【第六話 資料をもらいに(コミュ力怖い)】
これからの投稿予定です。
水・土・日の16:00からです。
追記:カクヨムでも掲載しております。
よろしくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/16818093089578906959
「…失礼します。」
入学式が終わった達成感と、これからの生活に対する緊張感に溢れた教員室に足を踏み入れる。
綺麗な内装、そして雰囲気。さすが貴族の学校だ。
ーー乙女ゲームの世界に入って3年ほどったった今でも、こういうの見ると圧倒されちゃうんだよな…家はだいぶ慣れたけど。
さて、先生は何処だろう。前世の学校と同じなら教員室の前に座席表が貼ってあるはずだ。
入口の前をふらつく。そこで真新しい紙が数枚貼られているところを見つけた。
「あった!?」
ーーまさか、本当にあるとは思わなかった。勘が鋭いのかもしれない。
すぅ、と息を吸い呼吸を落ち着ける。
こういうところって、緊張するし、ちょっと怖いんだよね…今でも。
「一年D組は…ここだっ!」
場所がわかったら何も怖くない。悪役令嬢らしく凛々しくいかなくては。
覚悟を決めた私はコツコツと靴の音を鳴らし、先生のいる机へと向かう。
「あれ?さっきの子じゃん!名前聞けなかったし、教えてよ!」
さっき、入学式で席を教えてもらった、人懐っこそうな子だ、と思った。
あいにく、私は名乗っていなかったし、結局この子の名前は注意で聞き取れなかった。いい機会だし、聞いておこう。
「クラーツェ・シセトリトですわ。ごめんなさい、先ほどの騒音で貴方のお名前が聞き取れなかったわ。もう一度、堂々と名乗っていただけるかしら?」
ーーかなり言葉遣いが良くなった気がする。ちなみにこれは、前世で一番好きだった悪役令嬢が最初に言っていた言葉を少し改造したものだ。
「僕は、イアン・カーゼだ!イアンでいいから!」
イアンというらしい。初対面(一応2回目)ではあるが下の名前呼びをしてくる時点で大分人懐っこいといいうか…コミュ力が凄い。もしかしたらこの学校一のコミュ力の持ち主かもしれない。前世で陰の存在だった私にはちょっと難易度が高すぎる。
ーーそういえば、なんでイアンもここに来たんだろ。
すると、私の思考を読み取ったかのようにイアンが言った。
「クラーツェはなんでここに?」
人懐っぽく、笑いながら首を傾げる。自分より身長が少し高いはずなのに、可愛く見えてくる。これがいわゆる犬系男子?
でも、表面は悪役らしくしっかりと言葉を発する。
「入学式に遅れたので資料を貰いに来ただけですわ。貴方は?」
「僕も資料をもらいにっ!」
ーーあれ、イアンって最初からいたような気がするんだけど。
不思議そうにしているとそれすらもコミュ力一位は察したのか
「僕は最初の資料配る時はいなくて2回目はいたんだけど、斜め後ろの人と話してたらもらい忘れちゃって‥」
ーー何?斜め後ろの人と話すっていうパワーワード聞こえたんだけど?え、学年一怖すぎない?世界一なのかもしれないよ、これ。
「一緒に行ってもいい?」
ニッコニコの笑顔で問いかけてくる。
ーーこういうのはコミュ力皆無の私に聞くことじゃないって察して?今まで誰かと一緒にとかほぼなかったし、それに、なったとしても余り物として扱われてたんだよ?
…でも、こういうのって幼稚園の時以来だし、ちょっと嬉しいかも。
「どうしてもと言うなら。」
予想以上に冷たくあしらってしまった。久しぶりの事過ぎて緊張してしまったせいでおかしくなってしまったのかもしれない。
ーーあぁ〜。どうしよ、これで一緒にいかないとか言われたら。ほんっと、なんでこんなこと言っちゃったんだろ。
言った数秒後に言葉に後悔してしまう。でも、そんな心配をかき消すようにイアンの明るい声が響く。
「んじゃ、一緒に行こ!一人で行くのなんかヤダ。てか、どうせ同じ場所行きたいんだし変わらないか!」
コツコツと2人分の靴の音がなる。
ーーん〜、なんていうか、嬉しいなぁ。
自然と方が緩んでいることを感じ、引き締める。
「お。お前らD組のカーゼと、シセトリトだな!俺はお前らの担任だ。資料だよな。ちょっと待ってろ。」
突然背後から手を置かれて驚いたが担任の先生だったようだ。雰囲気からすると体育会系なきがする。
ーーそして、イアン、といえば、ちゃっかり先生と握手をしている。さすが、コミュ力世界一。いや、それに応じたり、いきなり肩に手を置く先生もコミュ力世界一か。
コミュ力世界一競ってる気がする。私には一生頑張っても届かないなぁ。
色々考えていたら、ふと紙束が渡された。はっと思い前と見ると先生がいた。
「よし、これがお前らの資料だ。一年間よろしくな。俺は仕事に戻るからまた。
そうだ、シセトリト。」
「なんでしょう。」
なんだろう。
「豪快な入場で良かったと思うぞ!」
ーーえ。もしかしてそんなに注目集めてたのかな。
一気に恥ずかしくなる。
先生と離れた後校門で従者たちが来るのを待っていた。
ふと、見慣れたメイド__レイ__の姿が見えた。
「クラーツェ様、お迎えに参りました。」
「レイっ!帰りましょう。」
色々合ったせいか、見慣れた人を見ると安心する。
ーー三年近く経ったけど、もう、ここが私の安心できる場所なんだ。なれるのも意外と早いもんだな…
しみじみとした気分になっていた私はその時、湖のように深く、青い瞳の持ち主イアンが純粋な眼差してレイを見ていたことに気づかなかった。