と欺瞞、醜悪なものほど、この世界じゃよく回る」

 

低く吐き出すその声音は、冷ややかに世間を見下す傍観者のようだった。


椅子をゆっくりと回し、別の壁一面のモニター群を映す。

 

そこでは、市民同士の小競り合いが映っていた。

 

「差別」「権利」「自由」といった言葉がSNSのタイムラインを埋め尽くし、同じ口で侮辱と罵倒を浴びせ合っている。

 

それらは瞬く間に拡散され、いくつかは「正義」の看板を掲げられてトレンド入りしていた。


「……正義の皮を被った暴力。実にわかりやすい」

 

アスバは腕を組み、淡く笑った。

 

「そしてそれを望んでいるのは、他ならぬ人間自身……滑稽だ」


モニターの一角に、監視対象のリストが表示されている。

 

顔写真、氏名、年齢、居住区、家族構成、日々の行動パターン。

 

すべてがデータ化され、映像や文章と結びつけられて並んでいた。


そのとき、背後で扉が静かに軋み、小さな開閉音が響く。

 

カツ、カツ、と規則正しい革靴の音が近づく。


「アスバ様、報告がございます」

 

声の主は日蘭鴉會の幹部の男だった。

制帽を目深にかぶり、表情は影に隠れている。


アスバは振り返らずに応じる。

 

「……言え」


「例の“真なる神(イリア)”の器――天國 熾埜の居所を確定しました」

 

短く、しかしはっきりとした報告。


アスバの瞳がわずかに細まる。

 

「……ほう」


男は続けた。

 

「海沿いにある、古い石造りの教会に併設された邸宅です。」


アスバは、壁のモニターのひとつを指先で軽く示した。

 

直後、その画面が切り替わり、夜の石畳とアーチ状の門の建物が写った写真が映し出される。

 


それを見た彼は一言だけ落とす。

 

「……監視を続けろ」


男は頷き、敬礼すると音もなく退室していった。

 

部屋には再び、モニターの光とファンの低い唸りだけが残る。


アスバは椅子に深く沈み直し、映し出された写真を眺め続けた。

 


「さて……舞台は整いつつあるな」


椅子の背に深く身を預けると、ゆっくりと目元の仮面を外す。

 

露わになったその目は、赦しを与える者ではなく、裁きを待ちわびる者のような目をしていた。

 


モニターに広がる街全体の様子や情報が、一つの祭壇のように彼の前に広がり、新たな舞台の幕開けを待ちわびていた。

 

 

―――――――――


熾埜は、部屋の小窓をわずかに開け放したままベッドに腰を下ろしていた。

 

外からは、遠く砕ける波の音が聴こえる。

ランプの柔らかな灯りが、天井の梁をぼんやりと照らしていた。


(……もっと自由に暮らしたい。)


そう思った途端に、窓の外で風見鶏がキィキィ……と不気味な音を立てた。

 

その音に反応した熾埜は咄嗟に窓を閉め、鍵をかける。

 

部屋にこもった静けさが、耳を塞ぐように重たく感じられた。


ベッドの上の枕元に置かれたぬいぐるみのマウーが、今にも落ちそうなほど傾いていた。

 

熾埜はぬいぐるみをそっと立て直すと、

ベッドに潜り込み、掛け布団を肩まで引き上げる。

 

目を閉じ眠ろうとするが、数日前から繰り返し見る夢の光景が脳裏に浮かぶ。


***

 

――そこは霧が薄く漂い、永遠に時が止まったかのような静謐さが広がる空間。


ひび割れたコンクリートの隙間から、絶え間なく火花が散り、空気を焦がしている。

 

重く立ちこめた灰色の空の下、濃い霧の中に立つ黒い影。


遠くで雷鳴が轟き、紫の稲光が霧を切り裂くたび、その影の輪郭が一瞬だけ浮かび上がる。

 

「……熾埜。」


夢の中、その影は必ず彼女の名を呼ぶ。

低く、囁くような声で。


熾埜はただ見つめることしか出来ない。

 

声を出そうとしても、夢の中では声が出ない。

その姿を目視出来ぬまま、影は霧に吸い込まれて消えていく。


***

 

