【第三話 学園入学初日(ゲームスタート)】
風邪のため、少し休んでいました。
「おはようございます。クラーツェお嬢様。」
「えぇ、おはよう、レイ。」
メイドに軽やかで爽快な返事を返した私はこれまで悪役令嬢になるために連ねてきたノートを見た。
そして、今日の日付と、始めてからの日数を記入する。
ーー今日で999日、か。ちょうど入学式の日だなんて、まさに悪役令嬢感あるよね?
ちょっと縁起の悪い数字に悪役令嬢みを感じてしまう。
朝食を済ませ、制服に身を包んだ私は、鏡を見ながら考える。
ーー私が今日から通うセイレーア学園はどんなところなんだろう。でも、一番楽しみなのは、今日は悪役令嬢に会えるかもしれないこと!もちろん、同じクラスであることを願いたい。
完全にフラグを立ててしまった気がする。まぁ、違うクラスでも探しに行って友だちになって見せる。
鏡から離れたあと、再びノートに向かう。
ーーまず、、今日の及第点は悪役令嬢の顔と名前を知ることだよね。あわよくば、お話したいけど、それは後々ね..
ノートに今日の目標を書いた私はメイドのレイに手伝ってもらい入学式の準備をした。
「行ってらっしゃいませ。クラーツェ様。」
たくさんのメイドたちに送られて私は家を出た。
一応モブキャラでもお嬢様だから一人のメイドと一緒に馬車で学園に向かう。
ーー馬車とか、乗ったことないし、ちょっと楽しみ。まさにゲームの世界って感じするよねぇ。
レイにエスコートされて馬車に乗る。意外とふかふかだった。いい素材を使ってるんだろうな。
「クラーツェ様。お加減いかがでしょうか。」
「えぇ、大丈夫よ。」
家のメイド、主人の体調を凄い気遣ってくれている。正直言って、前世ではそこまで気遣われることはなかったから、嬉しいし、少し恥ずかしい気持ちになってしまう。
馬車が動き出した。もうすぐで悪役令嬢に会える、そしてきっと、この乙女ゲームはスタートする。
ーーこれから大変なことが待ち受けているはず。でも、悪役令嬢を幸せにしたい。そのためには、誰よりも頑張らなくては。
覚悟を決めた私は次の瞬間激しいめまいに襲われていた。
__馬車酔いだ。前世から乗り物酔いは激しい方だったのだが、クラーツェもかなり乗り物に弱い。
その後学園の前までついて、はぁ、と溜息を付いていたのだが、今日のことを思い出して、気を引き締める。
一緒にいてくれるだけで安心するレイが来れるのはここまでだ。
「クラーツェ様、大丈夫ですよ、心配しないでください。」
「えぇ、そうよね。ありがとう、レイ。」
レイの一言で、期待と覚悟を胸に、私は学園へと足を運んだ。
__次の瞬間だった。私は、見てしまったのだ。
「ちょっと、そこのあなた?どいてくださらない?通行の邪魔ですわよ。」
「えっ、あっ、はい!すみません、今すぐどきますっ!いったぁ…」
待望の悪役令嬢と物語のヒロインを。
どんな見た目かって?それは、もう、神々しいよ?まず、立ち居振る舞いが凛々しくてカッコいい、そして、お団子のちょっと緩い感じの髪型をしていて、制服を着こなしている。それでいて、悪役。でも、相手に危害は加えない。
ーーこれぞまさに!私のドストライクな推しじゃないですか?てか、声良すぎません?耳元で囁いてもらいたい(オタク)
そして、勘づいてしまった、これは物語の始まり、つまり、ヒロインの攻略対象との出会いのシーンであるということに。
「君、大丈夫かい?」
「はっ、はい…その、ありがとうごさいます!…怖かった…」
ーわぁ、案の定出てきたね、攻略対象さん。でも、違うよ…求めているのはそれじゃないんだ…
そういえば説明を忘れてしまっていたが、ヒロインは桃色の髪で、ツインテールをしている。全体的にふんわりとした雰囲気を感じる。体系もすごくいい。さすがはヒロイン、といったところだ。
「ヴェラージェ、何をしたんだ?こんなことをしていいと思っているのか?」
「わ、私何もしておりませんわよ。ただ、邪魔になっていたので注意をしただけです。ここに止まっていたのが悪いのですわ。」
ーーヴェラージェ。ヴェラージェ、ヴェラージェ?こ、これは、悪役令嬢のお名前!?
い、今すぐにでも話しかけたい…あと、ちょっと不利な状況にいるから助けたい。前世の私の欲が勝ってしまう。
「ヴェラージェ様!!!!」
ーーっ、言ってしまった。どうしようか。流石にあの場に乱入したのは良くなかった。いくら欲のある私でもわかってしまう。
周りの人の目が点になっているのがわかる。こうなったら、いっそのこと恥じらいなんて捨ててしまえばいい。友だちになるより先に、まずは助けないと。
「な、なな、なんですの!?いきなり私の名前を叫んで。」
「君は何だい?見たことないけど。」
「え〜と、あなたは?」
ーーそりゃあ、モブキャラですから関わりないでしょうね!
「私は、クラーツェ・シセトリトですわ。以後お見知り置きを。貴方がたは?」
せっかくだから、ヒロインたちの名前も知っておきたい。一応、乙女ゲーム好きだから。
「僕はエーセア・セリシスだ。こっちは婚約者の、」
「ヴェラージェ・ミセリアですわ。」
「私は、アイレシカです!」
自己紹介はこんなときでもちゃんとするんだ、なんて思いながら私は要件を言う。
「ありがとうございます。」
「それで、君..クラーツェは何がしたいんだい?」
私は、緊張しながら、
「そうですね、誤解をまずは解きたいと思います。それと、ヴェラージェ様に友達になっていただきたいです。」
言葉を紡ぎ出した。
次回は10/30 16:00~です。
次回は【始業式】です。