【第七話 魔法の練習をしました(崩壊)】
今日は入学式の翌日。
ーーつまり、一日目の学校だ!
ということは、ヴェラージェ様に会えるということだ!
楽しみすぎる。
今、時刻は朝3:20。早すぎた。
まだレイすら起きているか起きていないか怪しいところだ。
シャーと、隣の部屋からカーテンを開ける音が聞こえた。
レイが起きたようだ。
レイは多分4:00くらいに私の部屋にやってくる。そして、私が寝ているのかを見に来る。(家では朝5:00まで起きちゃだめってルールがあるんです。)その後、花の水をあげたりと働いてくれるのだ。
ーー働いてくれるのはいいんだけど、全然休んでない気がするから心配だな。休暇を取るように言わないと。
毎回提案するたびに拒否されてしまう。私の世話をするのが楽しいらしい。主思いで良いメイドだ。でもやっぱり休んでほしい。
ベッドの中が電気で明るくなったことを確認した私は、一冊の本を持ち込み、開く。
『魔法の使い方ー基礎編ー』である。折角魔法の使える世界に来たことだし、満喫したいのだ。ちなみに、昨日の監査を経て魔法が使いやすくなるらしい。
「え〜と?風の魔法が使いたい場合は頭の中で風の吹かせ方を思い描き、思ったことを口にする、まずはそよ風を思い浮かべて見るとよい、か。」
ーー風、ねぇ。
そういえば昔乙女ゲーで見た主人公は風で竜巻起こしてたっけ?などと思いながら、言葉を発する。
「竜巻」
ほんのり水色の光をまとった渦巻きが見えたかと思いきやものすごい勢いをまとって加速する。
流石に初手から竜巻が本当に出るとは思っていなかった。しかもこんな派手な演出付きの。
ーーていうか、こんな事できるんだったら、才能あるんじゃね?私、魔法学極める?悪役令嬢様のために。
そんな思考に浸っていられてのもつかの間。
今の時刻を確認しようと身を乗り出すと、部屋が荒れていた。言葉に出来ないほど。なんだろう、大地震レベルの崩壊具合かな?
廊下からメイドたちの声が聞こえる。ついでに誰かが走ってくる音も聞こえる気がする。
ーーバレたかもな。
その瞬間、ドアが開く。レイだった。
レイは驚いたような、呆れたような複雑な表情で言った。
「クラ様?一体何をなさったんです?」
それもそのはず。なぜなら崩壊した部屋の中心で私が一人佇んでいたから。
「…もしかして、魔法の練習でもなさっていたと?」
ーーさすが家のメイド!察しが良くて結構!っていう場合じゃないよね、うん。まずはどうやってレイの怒りを回避するかってとこかな。
そう、私は三年ほど関わっていく中であることを知った。レイは昔は森で遊んでいたときに親友になり、そのまま家のメイドとして働くことになったとか。だから、怒こっている時は私の愛称クラと呼ぶのだった。
ま、ここは自信を持って行くとするか!
「ふふっ、ようやく私の素晴らしさに気づいたようね、レイ。初めての割にはかなり上位の魔法でしょう?私、魔法の才能があるみたいなの。」
ドヤ顔を忘れない。するとレイが至近距離にやってきた。
ーーなんですかっ?恋人距離ですか、レイさん?(そんなわけない)
むにぃーっと頬をつねられる。
「クラ様?貴方はなんてことを…」
ーーひぃっ、顔にまで怒りが滲み出てる!
「えっと、これは、その、今日の練習ですのよ?せ、先生からも"部屋で"練習すると良いと聞きまして…」
「クラ様?私、分かるんですよ。クラ様が今嘘をついていることくらい簡単に。どうせやってみたらこうなったんでしょう?」
図星をさされて反論ができなくなってしまった。まったく、どうしたものか。
「図星なんでしょう?まず、謝ってください。そして、なぜこうなってしまったのか考えたうえでしっかりとご自身で反省なさってくださいね?それでは、部屋を片付けますので。くれぐれも同じ行動はしないように。」
「はい…」
ーーレイ、絶対怒ってる。どうしよ〜。レイの機嫌損ねると辛いし、ほんと悲しい。お願いだからなんとかしてほしいなぁ。
ーーでも、同じことは、しちゃだめであった、違うことならいいと。そういうことですね?
気づいた私、天才なのかな。
頭の中にシャワーを思い浮かべる。レイもシャワーを浴びたら気持ちがさっぱりするはずだ。
「シャワー」
レイの頭上からたくさんの水が降り注いで怒られたのは言うまでもない。
ーーこれまで以上に機嫌損ねちゃったかも。どうしよっか。
かくして、初日(悪役令嬢とのご対面)は膜を開けたのだった。