そして夢から目が覚めると、胸の奥がざわつき、鼓動が早鐘のように鳴っている。


熾埜は目をつぶったまま深呼吸をして、マウーを抱きしめる。

 

ぬいぐるみの小さな鈴が、かすかにチリンと鳴った。


やがて呼吸がゆっくりと落ち着き、眠りが近づいてくる。


机の上に置かれたリングが、誰も触れていないのに……僅かに震えていた。



 

―――――――――

 

宰は片膝をつきながら銃口を持ち上げ、迫ってくる人型異形の左脚を狙い撃った。

 

乾いた破裂音と共に、黒ずんだ肉片が飛び散る。

 

しかし、異形は怯むどころか、ガクンと崩れた姿勢のまま、異様に長い腕を振り回しながら迫ってきた。


「……くそっ、しぶといな!」

 

銃を撃ち続ける宰の耳元を、鋭く冷たい声が抜ける。


「足を狙っても無駄だ、多分あの様子だと……関節が別の場所にある」

 

ユンは素早く異形の背後へ回り込み、腰の鞘から無骨な刃を引き抜いた。

 

刃渡りは短いが、鍛え抜かれた鋼が燭台の明かりを弾く。


異形は軋む音を立てて上半身を反転させ、赤い眼をギラリと光らせた。

 

鎖がアスファルトを引きずる音が、金属質な悲鳴のように耳を刺す。


次の瞬間、ユンの刃が異形の膝裏を深く裂いた。

 

腐臭を伴った暗い液体が飛び散り、壁に斑点を描く。

 

それでも異形は倒れず、腕を振りかぶってユンを薙ぎ払おうとする。


「……っ!」

 

ユンは身をひねってそれをかわすが、錆びた足枷が宙を掠め、火花を散らした。


「下がれ、ユン!」

 

宰は声を張り上げ、銃のスライドを引くと、弾倉を入れ替えた。

 

貫通弾が薬室に送り込まれる金属音が、短く響く。


照準を赤い眼に合わせ、引き金を引いた。

 

炸裂音と同時に、弾頭が異形の眼窩を貫き、奥で小さな閃光を弾けさせる。


異形は断末魔のような金切り声を上げ、のけぞった。

 

数秒の硬直の後、全身が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。

 

足枷が地面に落ち、ガラン……と虚しい音を響かせた。


宰は荒い息を吐き、銃口をわずかに下げる。


「……こりゃ〜ゾンビの巣窟だな。」

 

ユンは刃を振って血液を払うと、慎重に異形の亡骸を見下ろした。

 

その中に混ざる、微かに鉄錆のような血の匂い。


人間(ヒト)の血に…なにか混ぜてるのか……?」


二人は異型の亡骸を超え、足音を殺しながら進む。


奥の闇から、湿った風がゆっくりと流れてくる。

通路の壁はところどころ剥がれ落ち、湿気が黒い染みとなって這い上がっている。


遠くで水滴が落ちる音が、間延びして響く。


突き当たりに来たところで、二人は足を止めた。

 

行く先は無骨な鉄板で塞がれ、進路は完全に途絶えている。

 

「……行き止まりか。ったく、とんだニセ情報掴まれたな?ユン。」


宰は舌打ちし、ユンを軽く睨んだ。

しかしユンは気にも留めず、周囲を見回していた。

 

壁際の錆びた配管の隙間に、わずかに人が一人通れる空間が口を開けている。

 

暗く、狭く、湿った空洞。

 

そこから微かな空気の流れが伝わってくる。


ユンは静かに顎をしゃくり、指先でその空洞を示した。

 

「……いや、ツーチャン見て。まだ先がある。ほら。」


宰は眉をひそめ、示された方へ視線を向けると、吐き捨てるように言った。

 

「はぁっ!?ここの中通るんか?やめとけって。もう帰るぞ……」


ユンは肩越しに宰を見やり、淡々と告げる。

 

「……帰りたいなら、一人で帰りなよ。我はまだ先に進む」


「あぁっ!?こんなとこ一人で帰れるかボケッ!」

 

宰は声を荒げながらも、結局ユンの後を追って狭い空洞へ足を踏み入れた。

 

肩をすぼめ、配管の間を這い進んでいく。

 

湿った鉄の匂いと、熱気を帯びた蒸気が頬を焼く。

 

宰は狭い空間を体を捩じらせながらユンの後ろを追従していた。


進み続けると、微かに光が漏れる一角に辿り着く。

 

白い蛍光灯の明かりが下から漏れ、四角い点検口の縁を照らしていた。


ユンは無言で匍匐(ほふく)を止め、指先で点検口の金属を押し上げる。

 

ギィ……と鈍い音を立ててパネルが持ち上がり、室内の光が強く差し込んだ。


ユンは静かに身を翻し、するりと音もなく床に降り立つ。

 

宰も点検口に手をかけると、後に続いた。

 

そこは格子と鉄檻が並ぶ、不気味な研究室のような区画だった。



壁際に並ぶ檻のいくつかは特殊な強化ガラスで覆われており、内部は赤い蛍光灯に照らされていた。


その中では、先程襲いかかってきた犬のような獣型のゾンビが、首を不自然に傾けながら檻の中を徘徊していた。

 

こちらの気配に気づくと、腐りかけた皮膚が垂れ、鋭く伸びすぎた歯をガラスに打ち付けて「ガンッ」と乾いた音を立てる。


低い唸りや、不気味な呻き声が各檻から聴こえてくる。


宰は反射的に一歩下がり、銃を握る手に力を込めた。

 

「おいおい、マジでヤバそうな所きたやん……」

 

マスクで隠れて見えないが、彼の額には汗が浮かび、口元は引きつっていた。


一方、ユンは微動だにせず、ただ冷ややかに檻の中の様子を観察していた。

 

「……これらは“失敗作”か。あるいは実験の途中、だな」


ゆっくりと歩を進め、次の檻に視線を移す。

 

隣の檻には、人のような異型がうずくまり、ガラス越しに虚ろな瞳で二人を見上げていた。

 

四肢はねじれ、背骨が盛り上がって奇妙な瘤のようになり、呼吸のたびに胸郭が異様に膨らんではしぼむ。


宰はさっと視線を逸らす。見てはいけないものを見てしまったかのような気分だった。


肩を震わせながら背を向け、立ち去ろうとしたその瞬間――檻の中をじっと見つめていたユンが、淡々と告げた。

 

「……此処にいるのは皆、異人(アベラント)だ。さっき地上で戦ったヤツも……同じ」


その台詞を聞いた宰は、思わず足を止める。


異人(アベラント)やと……?でも見た目が完全にバケモノやんけ……。」


ユンは宰の方を見て、言葉を継いだ。


「異人ってのは、覚醒した直後にある程度力を使うと、そのまま息絶えるか、もしくは運が良ければ克服し力を保持したまま生きられる。」

 

「……あぁ、それは知っとる。」

 

「だが……克服できても、力を使い続ければいずれその身を蝕まれ、心も肉体も、こうして異形へと堕ちていく奴もいる。」


そう言い終えると、彼の視線は檻の中の歪んだ異型に視線を戻す。


宰は目を細め、唇を噛んだ。

 

「……っ。そんな話、聞きたくなかったわ…。」


ユンは宰を横目で一瞥すると、何も言わず歩を進める。


その後を、宰は下を向いたまま着いていく。

 


檻の区画を抜けると照明が暗くなり、その先にはいくつものカプセルが整然と鎮座していた。

 

液体に満たされたカプセルの中では、何か得体の知れないものが蠢いていた。

 

半透明の肉片が内側からガラスに押し付けられ、気泡と共に形を変えては消えていく。


さらにその奥――。

 

他のものとは異なる、円筒状のカプセルがひときわ異様な存在感を放っていた。


二人は警戒しつつも、その存在に吸い寄せられるように近づく。


やがて目前に迫ると、円筒の内側のシルエットが、闇の中からじわりと浮かび上がる。


その中に収められていたのは――

無数のケーブルに繋がれた人間だった。

 

管が皮膚に食い込み、呼吸の度に胸が上下しているが、生きているのかは定かではない。


カプセルの下部に刻まれた識別コードが、赤い光に浮かび上がる。


――“EX-Λ(イクス-ラムダ)”。


その文字を見たユンは、目を僅かに見開く。

 

その瞬間――低く、重く、心臓を打つような鼓動音が辺りに響き渡った。

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